<ファルス視点>

 

優しい笑顔の母親が腹を空かせて帰ってくる私のために夕食を作っている。

父親は今日の修行の成果がどうだったのかを、私の成長を楽しみに聞いてくる。

そんないつもと変わりない日々が繰り返され、そしてこれからも続くものだと思っていた。

だが今から30年前のある日、私が魔法の修行をし、帰宅したときにそんな『いつも』が壊れた……

 

「お母さん、お父さん、ただいま〜」

 

そう言って私は家のドアを開けた。

いつもならここで母親の「おかえり」という言葉が聞こえてくるのに、それがない。

その代わりにむせ返るような血の臭いが家中に漂っていた。

私は何があったのかと不審に思いリビングに向かう。

そしてそこで見たものは地獄だった……

 

夕方の西日が差し込み赤く染まっている部屋が血によってそれ以上に紅く染まっており、あちこちからぽたぽたと血が垂れる音が聞こえる。

そしてその中に両親の死体が無残にも引き裂かれて転がっていた。

その光景は私をこれは夢じゃないかと錯覚させるのに十分すぎるものだった。

だが部屋の中心に、父の腕らしいものを持っている全身毛むくじゃらの、狼男のような存在がいる。

それがこちらに殺気を放ち、鋭い視線でこちらを射抜いてくるせいでこれが現実だと思い知らされた。

 

「なんだ、まだ人間がいたのか……」

 

頭に響くような低い声が私に向かって放たれる。

あまりに非現実的な光景だったのか、こんな状態でも私は恐怖心というものが沸いてこなかった。

真っ白、そう言っていいような、なんとも言えない感情だった。

 

「こいつらの子供か……こんなときに帰ってくるなんて運が悪かったな」

 

狼男は頭らしき丸い物体をこつんと蹴りながら言った。

髪の長さからいって、それは母のものだろう。

今の行動で私の感情は真っ白から真っ赤になった。

体の中心から怒りが込み上げてきて、目の前にいる存在を早く消したかった。

 

そこからは不思議な感覚だった。

常々師匠から『怒ってはならん、怒りは我を忘れさせイメージを固定させにくい。それは魔法を使えないも同義だから』と言われていた。

なのに今はどうだ、怒りが込み上げているのに頭の中は妙に落ち着いている。

言葉を発していないのにみるみる魔法のイメージが構築される。

そして子供だからと油断していたのだろう、その存在に今日師匠から教わったマグマボールを全力で叩き込んだ。

父にできたと自慢しようと思っていたマグマボールを……

マグマボールの直撃を喰らったその存在は、一瞬で燃え尽き壁にその形の焦げ跡を残すだけの存在になってしまった。

 

「はぁー、はぁー、はぁー」

 

全てが終わったときには日が沈みかけていた。そして程なく辺りは夜になり部屋は暗闇に包まれる。

 

「あぁぁぁぁぁぁぁ」

 

ここにきて私の心は悲しみに包まれた。

この部屋には私以外にはもうだれもいない。

人だったものと、誰かがいたと思われる焦げ跡だけだった。

私は泣いた、一晩中泣き続けた。

そして心に誓った。魔族を根絶やしにすると。私のような人をもう出さないようにと……

 


バトルフィールドオブチルドレン

第26話 カーテンフォール


 

「さあ、これで形勢逆転ですね。本当に終わりですよ。ファルス大臣」

 

女王が私にそう告げる。

 

「あっはっははっははは、そうだな確かに私はもう終わりだ」

 

直撃したと思われたマグマボールで女王は死なず、その上念のため配置しておいた部下は倒されていた。

私にもうこの局面を打開する作戦は思いつかなかった。

 

私はすぅーっと天井を見上げる。

何故、私はこんな状況になってしまったのだ?

一晩中泣いた日に誓った、魔族を根絶やしにすると。

今まで私はそれを実践してきた。そしてこの国は平和じゃないか。

私は間違った事はしてきてないはずだ。なのに……

 

もういい……もういいさ……どうなっても。

私は女王、そして魔王を見る。

そして叫びながら魔法を発動させる。

 

「だが私一人で終わる気は無い!我が血を贄に、血の障壁!」

 

それによって血のような紅い障壁が玉座の間を覆い尽くす。

それと同時に私の体が一気に重くなる。

仕方がない……この魔法は破られる事が無い代わりに自分の血を触媒にしないといけないのだから。

 

「なにをする気だ!」

 

魔王が私に向かってそう言う。

ふふ、気づかないのか。

 

「簡単な事だよ、私はこれから自爆する」

 

そう、簡単な事……

 

「なっ……や、やめろ!」

 

今更、そんな事を言っても……

 

「もう遅い!我が魂を贄に、生贄の爆発……」

 

そして魔法が発動する。

私に光が集まってきてそして一気に放たれる。

その場にいたもの―女王は違うようだな―は今の光で爆発すると思ったのか身構えていた。

その姿は少し滑稽だな。

 

「この魔法は自分の魔力を暴走させて爆発を起こすもの。そのため爆発までにはある程度時間がかかる。すぐには爆発せんよ」

 

その言葉を聞いて魔王は何か考えがあるのか、うっすらと顔に笑みがうかぶ。

しかし、それは簡単に予想できる。

 

「祐一さん、駄目です!その魔法は術者が死んだ時点でも爆発を起こすのです」

 

女王に先に言われてしまったか。

 

「そう、だからあなた達には逃げ場は無い」

 

同じことを考えていた人がいたのか、どこらかしこから歯をぎりっと軋ます音が聞こえる。

ふふ、これで、チェックメイトだ。

自分がこれからの行く先を見ることは叶わないが、先のネロの召喚した魔物のこともある。

こんな場所で爆発が起きたら、民衆は魔族の所為だと思うはずだ。

なら、魔族との共存もなくなる。

その上、魔王とその側近も同時に殺せる。これ以上のことがあるか!

あは、あははははははは…………

 

 

<祐一視点>

 

くそっ、どうしたらいい!

目の前で狂ったのかの様に恍惚な顔をしているファルスを見ながら、俺は歯を軋ます。

目の前で起きている現象、秋子さんの一言、俺の知識から今使われた魔法の内容がおおよそわかった。

それから分かる事は、もはや爆発を止める事はできない。だからこの障壁をどうにかして突破するしか方法がないということだ。

けど、この障壁を破壊するのが……できない。

血を触媒にするほどだけあって、恐ろしく頑強だ。

 

そして爆発の方だ。

普通に暴走が起きるのが、後どれほどかかるかはわからないが、死ぬ事によって爆発するのは分かる。

ファルスの顔が徐々に青くなっている、その感じからいって後3分もないはず……

これを破壊する力を今の俺では3分以内に溜める事が出来ない……

そうして、打つ手が思いつかないまま時間が刻一刻と過ぎていく。

場にいる人たちがどうすることもできない、悲しさ、悔しさに絶望しているとき部屋中に聞いたことがある声が響き渡る。

 

「へっへっへっ、何時の間にか大変なことになってますねぇ」

「この声はネロ!」

「正解です。うれしいですねぇ、声だけですぐにわかってもらえるなんて」

 

その言葉と同時にファルス大臣の影が膨れ上がり、その中から何者かが現れた。

すごい、影を使った転移か。

 

「お、お前は誰だ!」

 

ファルスが驚き叫ぶ。

 

「今、あの少年、いや魔王様が言ったじゃないですかぁ」

「馬鹿な!お前がネロだと!」

 

ファルスが驚きで目を見開く。

 

「そうです」

 

ファルスが驚くのは無理もない。今のネロの姿は俺達が知っているネロの姿とは似ても似つかなかったのだから。

ぼろぼろな服が白いタキシードのような服に、曲がった背中が真っ直ぐに。

話し方が同じじゃなかったらわからなかっただろう。

 

「馬鹿な……貴様は死んだはず!」

「確かにワタシはあなたに殺されそうになりました。ですが、あの時、魔法が直撃して燃え尽きる寸前、真の姿に戻れたのですよ」

「真の姿だと」

「あれ、知らないのですかぁ。へっへっへっ、だめですねぇ。
我々、魔族はそこにいる魔王の側近のように普段は人と変わりない姿をしているが、もう一つ姿があるのです。
それが真の姿。力が格段に上がり特殊能力が備わっていることもある。
しかし、どういう条件でその姿になれるか、どういう条件でまた元の人型に戻れるのかが一切不明。
しかも個々で条件が違うというおまけつき。私はどうやら死ぬ直前が真の姿になれる条件だったようですが。
おまけにどんな姿になるのかも想像つかない。私は幸運なことに真の姿も人型でしたがねぇ」

 

ネロが薄ら笑いをしながら言う。

 

「それが、貴様が生き残っているのとどういう関係がある。私は少なくても貴様の両手両足が燃え尽きたのは見たのだぞ」

「特殊能力ですよ。真の姿に戻った私はある特殊能力が備わっていたのです。
それは、超回復。完全に死にさえしなければどんな怪我もたちどころに回復する。
まあ、回復する限界はあるんですがね。現に右手の指が無いままですから」

 

ネロが何とも無いように右手を軽く振る。

 

「それでネロ、お前は何をしにここにきたんだ?」

 

俺はネロに疑問を問い掛ける。

 

「さっきのセリフを聞いた限り、今がどんな状況か知っているはずだ。なのにここに現れたのは何故だ?」

「そうですねぇ、これでもワタシは仕事にプライドを持っていましてねぇ。きちんとケリをつけようと思いましてねぇ」

「なっ、もしかしてまだ名雪を」

「そうだとしたらぁ」

 

にたーぁっと笑いながらネロが言う。

 

「くっ……」

 

俺は右手の封印をいつでも解ける状態に身構える。

そんな俺の姿を見てネロがいつもと変わらない、下卑た感じで、そして面白そうに笑う。

 

「安心してください、姫に危害を加えるつもりはありません」

 

そう言って、ネロはもう顔面蒼白になっていた男を睨みつけた。

 

 

<香里視点>

 

な、なんなのこの展開は……

あのファルス大臣が黒幕で、秋子さんを殺そうとして、名雪が泣いている……

そしてネロが現れて大臣を睨んでる……

もう、何をどうすればいいのかも思いつかない。

ただ分かっているのは、もうそう長くない時間にあたし達全員死んでしまうということだけ。

 

「な、何を、何でこちらを見ているんだ、ネロ」

 

そんな中、ファルス大臣がネロに向かって言う。

顔は怒っているのに声が弱い……もう叫ぶ力も残っていないのかもしれない。

 

「言ったでしょう、私は殺し屋という今の仕事にプライドを持っていると。
こっちにも非があるとはいえ、あなたはそのプライドを契約違反という形で酷く傷つけました。なので、その報いを受け取ってもらいましょう」

「ふ……ふっふっふ、あっはははは……今更何をするつもりだ?私を殺す事は無意味だぞ。
もう私の体は血がほとんどなくなり……もう死の一歩手前だというのに」

「そんなことは分かりきっていますよぉ。だからぁ、殺しはしません」

 

ネロが不気味なほどのいやらしい笑顔を大臣に送る。

 

「だったら……なにをする気だ」

 

ファルス大臣がそう言い放つ。

そうだ、ネロは何をする気なのよ……

あの、恐ろしいほどに悟りきって、歪んでしまったファルス大臣に、もう死ぬ寸前の大臣に、何を……

 

「おや、わかりませんかぁ?まあ、仕方ないでしょうけど。まあそれなら、わからないままでいてもらいましょうかぁ」

 

そう言って、ファルス大臣の後ろへ回り込み、体を動けないように押さえ込む。

そして徐々に大臣の影がうねり始め、二人の体が沈み始めた。

 

「そうか……私をこの場から転移させて……被害を無くす……今、私が望んでいる事を潰すと言う事か……」

「そうです、もう頭にもほとんど血がまわってない状態でよく理解しましたねぇ」

 

そうか、その方法があったのね。

けど、転移魔法は恐ろしく高度な技。失敗すれば空間の隙間にはまって永遠に抜け出せなく可能性もある。

ネロは召喚系の魔法を得意としていたからこそ、秋子さんでも今はもう出来なくなってしまっている転移魔法が使えるのだろう。

 

「く、しかしこの状況だと貴様も爆発で死ぬ事になるぞ」

「別にかまいません、もうワタシは超回復の力を限界まで使ってしまいました。
お陰で、実はもう二度と傷が回復することが叶わない体になってしまってましてねぇ。もう廃業するしかないんですよぉ。
だからぁ、あなたの怒りや苦しみ、悲しみや悔しさが滲み出てる顔を見ながら逝けるのなら、もう本望です」

「くそぉ……」

「そう、その顔です。へっへっへっ、良い、良いですよぅ、最高です。もっともっとワタシを喜ばしてください」

 

そう言って高らかにネロが笑う。

あたしはその残虐な笑みに苛立ちを覚える。

あたし達は形はどうであれ、助けられているにもかかわらず、あの笑みは喜びも何もかも奪い去ってしまう。

 

けど、あたしはネロに対して何も出来ない……

ファルス大臣を許す事ができないし、それよりなにより自分が死んでしまう。

だから見ていることしか出来ない……

 

そしてあたしがそう言うことを思っている間にも、二人の体はみるみる影に飲み込まれていく。

大臣はもう諦めたのか表情から怒気も何も感じられなくなった。

その後ろでネロが笑みを浮かべ続けている。

そしてもう肩まで影に飲み込まれた時、ファルス大臣の視線が一点に集中する。

見ているのは……名雪!?

その後、大臣は悔いるような優しい表情に変わって、そして完全に影に飲み込まれていった……

その直後、大音量の爆発音が鳴り響き、もう主がいなくなり消えかけていた影から爆風が吹き上がった。

 

 

そして、部屋に静寂が訪れる……

誰も、何も話さない……

けど、これで終わったんだ。

長いようで短かった、名雪が狙われたことから始まった事件が、このやりきれない思いとともに今、終わったんだ……

 


あとがき

えと、何なんでしょうかこれは……

大まかな流れ的には変わりはないのに何でこんなに暗めの話になってしまうのだろう……

最後の一行は香里の思いというよりは私の思いだったりしてw

というわけで26話です。

終わり方がどうであれ私的第一部の一番の事件が終了しました。

結局、祐一に何の活躍もありませんでした。

こんなはずではなかったのに(泣)

当初の考えではネロもファルス大臣もいなかったし、ドラゴンの代わりに魔族のボスクラスが出てくる予定でした。

そして祐一大活躍〜!っていう予定でした。

と言うわけで、ファルス大臣の過去の話なんて書く予定なんか全くなかったのです。

文稼ぎのために書いたものだったりしましたが、そのお陰で話がガンガンとシリアスに。

いつの間にかファルス大臣狂っちゃいましたし。

そんな予定じゃなかったんですよ。書いているうちにそうなっちゃったんです。

ネロも最後はちょっと良い奴で終わろうと思ってたのに完全にヤな奴になっちゃったし。

おまけに笑いっぱなしだし。

頑張ってこの雰囲気に軌道修正を〜

あと、今回のサブタイはスパイラルから拝借しました〜

というわけでまた次話で!

 

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名雪 真琴 あゆ 香里 美汐 佐祐理
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