学校。
学園。

この時代でそれは養成機関である。
魔術。武術。研究。
さまざまな分野を勉強・育成する場。

雪華都にある神兎学園も同様で、その上で世界有数の大きさを誇る存在である。
広大な土地に環境。
育成する者、される者。
優秀な者も落ちこぼれも全てを担うところ。

この学園はそんな場所。

そこに名雪は通っている。

つまり祐一の転入先はここである。










「都合よく名雪はいるしよぉ……香里までいるときたもんだ……。さすがにあゆは違ったみたいだが……」
「何ぶつぶつ言ってるのよ。相沢君」

机にへたれている祐一に斜め後ろから呆れた声が降ってきた。

職員室に寄った後、担任に教室――二年B組――に案内されて、クラスメートへの簡単な挨拶が終わり、この席――窓際後ろから二番目――を宛がわれた。
席の場所自体に文句はない――というか、最高の熟睡ポイントだ――が隣に名雪、その名雪の後ろに香里というのはちょっと出来すぎな気がする。

……なんだかジャムを持った女性が頭に浮かんだが気のせいだろう。気のせいであって欲しい……。

「でも、さすがに学園で会うとは思いもしなかったわね。昨日言ってくれればよかったのに」
「俺も今朝知ったんだ……」

というか、決定させられたんだ。と、心の中でつぶやく。

「祐一。私と一緒のクラス嫌なの?」
「まさか。小躍りするくらい嬉しいぞ?」
「そうなの? よかった」
「くすくす。あなた達。本当に仲がいいわね」

香里が一人楽しそうだ。くそぉ……。

「なんだ転校生。美坂と水瀬の知り合いなのか?」

なんだか久しぶりに男の声を聞いた気がする。 
振り向いた先に祐一は奇妙なものを見た。

「…………アンテナ?」
「違う! これはただの寝癖だ!」

ガタン! と立ち上がって絶叫するように否定するアンテナ。

「うぉっ、急に怒鳴るなよ。電波でも受信したのか?」
「だからアンテナじゃねぇっ!」
「なにぃ!? それがアンテナじゃなかったらどこにもアンテナはないという事になるじゃないか! それを分かってのことか!?」

祐一も、ガタンッと立ち上がりアンテナに負けずと怒鳴りあげる。

「分からんっ。分かるか! 分かりたくもねぇ!!」
「これだから自覚のないアンテナは…………」
「違うって言ってんだろー!」
「またまた冗談を…………」
「お前、オレに恨みでもあんのか!?」
「いや、別に?」
「…………ホントかよ」

あ、マジでヘコんでる。

「あぁ、悪かった。すまん。寝癖だったな」
「……うん。そう」
「ブラシで直らないのか? それは」
「なかなか頑固でな、まったく無理だ……」
「ちょっと触っていいか?」
「へ……?」

了解をとる前にすでに触っている。

「…………硬い。やっぱりアンテナじゃねぇか」
「だからちがーーう!!」



どたばた騒ぐクラスメートと転校生を見ながらにっこり笑う少女と呆れる少女。

「北川君がここまでやりこまれてるのって香里以外初めて見たよ」
「彼は『アンテナ』に敏感だからね。ここまでやる相沢君も凄いけど」



ひとまず決着のついた騒ぎの二人。

「…………お前、変な奴だな」
「お前の頭ほどじゃないさ」

ぐすん、という音が聞こえた。きっと気のせいだろう。










転入して来て最初の授業がいきなり実技だった。正しく言えばアンテナ――北川潤と云う名らしい――との漫才が一時限目の自習時間にあったのだが。

「それにしても広いなー。この闘技場」

どでかい屋敷の一軒や二軒を十分立てられるくらいの広さがある。

…………この広さをあゆは土で埋め尽くしたのか。

「そりゃ世界でも有数の学園の一つだからね」
「迷子になるなよ。相沢」
「いくら祐一でもそれは大丈夫だよ。たぶん」

独り言のつもりだった祐一の言葉にわざわざ返事をくれる香里。その他2名には無視を決め込む。
と、クラスみんながそれぞれ仲間内で騒いでいるところを担任の石橋が静める。

「今日の実技だが、まず1対1の実戦方式でやる。それぞれペアをつくって好きにやれ」

なんだか適当な言い草だな……。

「だが、その前に相沢!」
「なんですか?」
「お前の実力を知るために全員で見学するから、張り切ってやれよ」
「マジすか……?」

注目されるのは苦手なんだけどな……。と愚痴る祐一。

「相沢。ランクはいくつだ?」
「Dっす」
「D? 秋子さんの紹介にしては低いな……。なら相手は……」

なるほど。ここまで急な転入なんて出来るのかと思ったがあの人なら可能なんだよな。

SSランクの魔術師。
世界最高峰の天才。
水瀬秋子の紹介を断れるはずがない。

……とてもそうとは思えないほど心優しい人だから失念してたな。

「センセー。相沢の相手、オレがやってもいいすか?」
「北川か。いいだろう。ランクが下だからといって油断するなよ」
「わかってますよっ」

にやり、と北川は祐一を見て笑う。



闘技場のリングで祐一と北川の二人が向かい合う。その周りにはクラスメートのギャラリー達。審判の担任――試合開始と終了時しか口を出さないらしいから審判と言えるかどうかは微妙だが。
ちなみにリングの周りには結界がはってあるので魔術を遣っても周りは安全だとか。

「北川潤。Bランクだ。武器は見ての通り槍だな」

右肩に乗せていた槍をだらん、と降ろして自己紹介に入った北川。

「相沢祐一。ランクはさっきも言った通りDだ。武器は……まぁなしでいいか」
「なんだ? 変な言い方するな」
「いや、短刀を持ってるには持ってるけどほとんど調理用だからなぁ、と思ってな」
「そうか。確かに槍なんかだと魚とか捌きずらいしな……」

遠い目をする北川。槍で魚を捌いたことあるのか?

「……そうだな。まぁ始めるとするか」
「――応」

距離をとって審判の声を待つ。

「――――始め!」

ダッ! と、審判の声が聞こえると同時に駆けだす北川。

――迅い!

そのスピードに乗った槍での攻撃を体を逸らしてなんとかかわす祐一。
一瞬でつめられた距離を再びとり直そうとするがそれよりも北川が速い。
目にも止まらぬほどの突きの嵐。だがそれを祐一は全て紙一重でかわし続ける。
チッと舌打ちをした北川はぐんっ、と槍を縦に回転させ柄で下から攻撃をしてきた。突然攻撃の方向が変わり反応が遅れた祐一は両腕で柄の攻撃から顎を守る。腕がじぃん、と痺れ今度は祐一が舌打ちをし、距離をとる。
今度は北川も追って来なかった。

うおぉぉぉ! と、ギャラリーが騒ぐ。

「すげぇっ、アイツ北川のラッシュ凌いだぞ!」
「Aランクですらあれでやられたことあるってのになっ」
「てか、早すぎっ。ワケわかんねーぞ!?」
「いいぞー! 殺せー!」
「2人とも頑張ってー!」

早くもエキサイトしているようだ……。
そんな騒ぎがもはや耳に入ってない2人。

「なかなかすばしっこいな、相沢」
「まぁな、逃げるのは得意だぜ」
「そうかい。だが、いつまでも逃げられると思うなよ!」

再びダッシュで差を詰める北川。闘気も速さもさっきより上がっている。
祐一も動く。今度は後ろに逃げるのではなく、前に、だ。
さっきの会話もあってまた逃げるとばかり思っていた北川は一瞬反応が遅れる。
その一瞬で祐一には十分である。
槍の間合いの更に内側。そこに入り込み腹にまずは一撃、全力で拳を叩きこむ。そして顎が下がったところでもう一撃――と、考えていたのだが、予想に反して顎は上がったまま。

「オレの鍛え方を舐めんな!」

叫びながら槍を持っていない左手で殴ってきたが、それはバックステップで逃げる祐一。そしてそのまま距離をとる。が、やはり距離をとらせまいと詰め寄る北川。スピードは祐一より北川の方が上のようだ。
このまま逃げ続けていてはいつか捕まる。距離を詰めた闘いというのは魔術師たる祐一が不利なのだ。例え相手が槍を持っていようといまいと。
魔術師は本来、中距離・遠距離での戦いで真価を発揮するもので、接近戦では魔術の詠唱・集中が出来なくなる。だから、この状態は祐一にとって辛いのである。

だが、辛いはずの祐一であるその人は――――笑っていた。


以前にも言ったが、もう一度言っておこう。


彼は――――相沢祐一は非常識な人間だと。

彼の浮かべる笑みは虚勢ではなく、自信の表れだと。


「――――虚無なる右手の怒り! 《雷光》」

バチバチッ! と音をたて祐一の右手に光が集まる。

「――――なっ!?」

驚きに満ちた北川は光に切り裂かれる。
唸り声を上げ膝をつく北川に距離をとってたたずむ祐一。

光。
剣。
魔法剣。

――――魔術。

「……まさか詠唱なしで使えるとは思わなかったぜ」
「先入観はダメだぜ? 北川」

立ち上がりながらも苦しげな北川と余裕の笑みを浮かべる祐一。

「Dランク。格下。魔術師。接近戦。ここまで揃って自分が負けるはずないってか? 甘いぜ北川。甘すぎる。俺は『外』の世界で生きてきたんだ。この世の中で生き残って来れる奴は何かしらあるもんだぜ?」
「……舐めてたつもりはなかったんだけどな。まぁ甘かったのは認めるさ。けど――――!」

闘気が膨れ上がる。

「――――負けるつもりはねぇ!」

さっきと変わらぬほど迅いダッシュ。ダメージがあって尚この速さ。
祐一も同時に駆ける。

一瞬より更に速く詰まる2人の距離。
胸元を狙った北川の突きを雷光で打ち払う祐一。最初からそうさせるつもりだったのかスピードはあったが力が篭もっていなかった槍はやすやす横に流れ、再度、槍の回転による柄での攻撃。それを祐一は一歩下がる事で避けるが、槍は更に回転。勢いに乗りスピードが上がったそれを避けるのは無理と判断し、雷光で受け止める。
そして、祐一はニッと笑う。

槍を雷光で受け止められた北川は何故かぐあぁっ、と唸り、苦悶の表情になる。

「…………なんなんだよ。その魔法剣は」

雷光を出した時に斬られた衝撃と今、槍を受け止められた時に受けた衝撃がまったく同じだった事に対して出た疑問の言葉だった。

「雷光。名前の通り『雷』の特性を持つ魔法剣さ。つまりは電気。それを俺の意思によって放出可能なんだよ」
「……なるほど。どーりで体が痺れると思ったぜ」
「なら、気付けよ……」
「オレ魔術苦手だし」
「…………あっそ」

北川潤。なかなか鈍い性格をしていた。

「それでどうする? 北川」
「どうするって何がだ?」
「これで得意の接近戦が封じられたって事だぜ?」

北川が沈黙する。

そして――――口を開く。

「……なんで?」
「…………は?」
「何で接近戦が封じられるんだ?」

北川潤。鈍いんじゃなく馬鹿だった。

「まぁ……解らないんだったら身を持って教えてやるよ!」

祐一が初めて自分から仕掛ける。
雷光で小さく、斬ると言うより当てると言った方が正しい打ち降ろし。そんな攻撃だと北川も避ける事が出来ず槍で防ぐしかない。
が、すぐに苦悶の表情になる。
更に祐一は小さく斬り付ける。
その度に北川は苦悶の表情を浮かべ、ついには隙を作る。
その隙を見逃す祐一ではない。雷光にて今度は大きく切り裂く。


雷光での接近戦。
雷光は言ってみれば電気の塊。電気は伝導する。身体に直接打てば身体に。武器に打てば武器から流れ身体へ。伝導すれば動きが止まる。それゆえに避け続けなくてはならない。だが、避け続けるだけでは攻撃に転ずる事は出来ない。いずれ隙も出来る。
だから、接近戦が封じられる。


「ぐぉぉぉっ!」

ふらつく北川に今度は距離をとらず間合いを詰め一気に決着をつけようとする祐一。
しかし、それより早く北川が回復する。
回復はするが攻撃は仕掛けられず、雷光の攻撃を槍で受け止めるのではなくひたすら避ける。
そして、一瞬の隙をついて初めて北川の方から距離をとる。
今度は会話はなく、無言で詰め寄る祐一。思考させる暇も与えない。
雷光を打ち出そうと構える。それを見て反射的に身構える北川。だが、雷光は打ち出されず、空いた左手で北川は殴られ後ずさる。
差を詰め、今度こそ本当に雷光で斬りつける祐一。

北川の動きが止まり――――祐一の頬が斬られる。

祐一の予想以上の北川の回復力。決めにいったところを逆に仕掛けられてしまった。
その事に一瞬驚き、されどすぐにその表情は楽しげな笑みに変わる。

斬りつける。
動きが一瞬止まる。

斬りつける。
動きが半瞬止まる。

斬りつける。
動きが――――止まらない。

「うぉぉぉぉっ!」

祐一の左腕が薄く斬られる。

距離をとり、笑う。笑える。北川潤。予想以上に楽しめる。

「凄いな。北川。雷光に対してほとんど免疫が出来てる。普通ここまでくらったら失神するんだけどな」
「はっ。その程度の、電気なんて、美坂の拳に、比べりゃ、大したことねぇよ」

息が上がっていながらも減らず口を叩く北川。
だけど、打撃と雷撃を比べるのは間違っている気がするのだが……。

それを軽く笑い、次に祐一は思考する。
笑みを消し、余裕を消し、思考する。

「――――そうか。分かったぞ」
「……何がだ?」
「お前が雷光をここまで耐えられる理由」
「根性とかじゃないのか?」
「それもいるが、そんなものは小さな理由だ」
「なら……何でだ?」
「それは……」

一度口を閉ざし、指でびしっと『それ』を指しながら、

「そのアンテナのせいだ!」

と言った。

「いやぁ、アンテナが電気を放出してたんだな。恐れ入ったぞ。北川。まさかそんな使い方があったとは……」
「アンテナじゃねーー! 相沢! ここはお前シリアスな場面のはずじゃなかったのか!?」

叫んでぜぇぜぇと息を切らす北川。心なしか脱力してるような気もする。

「ここらで一つ笑いでもあったほうが良いかなぁ、と思ってな。シリアスな時にボケ一つ入れれば笑いも取り易いし」
「…………それは大いに賛同するけどな」

相沢祐一。北川潤。共に芸人体質だった。

「まぁ冗談は置いといて……」
「お前が言い出したんだろ」
「揚げ足をとるなよ。置いといて、そろそろ決着といこうぜ」
「……そうだな。次で――――決める」

北川の眼つきが芸人から戦士と変わる。
ここまでで一番、闘気が――否、殺気が膨れ上がる。

次で決める。

つまりは出し惜しみなしの最高の一撃が来るという事。

北川が構える。左半身の腰を落とした。突きの構え。
だが、ここに来てただの突きであるはずもなし。

何が来る?

祐一は思考し、すぐに止めた。
先入観は動きを束縛させる。自分で自分を身動き出来なくさせる。

なら――――来るモノに反応するだけだ。

自分自身を信じ、来るモノに立ち向かう。

さぁ――――来い!





時間が止まったように静寂し。
空気が凝縮したように停止し。
世界が始まったように行動す。


北川潤が動いた。

「北川流槍術――――《闇突》!」

突きである。
だが、ここに来てただの突きである筈がない。
スピードの桁が違う。

一瞬より尚早く。
刹那より更に速く。
まるで光のように迅い。

普通なら気付く間もなく終わっている。
気付いた時にはすでに終わっているだろう。

だが、ここでもう一度言おう。


相沢祐一は非常識な人間だ、と。


一瞬より尚早い半瞬で。
刹那より更に速い動きで。
光なんて関係ないというほどの迅さで。


相沢祐一は避けた。


「俺の勝ちだ。北川」

一撃に全てをかけた北川には避けれない――否、例え《闇突》を出していなくても『これ』は避けれないであろう。

「――――雷光《散》」

光が弾けた。
雷光が数多に分かれ、雷の雨と化す。
2人を中心に降り注ぐ。
当たる、当たらぬ、数多く。
雷の雨が降り注ぐ。

そして、ゆっくり北川が――――倒れる。

辺りが静寂に包まれる。



時間が止まったように。
空気が凝縮したように。
世界が始まるのはこの一言。


「――――勝者! 相沢!!」














魔術・技解説

『雷光』……………雷の魔法剣。遣い手の意思によって電撃を放出可能。剣の長さも自在に変えられるが長さにも限界がある。

『雷光・散』………雷光に更に魔力を篭め、剣から無数の雷の雨に姿を変える。
         剣の形から一塊の光となって上空に上がり、そこから雷の雨を降らせる。

『闇突』……………スピードを極限まで高めた突き。この突きをくらった瞬間はスピードが速すぎるため痛みすら感じない。





〜あとがき〜

学園転入! そしていきなり戦闘!

こんばんはっ。海月です!

…………とりあえず落ち着きましょう。

学園最初のKANONメンバーは北川でした。
彼の初めはやっぱり『アンテナ』(笑

それはともかく。

今回の戦闘、書いてて楽しかったけど読む人はどうなんでしょうか?
リアクションがほしいです。

個人的にお気に入りは北川の必殺技《闇突》ですね。
実はこれ、ある小説から拝借したんですよねぇ。小説では別に技名って訳じゃないですけど。
こうゆう遊びが出来るのがSSの楽しさの一つかもしれません。なるほど(自己完結

後は、今回判明した祐一のランク。
Dランクのくせに格上のBランクの北川に勝ったりしてます(笑
理由は次回、第七話で。

それでは。


北川が面白い〜

出会いの場面で北川があそこまでやり込められるのは珍しい気がします。

そして戦闘シーン中のアンテナ話題がツボにはいって笑ってしまいました。

さて次はどんなことで北川がいじられるのでしょうか(違

 

第五話へ  第七話へ

 

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