――カノン城近郊――

 

「ようやくカノン城が見えてきたね、シンちゃん」

「おうよ、とっとと女王との会見をすまそうぜ」

「けど、どうやって関所を通ろうか?僕達は真琴ちゃんみたいに幻を操れないからね」

「美汐殿の事だから話しつけてくれてそうな気もするんだがな」

「しかし、つけていなかったら後が面倒だからね。少々骨が折れるけど張り巡らされてる結界に穴をあけようか」

「そうだな。じゃあいくぞ、マー坊!」

「「せーの!」」

 


バトルフィールドオブチルドレン

第32話 動き始める世界


<秋子視点>

 

ぴくっ……

 

なんでしょう……今、結界に穴が開いたような感覚がしたんですけど。

……でも、すぐにその感覚が消えました。

気のせいですかね……

 

 

「女王様、どうかされましたか?」

「いえ、何でもありません。アカデミーの件、了解しました。後はよろしくお願いします、久瀬隊長」

「はっ」

 

そう言って久瀬隊長が部屋から出て行く。

 

アカデミーの破壊状況が想像以上に酷いですね……

これは半年ほど休校にして建てなおしたほうがよさそうです。

でも、そうなると――――

 

 

「女王様、二人組の男が女王様に会見を申し出ているのですが」

 

私が考えていると門番の兵士がやってきて言った。

 

「二人組の男の人ですか?」

 

私にアポ無しで会見とは珍しいですね。

あ、そういえば美汐さんが言ってた方達かしら。なら結界の事も頷けますし。

 

「通してもらって良いですよ」

「了解しました」

 

兵士が敬礼をして部屋から出て行く。

 

そしてしばらくして男性の方が二人入ってきた。

見た目は浴衣とトレーナーのよくいるおじさんのようです。

けど、押さえ切れない魔素が体から噴き出しているのを感じますね。

間違いありません、美汐さんが言っていた魔界の公爵……

 

「はじめまして女王、僕の名前はフォーベシィ。みんなからはマオって呼ばれてる」

「そして俺がユーストマ。あだ名はシンだ、よろしく」

 

「はじめまして、カノン王国女王の水瀬秋子です。お二人の事は美汐さんから聞いています。
びっくりしましたよ、まさか私の結界に穴を空けてくるなんて。関所の番に話は通しておきましたのに」

 

私の言葉で二人が少し疲れたような顔をする。

何か変な事でもいったかしら?

 

 

「あ〜やっぱり、美汐殿と話してたかぁ……」

「いやぁ、実は僕たちそのこと美汐ちゃんから聞いてなかったんですよ。まあ、あれだけどたばたしてたらしかたないか」

「何かあったんですか?」

「ああ、実はそのことで俺たちは予定より早くこっちにくることになったからな」

 

そう言って二人が数日前に起きた事件のことを話し始めた。

 

それにしてもお二人が気さくな方でよかったです。

私も非常にお話しやすいですし。

そんなことを思っている私とは違い、話の内容はとても深刻でした。

 

「そうですか、そんな事が……」

「すまねぇ、こっちの完璧な不手際だ。結界の事は薄々気づいちゃいたんだが、見積もりが甘かった」

「とりあえず、魔族は魔族で手は打ったんだけど、やはり手が行き届きにくい所があるから……」

 

二人が申し訳ない、顔をして言う。

 

「わかりました、こちらからも何かしらの手を打ちましょう」

「ありがとう。あと、魔族との友好協定のことなんだけど……」

「それについては私から提案があります」

 

 

 

 

<香里視点>

「こ、これに本当に入らないといけないの……?」

 

あたしは恐る恐る聞く。

 

「もちろん、そうですよ」

 

美汐ちゃんが爽やかな笑顔で返してくる。

 

今日、あたし達は美汐ちゃんに連れられてこの大陸の村を案内してもらうことになった。

というわけで、ここに来る途中聞いたほぼ一瞬でここから盆地の外まで行くことができる装置の場所に来たんだけど……

あたし達の視線の中にあるものは、そういう装置と思えるようなものじゃなく、一機の大砲だった。

 

「大丈夫ですよ、着地地点に重力制御装置があって衝撃はほぼ皆無ですから」

「そういうものではなくて、心理的にね……」

 

そして予想通りこの大砲に入ってズドーンと飛んでいくという形になっているのよね。

 

「ボ、ボク、飛んでいくことにするよ」

 

そう言って羽を出そうとするあゆちゃんにあたし達4人が囲み、動けなくする。

 

「……あゆ、ズルい」

「そうよ、一人だけ回避しようなんて思わないようにね」

「う、うぐぅぅ……みんな目が笑ってないよ」

「では、準備してください。私は最後に行きますから」

 

はあ……覚悟を決めるしかないわね。

 

 

 

ドォォォォン!!ドォォォォン!!ドォォォォン!!ドォォォォン!!ドォォォォン!!

 

 

 

 

 

 

「…………」「…………」「…………」「…………」

 

「どうしました?」

「美汐ちゃんはよく平気よね……」

 

あれは生きた心地がしないわ……

憔悴しきった顔であたしが言う。

 

「んー慣れですね」

 

けろっとした顔で言う美汐ちゃん。

 

「うぐぅ……ボク絶対帰りは飛んで帰るからね」

「もし自殺しようとしても飛び降り自殺だけはしたくねぇな、絶対」

 

あゆちゃん斉藤君がそれぞれ言う。

確かに慣れたいとも思わない感覚ね、あれは。

 

「…………」

「あっ、舞さんが気絶してる!!」

「えっ!」

 

 

 

そんなこんなで村に到着したあたし達。

そして魚屋の前を通りかかるとあたし達に気づいた魚屋のおばさんが指を奥のほうにさして慌てた声で話し掛けてきた。

 

「み、美汐ちゃん!この放送……魔族が人間を襲うようになった原因が人間にあったって本当なの!?」

「えっ、なんでそれを!」

 

驚いたあたし達はおばさんが指をさす方向を見る。

そこにはテレビがあった。

あたし達は急いでそのテレビに駆け寄る。

 

『――――というのが本当の真実です。今までの歴史は嘘で固められたものでした』

 

「こ、これは……」

 

『もちろん今を生きる私達には今語った事は所詮過去の事でしょう。しかし、私はそれを知ったとき、どうにかしたいと思いました。
そして、そんな私のところに今、魔王からの使者が来ています。そこでお話を聞きました』

 

奥からあの二人が出てくる。

 

『それには魔族にも人間を襲う気がない。いえ、人間と共に暮らしたいと願う方が大勢いるという事でした。
大勢と言うことはもちろんそう思っていない――過去の恨みを忘れていない魔族や人間と同じように殺人鬼のような方もいます。
それに先ほども言ったことですが、私達は今を生きています。魔族によって家族や親友を殺された方もいると思います。
そんな方にとっては過去の事は知らないし、許せないと思います。
しかし、そうやって憎みあっていてはお互いにより大勢の血を流す事になりませんか?
問題は多いと思います。しかし、少しずつでいいから歩み寄ってみませんか?
そこで私――カノン王国はこの使者の方々から申し出がありました、人間と魔族との友好協定を結ぼうと思います!』

 

秋子さんのその言葉で場が騒然とする。

 

『この放送を聞いているみなさん、様々な事を想っていると思います。しかし、どうか考えてみてください。
そしてそれに当たって、先ほど言った問題の中で早急に解決しなければならない問題があります。
先日、魔界から魔族さえも恐れる魔神と呼ばれる者達がこの人間界に逃げ出しました。
なんとか魔王の機転でその者達の力を数分の1に押さえる事が出来ましたが、危険な存在です。
今現在、魔界の軍と私達、カノン王国の軍が捜索に当たっていますが十分注意をしてください。
そして遭遇したら、出来うる限りその場から離れ私達に知らせてください。この件に関しては他の国にも通達し協力を願いしてますので』

 

そしてもう一言二言話し、秋子さんの演説が終わった。

 

静まり返るあたし達。それを破ったのは斉藤君だった。

 

「女王様は何を考えているんだ!?俺達は現にこうして内情を知っているから納得できるけどよ、早すぎねぇか」

「そうだよ、これじゃあ秋子さん周りから何を言われるかわかったもんじゃないよ……」

 

斉藤君にあゆちゃんが続けて呟く。

 

確かに、今まで完全な悪だと言われていた魔族と共存しましょう。今までの歴史は嘘でしたなんていわれてもね……

すぐには納得できるはずもない。恐らく今ごろは国民や諸外国からいろんな事を言われているはず……

だから秋子さんの立場が相当悪くなるはずなのよ。けどそれでもあの演説を行った。それは――――

 

「秋子さんはそんな事さえも納めることができる自信があるのよ」

「……確かに秋子さんならできる気がする」

 

伝説の勇者を一番多く輩出した国、そのため他の国より発言力が強いのもその自信の一つなのかもしれないわね。

 

「それにある面ではこのタイミングで最適と考える事も出来ます」

 

その美汐ちゃんの発言に全員が振り向く。

 

「もし、このことを伏せたままで公爵達の被害が出たら、魔族の仕業だとばれたらどうなるか。
多分、先ほどのような演説があっても絶対に歩み寄る事なんて出来なかったでしょう。だからその前に言う必要があった。
そして公爵達のことを魔神と言っています。これによって被害が出たとしても納得がいかない部分があっても魔神がしたことと思います。
魔族さえも恐れる魔神がしたと。簡単に言えばあの二人以外の公爵を魔族とは違う種族にしてしまった」

「そこまで聞けばあたしでも解るわ。ようするに敵を魔族ではなく魔神だとすり替えてしまった」

「そうです。だからある意味このタイミングが最適なんです」

 

そしてまたあたし達のまわりに沈黙が宿る……

 

そして今度はその沈黙を豪快に魚屋のおばさんが打ち払った。

 

「なに、辛気臭い顔してるんだい!さっきのあんた達の会話を聞いてるとさっきの演説が本当の事を言ってるとわかったよ。
だったら心配しなくていいじゃないさ、今を心配するならアタイ達と美汐ちゃん達の関係はどうなんだい?」

 

その言葉で美汐ちゃんとおばさんを見る。

……確かにそうよね。

 

「そうですね、今を心配するならここに良い成功例があるんですものね」

 

美汐ちゃんが笑顔でそう答える。

 

「そういうことだよ。で、こんな大勢でこんな所に来たんだ、何しにするのかい?」

「いえ、夕飯の買出しのついでにみなさんにこの村を案内しようと思いまして」

「そうかい、なら小さい村だけど見て回っておいで。この村は若い子が全然居なくてね。だからどこ行っても歓迎されるはずだから」

 

そう言っておばさんは奥から巨大な魚を持ってきて、あたし達に今日は何かお祝いしたくなってと言って渡してくれた。

けど、大きすぎたので帰りに取りに来るということに。

 

 

 

そして村のあちこちを見て回った。

確かに普段城下町に住んでいたあたし達にとってはかなり小さい村だったけど一回りして魚屋さんに帰ってきたのはもう夕方だった。

比率では男性が多かったせいかとてもよくしてくれた。逆に斉藤君がかわいそうに思えるほど。

特に差を感じたのは喫茶店ね。同じ物を頼んだのに豪華さが全然違ったんだもの。

そこですっかり楽しんだあたし達は魚を受け取って盆地の所まで帰ってきた。

 

 

「……すっかり忘れてたわ」

 

楽しかったあとなだけにこの目の前に設置されている黒光りした筒のような物体を見た時の辛さがたまらない……

 

「こ、今度こそボク、飛んでいくからね」

 

そう言って飛び立とうとするあゆちゃん。

黙って飛んでから言えばよかったのに律儀に飛ぶ前に言うんだから――――

 

「うぐぅぅ〜」

 

みんなに四方を固められるのよ。

 

 

 

ドォォォォン!!ドォォォォン!!ドォォォォン!!ドォォォォン!!ドォォォォン!!

 

 

 

「よう、おかえり」

「た、ただいま。相沢君、起きたのね……」

 

物凄い風圧と浮遊感と落下する恐怖を感じて城に帰ってきたあたし達の前に相沢君が出迎えていた。

門の結界を張りなおしてから数日、今朝もまだ寝続けていたけどようやく起きたみたいね。

前は数時間だったけど今回は1日経っても起きなかったから心配していたけどよかった……

けど、今のあたしのこのふらふらの状態であまりにも清々しく目の前にいられると腹立つわね。

 

「で、いきなりだけど俺が寝ている間、状況はどうなった?」

「私が説明します――――」

 

相沢君の問いに美汐ちゃんが答える。

 

 

 

 

「そうか、とりあえずの対策はできてるんだな。それにしても秋子さん思い切ったことするなぁ」

 

相沢君が苦笑いをする。

 

「これから、どうします?」

「そうだな、とりあえずこの状況ではあの二人のどちらかでも帰ってこない限り俺はここから動けないからな……」

「そうですね、この状況で三年前みたいに消えてもらっては困ります」

「ア、アハハ……きついなぁ、天野」

 

美汐ちゃんの厳しいツッコミで冷や汗を流す相沢君。

 

「ま、だからそれまではここで修行でもするか。この手を慣らさないといけないし。そして二人が帰ってきたらカノン王国に戻る。
秋子さんと話すこともあるしな、これからの事やアカデミーの事も」

「そういえばみなさん学生でしたね」

「そう、だから状況によるけど辞めることになるかもしれないな」

 

寂びそうな顔で呟く相沢君。

 

「よし、なんであれとりあえずご飯にしよう。ずっと寝続けてたからな、もう腹減ってしまって」

 

相沢君が照れたように言う。

 

「そうね、あたしも今日はよく歩いてお腹減ったわ〜」

 

不安だらけだけど今は出来る事がない、ならそれに備えないとね。

 

「ボクは大砲の衝撃でまだちょっと食べれない……」

 

相沢君の背中を押しながら城に入っていくあたしの後ろであゆちゃんがそう呟いた。

 

 

 

 

 

<栞視点>

「今日の特訓はこれにて終わるわよぅ!」

 

騎士鍛錬場に真琴さんの声が響き渡る。

 

「ふぇ〜佐祐理、もうくたくたです」

「わたしもだよー」

 

佐祐理さんと名雪さんが床に座り込んで言う。

 

「けどはじめた頃よりだいぶ慣れてきた気はするな」

「当り前ですよ北川君、これだけやって慣れなければ特訓の意味がありません」

「久瀬ぇ〜それはわかるけどよ。もうちょっとやったな!って嬉しさを感じながらやらないとしんどいぞ」

「わかってますよ、これでも達成感は感じてます」

 

そしていつものように雑談がはじまる。

 

 

「あ、そうだ一つ言う事があったのよ」

 

そんなとき真琴さんから私達に話し掛けてきた。

 

「今日の秋子さんのテレビ放送見た?あれによって多分祐一達が帰ってくるのが早くなると思うからあさってに最終試験をするから」

 

あと、明日はそれに向けて自主練よと言って真琴さんが鍛錬場から出て行った。

 

「最終試験ってなんでしょうか?」

 

私がそう近くにいた北川さんに話かけると北川さんは顔を青くしていた。

 

「嫌な予感がする……もしアレなら明日は準備と休養だな」

「予想がついてるんですか?」

「栞ちゃん、こんな状況だから開催されるかわからないけど、あさってって4年に1度のアレがある日だろ」

 

北川さんの言葉で思い出した。

まさかとは思うけど真琴さんならアレを試験にしそうです。

このカノン王国が開催するイベントで一番過酷なアレを……


あとがき

ふう、32話終了〜

あと、魔王城編も終了〜

う〜ん、それにしても香里視点が一番書きやすい。

ツッコミ役だし頭いいから解説もできるし。

祐一「よう、ようやく本編だな」

そうですね、おまけで何とか紛らわしていましたけど限界が近かったです。

祐一「で、その本編だけど秋子さんが爆弾発言したな」

ええ、どうしようか悩んだんですけど入れました。魔族が人間を襲う理由は27話で書いたんですが忘れられているでしょうね。

なのでおばさんに本当に簡単なまとめを言ってもらって。

あ、あと秋子さんが今を生きていると言ってます。あれはナデシコの影響を受けてます。

祐一「スパロボJだな正確には」

主人公のアキトが「昔のことは関係ないこれは僕らの戦闘だ」みたいなことを言っていて確かに昔何かあったとしても今が大事だなと。

当り前のことだったりするんですけどね。

あと、前話でSHUFFLE!の神王様と魔王様の本名を知らないと言っていたら、教えてもらったので修正しました。

本名をユーストマとフォーベシィで、あだ名をシンとマオにしました。

最後に栞たちが言ってるアレって引っ張ってる割りにどうでもいいことだったり。

というわけで、ただでさえ更新遅いのにただ今、就職活動中なもので次がいつになるかわかりませんがなるべく早くにしたいと思います。

では〜

 

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