赤き水。

悲痛の歌。

燃え上がる炎。

広がる死。

壊滅の街で哀しみの言葉が心に残る。

だけど、その想いに答える事が出来ず。

死に逝く街に何も残せず。

ただ――――去る。


『助けて』と云う言葉すら置き去りにして――――…………。








瞼の上から光を感じる。
遠くから小鳥の鳴き声も聞こえてくる。
暖かなまどろみの中、祐一は目を開く。

「あさ……か……。嫌なモン見ちまったな……」

それは記憶。
真新しい哀しみの記憶。

「まっ……、夢で落ち込むのはガラじゃねぇしっ」

ぐん、と跳ね起きる。

「元気に起きますかっ……ってさむぅ!!」

元気が萎えるほどの寒さだった。
外を見ると一面の銀世界。
この景色を見ると雪華都に帰ってきたんだな。と思える。
……そして、この寒さを感じると故郷に帰りたい。と思う。

微妙にヤな感傷をやめ、着替えて1階に下りる。

「おはようございます。秋子さん」
「おはようございます。早いですね。祐一さん」

キッチンで朝食の準備をしていた秋子が返事を返す。名雪はまだ起きてないのか姿が見えない。
彼女はにこりと心が和む優しい笑みを浮かべる。
昨晩の事で何かリアクションがあるかと思ったが杞憂に終わったようだ。

「コーヒーでいいですか?」
「はい。お願いします」

昨日は飲めなかったし。
しょうがないとはいえ勿体無いことをしたなぁ……。

「そういえば名雪の奴起きなくても大丈夫なんですか? 学校あるんでしょ?」
「もうそろそろ目覚ましが鳴る時間ですね……、あの娘は朝が弱くて困ってます」

憂いの表情をする秋子さん。色っぽいです。

「ところで祐一さんは準備終わったんですか? 道は名雪に案内させますけど」

準備って何のですか? とは言えなかった。例え言っても秋子の耳には届かなかったろう。
それくらい強烈だった。この破壊音は。

「あ、秋子さん! なんですかこの音!!」
「名雪の目覚まし時計です」

こ、これが!? 近所迷惑とか言うレベルじゃねぇぞ!? つか、鼓膜が破れる!!

「ちょっと、止めてきます……」

名雪が止めてるだろうけど、鼓膜のために一刻も早くこの音を消したりたいと云う想いで階段を駆け登った。
ノックもせずに勢いのままにドアを開け、破壊音が更に響く……。

「マ、マジかよ……」

部屋いっぱいにある何十個の目覚まし時計。
それが鳴り響く中で熟睡する名雪。
目の前の事実よりこの音を何とかするのが先だと思い出して、高速で音を止めていった。
全部を止め終わると今度はその原因となる物体に掴みかかる。

「おい! 起きろ! 名雪!!」
「地震だお〜」
「ベタなこと言ってないで起きやがれ!!」
「震度7だお〜」

それでもまだ寝てるのか。

「起ーーきーーろーー!!!」
「だお〜?」

うっすら目が開いた。

「お……起きたか……?」
「おはようございまふぅ……」
「はいはい。早く下に降りてこいよ。遅刻するぞ」
「ゆーいち〜。朝はおはようだよ〜……」

ふらふらと立ち上がりながらも反論してくる寝ぼすけ娘。
祐一はつかんでいた手を離して朝飯を食べようと部屋を出ようとする。

「そんなことどうでもいいから。ホント遅刻するぞ」
「おはようございます〜……」

はぁ。とため息を一つついて、

「おはよう。名雪」

振り返って挨拶を返す。
だが、そこに名雪の姿はなかった。
いや、あるにはあるのだが、ぼふっと胸元に抱きつかれて見えるのは青い髪の毛だけたっだ。

「な、名雪サン?」
「ゆういちだ〜」

幸せそうな声。

「名雪……?」
「祐一〜、おはよう〜……。……祐一…………ゆういち」

それが……。

「ゆういち……、ゆういちがいる……」

震えた声になる。

「………………」

泣いているように思えた。
不安がっているように思えた。
だったら。
言うことは一つ。

「あぁ。俺はここにいる」

そっと抱き締める。



「あらあら」

抱き締めたまま数十秒ほどたった頃、そんな楽しげな声が聞こえた。
がばっと一瞬で離れた。

「朝ご飯準備できてますよ」

それだけ言って秋子は階段を降りていった。若いって良いわねぇ。とか聞こえたのは気のせいだ。

「ソ、ソレジャァ俺モ下ニイッテルゾ」

逃げるように祐一も部屋を出る。
名雪は赤面したまま一人部屋に残された。

祐一はリビングに戻ってパンを食べるが恥ずかしさからか一言も言葉を発しない。
それを見て秋子はくすくす笑う。

「お、おはようございます〜」

寝ぼすけ娘登場。
顔は祐一と同じく未だ赤いままだったりするが。

「いちご〜いちご〜」
「名雪。今日は祐一さんを道案内してやってね」
「いいけど。どこに?」

そういえばさっきも言ってたな。なんなんだ?

「もちろん学園よ。祐一さん転入することになったから」
「はい!?」
「ホント!」

祐一と名雪の声が重なった。内容はまったく違うが。

「ど、どういうことですか!? 秋子さん! 転入って!?」
「しばらく滞在するんですよね。なら学園にいかないといけませんよ」
「なんでですか!? 滞在って言ってもそんなに長期いるわけじゃないし。お金だってかかりますよ!?」
「お金の事は心配しないでください。私たち家族でしょう?」
「そ、それとこれとは話が……」
「名雪はどう思う?」
「え? え? なにが?」

従兄妹と母の言い争いの最中に急に問われて何がなんだかという感じの名雪。

「名雪は、祐一さんと学園にいきたい?」

それでも、この問いの答えは出てるから、

「うん!」

と最高の笑顔で微笑んだ。

「――――だそうですよ? 祐一さん」
「…………わかりました」

祐一はガックリと何かを諦めたように溜息と共に言葉を吐き出した。














〜あとがき〜

また短いな。と思う第5話。

こんばんは、海月です。

秋子さんによって学園に転入が決まった祐一。
ありがとう、秋子さん。おかげで話が進みます(笑

そして学園に行けばKANONメンバーも出てくる事でしょう。
まぁ転校初日なら勿論あの人ですけどね〜。

しかし、なんだ。
名雪や秋子さんに弱いな。祐一(笑


やっぱり更新が早いです!

今度は3話一気に頂きました。

ファンタジー系統のお約束となりつつある学園に祐一君がいくことになりました。

この先、どうなるんでしょう。

 

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