バトルフィールドオブチルドレン
第31話 結界張り替えの儀
<香里視点>
「天野美汐、ただ今戻りました」
扉の前で美汐ちゃんが大声で言う。
「おう、入っていいぞ」
中から気合の入ったおじさんの様な声が聞こえる。
そして美汐ちゃんが扉を開ける。
「みなさんもどうぞ」
中は思っていたよりも狭い。
カノン城の玉座の間より狭いかもしれないわね。
そしてその中央奥に玉座が二つ並び、そこに男性が二人座っている。
一人は浴衣姿でなにか豪快そうなおじさん。多分さっきの声の人はこっちね。
もう一人はトレーナーを着ている少し痩せ気味のおじさん。
この人達が魔王代行の人達……?
「おや、なにやら団体客だね。どうしたんだい、美汐くん?真琴くんもいてないようだし」
痩せ気味の方の人が言う。
「えとですね。とりあえず説明する前にこの人を――」
そう言って駄々をこねたため首根っこを捕まれて引きずられていた相沢君を前に出す。
「ど、どうも。お久しぶりです……」
「……ゆ、祐一殿ぉぉぉ!!!」「……祐一くん!!!」
少しの無言の間の後、二人が大声で名前を呼びながら相沢君に抱きつく。
「祐一殿、どこにいってたんだぁ?美汐殿と真琴殿がずいぶん探してたんだぞ」
「そのせいで僕達が君の代わりに魔王の仕事をしないといけなくなって娘の所にいけないんだから!」
言っていることはまともなんだけどその男三人抱き合っている異様な光景から頭痛がしてきそうなあたしだった。
「――――と、これが今回の結果報告です」
「そうか、かなり大変だったみてぇだが、最終的には女王と友好協定までとる事が出来てよかったじゃねぇか」
「そうだね、それにしても祐一君があの秋子女王の甥だったとは、驚いたよ」
魔王代行の二人が笑顔で報告を聞いている。
「それでは遅くなりましたけど紹介しますね。こちら魔界公爵のシンさんとマオさんです」
「おう、俺がユーストマ。あだ名がシンだ。気軽にシンちゃんって呼んでくれてかまわねぇぜ」
「僕のこともマオ君って呼んでもらって結構だよ。ちなみに本名はフォーべシィ、よろしく」
はじめのインパクトがあったからどうかと思ったけど感じは普通の良いおじさん達みたいね。
けど、さすがにちゃんや君付けはできないけど。
「ちなみにお二人とも娘がいらっしゃいます」
「可愛いぜぇ、シアっていうんだけどよ。けど、シアには凛ってぇ心に決めた人がいるからな。
えーと斉藤殿と一弥殿だったな。シアに手を出す事はぜってぇ許さねぇぞ」
「僕の娘はネリネっていうんだ。シアちゃんと同じ凛っていう子が好きでね。けどシンちゃん今ここにいないから大丈夫じゃないかな」
「え、居てないんですか……っ」
美汐ちゃんがしまったという顔つきをする。
そして横から相沢君の「なにやってるんだよ」という呟きが聞こえた。
「そうなんだよ、美汐殿ちょっと聞いてくれるか。俺達が立場上ここから動けないことをいいことに――」
「みんなで旅行に行っちゃったんだよ。しかもどこに行ったのかわかない……」
それから怒涛に続く愚痴と娘自慢。
「ゆ、祐一君……」
「な、俺が苦手なのわかるだろ。良い人なのはわかるんだけど物凄い親バカで寂しがりやなんだ。
こう娘達に置いていかれるとこういう話が永遠と続くんだよ……」
「ええ、確かに痛いほどよくわかるわ」
あの二人の一番近くにいる美汐ちゃんの引きつった笑顔を見ると特にね……
「美汐ちゃん、お疲れ」
30分もの間、永遠と途切れることない口撃の爆心地に居た美汐ちゃん。
「私とした事が、わかっていたはずなのにあんな一言を……」
ようやく解放されよろよろとしている。
「シンさん、マオさん!私は少し休みます。戻ってくるまでに結界の張り直しの準備お願いしますね!」
そう言って部屋から出て行った。
「美汐殿、なんであんなに怒っていたんだ?」
「さあ?」
「はぁ〜」
二人を除いた全員がため息をつく。
「まあ、とりあえず準備だな。行くぜ」
「そうだね。では祐一くん、また上で」
そして二人も出て行った。
「凄い人たちだったね〜」
「……けど、それと同時にかなり濃い魔素を纏ってた」
みんながそれぞれ感想をもらす。
「で、相沢。これからどうすんだ?天野が休んでしまったけどよ」
「ああ、それは大丈夫だ。天野が休むっていっても大体30分くらいだからな。のんびり魔界の門まで歩いていけば良い感じになるだろ」
「それなら相沢君に聞きたい事があるんだけど、さっきのあの二人の紹介の時、美汐ちゃんが魔界公爵って言ってたけどあれって?」
「ああ、それか。簡単に言うとだな、領主みたいなものかな。魔界の中でも特に力が強く、全力を出されたら俺も負けるだろうな。
全員で10人くらいいるかな?その中で俺達の味方をしてくれる唯一の人達だよ」
「えっ、唯一……?」
「ああ、あと数人の中立を除いて残りの公爵達は人間の、いや平和を望む者の敵だ」
「それじゃ、魔王クラスの魔族の大半が共存に反対しているって事!」
「そう、だから人数的には俺達を支持してくれる魔族は多いけど、力の強さでいうと俺達の方が弱いのが現状だな」
相沢君の説明でみんなが静まり返る。
「まあ、だからこそ結界を張りなおすんだから大丈夫。あの二人と俺がそろったら失敗する事はないはずだから」
相沢君が不安になっているあたし達をフォローする。
そうね、あたし達がここで不安がっていてもなにもならないんだし、結界の張りなおしが成功する事を祈らないとね。
「近くで見るとさらに凄いわね……」
城の屋上にあがった私が一番に感じた事がこれだった。
大体直径100mくらいの光の柱、魔界の門。
上空にたちこめる雲をつき抜けどこまで続いているのかがわからない。
それはまるでバベルの塔のよう――今にも神の罰がおりてきそうな気さえするわね。
「お〜い、祐一殿。準備は出来たぞ!」
シンさんが額に鉢巻、手に巨大な筆を持ちながら言った。
凄い、恐ろしいほど似合ってるわ。これで「てやんでぃ」とか言ったら完璧なほどに。
それにしてもあれから30分も経っていないというのに門を中心にそこからさらに20mくらい広い魔方陣が完成していた。
まだ、完全に渇ききっていないみたいだけど。
それをわかっているのか相沢君は魔方陣に触れないように歩いていく。
「祐一くん、美汐くんがまだきていないけどどうする?もう始めるかい?どうやら思ったより結界の壊れるスピードが早いみたいだけど」
マオさんが門を見上げながら言う。
それにつられてあたし達ももう一度見上げる。
よく見れば、門の表面にヒビが入っているのが見えた、それもかなり……
これが壊れかけの結界なのね、確かにこれはこの結界のことをよくわからないあたしが見ても危険そうに見える。
「そうだな、魔方陣に魔力を注いでいつでも発動できるようにだけはしておこう、天野もそれくらいにはくるだろうし」
「了解だ!じゃあ、早速始めるかぁ!」
そして相沢君達は門を中心に三角形を作るように立ち、魔力を魔方陣に注ぎ始める。
すると、それぞれが立っている地点から徐々に魔方陣が発光し、光の粒子がうっすらと舞う。
そして全体が発光しそうなとき、美汐ちゃんが息を切らせてやってきた。
「すいません、いつの間にか寝てしまっていて」
「別に大丈夫、今ちょうど前準備が終わったところだ。それより天野、クリスタルは持ってきてるな」
クリスタル……?
「当り前です。これはもしもの時に必要な物ですから」
そう言って美汐ちゃんが取り出したのは、あの結界と繋がっている壊れた水晶だった。
あれってクリスタルだったのね……
「よし、なら始めるか。香里、あゆ、舞、斉藤、一弥、もしかしたら吹き飛ぶ可能性があるから踏ん張ってた方が良いぞ」
相沢君がそう言ってから右手の封印を解く。
あたし達はいきなり吹き飛ぶかもと言われて動揺したものの言われたとおりにする。
「よし、それじゃ一気にいくぞ!」
相沢君のその言葉で三人から魔素が一斉に噴き出す。
それは今までの美汐ちゃん達が普段放出している量とは1人1人半端じゃなく多かった、その上3人の分が混ざって台風のよう。
今までのがまるでそよ風のように感じられるわ……
「す、凄い……」
あたし達は吹き飛ばされそうなのを必死にこらえる。
そして相沢君達が何か呪文を唱えると、底から天空に向かって門のヒビが物凄いスピードで無くなっていく。
それと同時にクリスタルも同じように元通りに復元されていく。
その光景は門の結界、クリスタル、魔方陣、全てが発光していてとても神秘的だった……
結界の張り替えから10分ほど経過し、ついにあと四分の一くらいまでになる。
相沢君達やあたし達も少し安心した空気を纏い始めていた。
その時、クリスタルの頂点がより壊れ出す。
その瞬間、場に居た全員の空気が打って変わって凍りつく。
一体何が……
上空を見上げると、本当に門が見えなくなる位の所、最上部付近の結界が今にも破られ始めていた。
「何がどうなってやがるんだぁ!?結界の壊れるスピードが尋常じゃねえぞ!」
「恐らく、魔界側からの影響だね。残りの公爵達が結界に向けて総攻撃を開始しているのかもしれない!」
シンさん、マオさんが叫ぶ。
「天野!仕方がない、クリスタルを使うぞ!」
相沢君が叫ぶ。
「わかりました!すいません、皆さんに協力をお願いします」
美汐ちゃんがその言葉に反応しあたし達に向かってそう告げる。
「わ、わかったけど、何をしたらいいの?あたし達、この場に踏ん張っているだけで結構いっぱいいっぱいだけど」
「この前のドラゴンの時と同じように今度はこのクリスタルに魔力を注いで欲しいんです。
そして、門を通り抜けてきた者に対してのトラップを張ります」
「わかったよ」「了解だ!」
それぞれ頷いて踏ん張りながら何とかクリスタルに魔力を注ぐ。
そして一分も経たない内にいきなりクリスタルが蒼く発光して上空へと飛んでいった。
「よし、これで成功です。間に合いました!」
「よ、よかったぁ……」
美汐ちゃんの言葉で緊張の糸が切れたせいで、あゆちゃんが気を失ってしまう。
「あ、あゆちゃん!」
そのせいであゆちゃんの体が吹き飛ばされそうになるのを何とか受け止める。
「香里、あゆ、大丈夫か!」
「大丈夫よ。け、けど二人分踏ん張るのは少しきついわ。急いで……」
あたしがそう言った瞬間、上空で爆発音が聞こえた。
そんな、結界が破られたの!!
見上げると何体かの魔族が飛んでいくのが見える。その上、破られた結界の破片が降り注いできていた。
「念のために呪符を補充しておいて正解でした。何人にも冒されぬ『絶対の領域』!」
それを見た美汐ちゃんが呪符を取り出し上空へ飛ばす。
すると呪符が頭の上付近で敷き詰められ障壁になった。
これは、栞の大爆発弾を防いだ術ね。
「あと、ひと踏ん張りだ。いけぇぇーー!」
いきなり結界が目が見えなくなるほど発光する。
さっきの間に、相沢君達が結界を完成させたのだった。
「光が収まってきたわね……」
そして台風のような魔素も静かになっている。
「う……ボ、ボク、どうしたんだっけ」
「……あゆ、気がついた」
光が完全に収まって上空を見上げる。
「結界の張替えは成功したみたいね。けど……」
あたしがそう呟いたとき、横で斉藤君が叫ぶ。
「相沢!」
見ると、相沢君が倒れていた。
あたし達が慌てると、美汐ちゃんが疲れきった声で言った。
「だ、大丈夫です。魔王の右手の呪いで寝ているだけです……」
「おーい、全員無事か!」
シンさんがあたし達全員を見渡しながら言う。
「どうやら無事みたいだね、よかった。それより、これからどうする。僕が見た所公爵が何人か飛び立っていったみたいだよ」
魔王代行の二人が美汐ちゃんを見る。
「そうですね。飛び立った魔族に関しては部下達に捜索させましょう。決して戦わない事を言い聞かせて。
そして、お二人にはカノン城に向かってもらいます。そこでこの事と魔族との友好協定について話をつけてきてもらいます」
「了解だぁ!」「わかったよ」
「それにもしかしたら、カノン王国は観光地にもなってますからシアさん達がいてるかもしれませんよ」
「よし、すぐ行くぜ!」「そうだね、シンちゃん」
そして二人は急いで去っていった。
「ふう、さすがに私も疲れました」
美汐ちゃんがそう言っている所にあたし達がやってくる。
「美汐ちゃん、さっきの命令で大丈夫なの?」
「みなさん、お疲れ様でした。とりあえず、大丈夫です」
あたしの質問にはっきりそう答える。
「最後に張ったトラップで門から飛び出した魔族は長くて数年、力の半分近くが出せなくなるはずですから。
あのクリスタルは魔界のある火山の火口に数万年に一度生まれるかどうかの物なので、一生に一回しか使えない大技です。
なので、居場所をさぐるだけなら危険は少ないですし。それにあの二人の方も私が考えている事はわかっているはずなので」
そして説明を付け加える。
「まあ、とりあえず休みましょう。私達が今どうこうできるものでもありませんし」
「そうね。じゃあ、斉藤君に一弥君、相沢君を運ぶのよろしくね」
そう言って斉藤君達の返事も聞かず屋上を後にする。
「ちょ、ちょっと待て。俺達だってくたくたなんだぞって、もう行っちまったか……」
「斉藤さん、どうします?」
「運ぶしかないだろ、確かに俺たちも疲れてはいるけどあいつらよりはましみたいだし」
「そうですね、少々嫌だけど仕方ないか」
「「はぁ……」」
あとがき
31話でした〜
ようやく次へのステップができました。簡単に言うと敵登場。
ありきたりかもしれませんが、やはり倒すべき敵がいるとわかりやすいですからね。
そして今回のゲストキャラはSHUFFLE!の神王様と魔王様でした。
この世界では神族はいませんし、魔王は祐一なのでシンとマオになってしまいました。
原作しらないので(漫画とアニメのみ)本名あるのかもわからなかったので。
なんか、居たお陰で逆に意味わからないようになってるような気がしないでもないのがこれからの課題かなと。
とりあえず、話が動き始めてきたので頑張りたいです!
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