バトルフィールドオブチルドレン
ロストグラウンド
第30話 失われた大地
「えー、次はこっちだ!」
「違います!」
「ぐはぁ」
昨日、天野から魔界の門の結界の話を聞き三年ぶりに魔王城に戻る事になった。
そんなわけで、カノン城から一番近い、そしてスノウアイランド最南端に存在する港町に向かっているんだが――
「相沢さん!カノン城から港町までほぼ一本道のはずなのになんで違う道に行こうとするんですか、しかもこれが三回目!」
ということで、天野に怒られている。もちろんこれが三回目……
「まあ、美汐ちゃんのお陰で間違った道を進んでないからマシだよ。ボクと祐一君の二人の時は大変だったよ。
二人とも道を知らなかったし、祐一君が道を選んじゃうからもう迷ってしかたなかったんだから」
「でも、それなら三日で辿り着けるはずのカノン王国に二年かかったのも頷けるわよね」
「……一度道を覚えたら大丈夫」
「けどそれまでが酷すぎるんだよなぁ〜」
「なんで、こんな奴を姉さんは……」
みんながそれぞれ勝手な事を言う。
悔しいけど、本当の事だから反論できない。
「おっ、目的地が見えてきたぞ」
「ごまかしましたね」「そうね」
……この港町で一泊する予定だから今日はふて寝決定だな。
<栞視点>
「今ごろお姉ちゃん達船に乗ってる頃かな……」
お姉ちゃん達が旅立ってから一日、今日から真琴さんとの特訓が始まる予定です。
てっきり昨日からするものと思っていましたけど、先の事件の疲れをとってからの方がいいということで休みになりました。
って、そういえば今の時間って本当ならアカデミーの授業の時間ですね。
けどあのネロって魔族の召喚した魔物が闘技場で暴れたために隣にあったアカデミーまでかなりの被害を受けて休校中なんですよね。
私、まだ入学式の日とその次の日しか行ってなかったのに。
と、物思いにふけっているうちにもう特訓の時間ですよ。急がないと!
私は急いで特訓の場所――カノン城、騎士鍛錬場――に向かった。
鍛錬場に着いたらやはりもうみんな揃っていました。
それに王国騎士団の人達も揃っています。
「もう、栞おそいわよぅ」
「って、他の人達もついさっき来た所だから大丈夫だよ」
名雪さんがフォローしてくれる。
「まあいいわ、それじゃ特訓始めるわよぅ!」
「おう!」
部屋全体に声が響き渡る。
って、え?騎士団の人達も一緒にするのかな?
「それじゃ、早速内容を話すわ。騎士団の人達には先に話しているから知ってると思うけど」
あ、やっぱり騎士団の人達も一緒にするんだ。
これって結構貴重な体験かもですね。
「とりあえず第一の目標が濃い魔素の中でも普通に動けるようになることだから、魔素に慣れていくことから始めるわよ。
おとついの真琴達との戦いぐらいのなら大丈夫そうだからそれ以上の濃さの魔素を真琴が放出するわ。
そしてそれを徐々に濃くしていくからそれでも動けるように頑張るのよ!」
あ、私達が何か特別な事をするのかと思ってたんだけど意外に内容は簡単なんだ。
私達はいつもしていたように個人練習や練習試合をやってたらいいってことですもんね。
さて、お姉ちゃん達が帰ってくるまでに頑張らなきゃ!
<香里視点>
「ん〜、海の上で見る朝日ってのもいいわね〜」
「お〜い、見えてきたぞ〜!」
相沢君の声が船上に響く。
その声にあたしは急いで船の先端に向かう。
「あ、香里さん。あれだよ」
あたしが着いたときにはもうあゆちゃんがはしゃいでいた。
そしてあゆちゃんが指をさしている方向を見る。
「あれが……」
あれが今までの歴史の中で魔界の門が一番多く開かれ、大地は荒れ果て草木も生えず、人も少数しか住んでいない大陸。
ロストグラウンド
そのためつけられた名前が《失われた大地》そして今また魔界の門があり魔王城がある場所。
普通なら命を賭けて訪れる場所なのに半ば招待されてくることになるなんて変な感じね。
「よし、到着」
しかし、着いてみたら予想とかなり違う雰囲気に驚く。
まず一番に自然が沿岸付近にだけだけど結構あるということだった。
「香里さん、驚きました?この自然の回復には私達も手伝ったんです」
「ええ……」
「さあ、行くぞ。この大陸を見て回るにもまず結界を張りなおしてからだからな」
そして魔王城へ向けて歩き始める。
「…………」
「……祐一、大丈夫?」
「って、大丈夫な顔じゃねえな」
「なんていうか平和な所だね」
「そうですね、ここだけはすでに人と魔の共存はできている感じです」
「けど、流石にこれは驚くわ……」
そう言って、あたしは相沢君の方を見る。
その顔はすでに疲れきっていた。
まあ、あんなことがあったら仕方ないわね……
それはあたし達がちょうどある村の近くを通ったときだった。
少し離れた所でお店を出しているおばさんが話し掛けてきた。
「あら美汐ちゃん、帰ってきたの?今日はいい魚が入ってるわよ」
「あ、おばさん。そうですか。今日はこの後ちょっと用事がありまして、代わりの者を行かせますね」
「わかったよ。それにしても今日は見慣れない人たちが一緒のようだね。いや、一人どこかで見たような顔がいるわね」
その声で相沢君がびくっと体を震わす。
「あ、わかった!相沢祐一だね」
「あ、どうも……」
そして相沢君が顔をおばさんの方に向けて挨拶したとたん、おばさんがポケットから笛を取りだして大音量で鳴らした。
すると村の方から男の人が大勢出てきた。
「みんな、相沢祐一が帰ってきたよ!!」
「なぁぁにぃぃぃ!!!」
おばさんの一言で男たちが殺気立つ。
「やぁっておしまい!」
「おおぉぉぉ!」
そして一斉に襲い掛かってきた。
「みなさん、周りに退避してください」
美汐ちゃんの声で全員バラバラに散開する。
すると全員相沢君の方に向かっていく。
「こ、これはいったいなんなの?」
あたしがふと漏らした呟きを、いつの間にか近づいていたおばさんが聞いたのか答えてくれた。
「美汐ちゃんと後もう一人真琴ちゃんっていう娘がいるんだけどね、その二人はアタイ達の村のマスコット的な存在でねぇ。
絶大な人気を誇っているんだよ。その二人が三年前のある時から笑顔が消えてね、凄く心配したんだよ。
そしてその理由があの相沢祐一が何の前触れも無く居なくなったせいだと知ってね、帰ってきたら一発ぶっ飛ばそうって事になったのよ」
そういってあっはっはとおばさんが豪快に笑う。
この大陸に住んでるということは相沢君のこと仮にも魔王だって知ってるはずなのに、なんてアットホームな雰囲気。
あたしの失われた大陸のイメージがことごとく崩れていくわね。
けど、こういうのっていいわね……
遠くで相沢君の悲鳴を聞きながらあたしはそう思った。
で、相沢君が帰ってきたときは男に人たちにやられてもうぼろぼろになっていた。
「まあ、元気出しなさい相沢君」
「別にさっきあれだけやられた事に対して落ち込んでるわけじゃないんだ。
俺が勝手にここから消えたのも確かだし、いろんなやつに迷惑かけたことも確かだからな。
俺が疲れているのはこの状態でこれからの道のりを考えるからなんだ……」
「これからの道のりって、今の所、見渡す限り緩やかな丘だけど……」
「まあ、もうすぐわかるって」
そして少し経って相沢君の言葉の意味がわかった。
ある一定の場所から先に進むと景色が一変したのだ。
「これは真琴の幻を見せる魔法を私達が増幅、応用し、城からある一定以外だと偽の景色を映し出すようにしているんです」
「なら、これが本当の景色なのね……」
まるで火山の噴火口のような巨大な盆地に険しい山々が連なりあっている。
そしてその中心付近にそびえる巨大な城。さらにそこから天空に伸びている光の柱……
あと、体を襲う妙な嫌悪感。
「みなさんわかると思いますがあそこに見えるのが魔王城です。そしてあの光の柱が魔界の門ですね。
あとこの辺りから魔素がぐんぐんと濃く感じられてくるので気をつけてくださいね」
美汐ちゃんがそう言って先を歩き始めた。
「な、香里、わかっただろ」
「ええ、まずこの盆地を下った後にあの山々を登らないといけないのは堪えるわね」
「ねえ、祐一君。ボク飛んでいっていいかな」
「いいぞ、見張りの奴に攻撃されてもいいならな」
「うぐぅ、やめとくよ」
「まあ、一回見張りの奴に顔を覚えてもらえたら大丈夫だから次からな」
うっ、いいわね。あゆちゃん羨ましいわ。
「それにしても相沢、なんであんな場所に城を建てたんだ?」
「言われてみればそうだね、もっと近くに建てたら祐一君だってそんな疲れた顔しなくていいのに」
「それはだな、やっぱり第一に魔界の門があそこに出来たからだな。結界の監視や管理とかもしないといけないし。
あとはやっぱりある程度威厳を醸し出しとかないといけないだろ?乗り込んでくる奴を諦めさしたりとか」
「さっき、あれだけ村の人たちにボコボコにやられてたのに威厳もなにもあったもんじゃないけどね」
「ぐっ、それを言われるとキツイなぁ……」
「みなさん、なにやっているんですか。まだ朝ですけどゆっくりしていると夕方までに辿り着けませんよ」
美汐ちゃんの言葉でちょっとスピードを上げて歩き出した。
「さて、この辺で一旦休憩をとりましょうか」
「そ、そうね……」
ま、まさかここまでしんどいなんて……
ほぼ全員、全身汗だくで疲れきってしまっている。
一人を除いて――
「天野さん凄いですね。全く息を切らしていないなんて……」
「それはそうですよ。半年前まで私達全員ここを歩いて村まで行ってたんですから。あと、一弥さんここでちょうど半分くらいですよ」
「こ、これで半分……」
「おい、天野。半年前までってどういうことだ?」
「あ、それはですね半年前に新装置が完成しましてほぼ一瞬で城から盆地の外まで行き来ができるようになったんです」
「な、なんだって!!!」
全員が声を合わせて叫ぶ。
「じゃあ、なんでそれを使わなかったんだ」
「それが乗り込んでくる人に使われないようにするために城の方の装置を一度使った事がある者しか使えないようロックしてるんです」
「それ造ったの天野の親父さんだろ」
「そうです。久しぶりに役に立つ物を造りましたよ。いつもロクな物を造りませんから」
そう言って美汐ちゃんが苦笑いをする。
よっぽどロクな物を造ってなかったのね……
あたしもお母さんの変なギミック付きの武器に振りまわれていたから、言葉に含まれる疲れがよくわかるわ……
「では、あと5分くらいしたら出発しますね」
「え、早っ!」
「ふう〜ようやく着いたわね……」
途中で休んだ時間も含めて8時間強、やっと魔王城に辿り着いた。
近くで見てみるとやっぱり大きいわね……カノン城の倍くらいあるかしら。
流石にここまでだと威厳というか迫力は感じるわね……
それにこの淀みきった魔素の空気がより雰囲気を醸し出している。
そして美汐ちゃんが門番に近づいていく。
「ごくろうさまです。天野美汐ただ今帰りました」
「あ、天野様、お帰りなさいませ。あの……あそこにいる人間達は?」
「行き先で知り合った友人達です。私が招待しました」
「了解しました。どうぞお通り下さい」
ゆっくり門が開いていく。
あたしは美汐ちゃんの元に駆け寄っていった。
「美汐ちゃん、相沢君のこと言わなくていいの?」
「ここに来る途中、歩きながら考えていたんですが、一人一人言っていくのが面倒なのであとでまとめて話そうと思います」
美汐ちゃんがそんな事を言っている時、あたし達の後ろで相沢君が門番にちょっかいをだしていた。
そして門番が相沢君のことに気がついたと同時に門が閉じていく。
門の外から「魔王様が〜」と叫んでる声が聞こえる。
「子供だな」「ホントに……なんで姉さん……」
「で、これからどこに向かうのかしら?」
城の中を歩き始めて数分、あたしは美汐ちゃんに尋ねる。
「とりあえず玉座の間に行きます。今回の報告のこともありますし」
「報告って誰に?」
あゆちゃんが言う。
確かに魔王の側近が報告する相手って魔王しか思い浮かばないのだけど、その本人は後ろにいるしね。
「相沢さんがいない間、魔王の代行をしてもらっている方達です。流石に魔王がいないというのはいろいろ都合が悪いので。
残っている魔族の中で人望があり、力の強い二人の方に代わりに魔王をしてもらっています」
「二人って、もしかしてあの二人か……?」
「そうですよ。相沢さん」
相沢君が嫌そうな顔をしながら言った言葉に美汐ちゃんが笑顔で答える。
「俺、あの二人苦手なんだよな」
「なにを、とても良い方達じゃないですか」
「それは良く知ってるけど」
「それに魔界の門の結界の張り直しにもあの人達の力が必要なんですから会わないわけにはいかないんですよ」
「そうだけど……」
相沢君が苦手な人ってどんな人なのかしら。気になるわね。
そんな事を思いながらついに玉座の間に辿り着いた。
あとがき
第30話でした。
ついに30話突入ですよ。このバトチルを書き始めたときこんなに続きとは思ってませんでした。
最後まで書こうとは思っていましたが途中で力尽きそうとも思ってました。
それにこんなに話が伸びるとも思ってませんでした。
どれだけ簡単な勘定をしてたのか……
初めの考えでは30話くらいなら第4部(仮)くらいまでいってるかなと思ってました。
今では話がそれたり変わったりで無くなるかも知れませんが(第4部(仮))
というか、そこまで書けるのかな……
まあ、とりあえず今回の話です。
予想と反した魔王の島っていうのをやってみたつもりです。
おかげで香里達は驚いてばっかりでしたが。
ちなみにロストグラウンドという名前やそこにある天空まで続く光の柱、その他村の雰囲気とかは元があります。
バレバレかもしれませんがスクライドです。
遠い昔、アルター使いまで出そうとか思ってたときもありました(笑)
というわけで次回は結界を張りなおす儀式がメインになるかなと思います。
ちなみにエヴァに引き続きゲストキャラが出てくる予定です。
まあ、予定ですけど。
最後に今、これを書いている時、ちょっといろいろありましてネットを封印しています。
なので、いつこれがアップされているか楽しみです。(2005/12/5)
それにしても今になって香里が美汐ちゃんって呼ぶのに違和感を感じてます(爆)
大喜びします。
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