バトルフィールドオブチルドレン

第25話 黒幕


<美汐視点>

「と、まあこれが相沢さんが魔王になったいきさつを、相沢さん本人から聞いた話も加えたものです」

 

そう言って私は一息つく。

まったく、この国の大臣クラスの前に連れてこられて今の所本当に相沢さんの腕に関して詳しく聞かれるだけとは……

少し意表をつかれましたね。

けど、まさか司のことまで話してしまうなんて……自分で自分に驚きます。

よほど親しくなった人でもこの話はあまりしないというのに……

けど、それを話させてしまう空気がここにあります。

私の体を優しく包み込み心穏やかにさせ何もかも話してしまいそうになる空気が……

事実、私はそのときあった事をほぼ包み隠さず話してしまった。

その空気を作っているのが、会った時から女神のような笑顔を絶やさない秋子女王、その人である。

この大国を女性の細い腕ひとつでここまで政治を安定させ、民衆の圧倒的な支持を得ているのもこれならうなずけますね。

よほどのことが限りこの人の前では嘘も何もつけないでしょう。

 

「さて、聞かれたことはお話しました。他には何かありますか?」

 

一応、相沢さんが魔王になって帰ってきたとき、うれしさや自分に対する怒りやらで相沢さんの胸の中で泣いてしまったこと。

真琴がちょっと予想外のことがあったけどなんとか無事に魔族に転生できたこと。

相沢さんが自分の側近に私と真琴を指名したこと。

等、それはそれでいろいろありましたが、そこまでは話す必要はありませんですしね。

今ここにいる方々には聞きたいと思っていることは今までの所で終わっているはずなので。

 

そしてもう一つその時の事で思い出した……

相沢さんが私の事を『天野』に、私が相沢さんのことを『相沢さん』と呼ぶようになったのも相沢さんの側近になった時からでしたね。

私が相沢さんに『私より上の立場になったのですから、いつまでも私のことをお姉ちゃんと呼んではいけません』と言って。

そして『私のことは天野でかまいません。あと私もこれから相沢さんと呼ばさせてもらいますので』と続けたんですよね。

相沢さんとしたのは流石に魔王様と呼ばれるのは嫌がるだろうなと思ってのことだったのですが……

『真琴は僕の事祐一って呼んでるじゃないか、だからお姉ちゃんもお姉ちゃんでいいじゃないか』と言い返されましたっけ。

けど、『真琴がそうなら、より私だけでもそういう風に呼ばないと魔王という威厳が薄れてしまう』

そして『そして祐一さんもそう呼んでもらわないと他の者達に示しがつかなくなってしまいます』と私がその上に重ねて言って。

話し合いの末、公的の場ではその呼び名で。私的な場では『美汐』『祐一さん』となったんでしたっけ。

ふふ、久しぶりに思い出すと妙に笑えますね。

けど今になっては相沢さんも天野と呼ぶことに慣れ過ぎてしまってどんな場所でも天野としか呼ばれなくなってしまったのが、

自分で言い出したことなのにちょっと悲しいですけど。

そんなことを女王の次の言葉を待ちながら心の中で思い出していた。

 

「そうですね、今の所はそれで十分です。というわけで、今度は美汐さんの方から私に何か話したい事はありませんか?」

「私からですか」

「ええ、先ほど私に会いたかったと言っていましたので」

 

そう秋子女王が言った。

これはちょうどいいですね。この国へはネロの件を対処するという事を口実にして、相沢さんを探しに来ただけでしたが。

ここであの話だけでもするだけでも相沢さんの夢のためにも良いかもしれません。

 

「では、一つだけ……本当はいきなりこんなことを言うべきではないとは思うのですが……」

 

そして私は一息おく。

 

「今すぐには言いません何年かかってもかまわないので魔族との友好協定を結んでいただきたいのです」

 

その言葉で場が騒然とする。

当り前でしょうね、今まで自分たちを襲って連中からいきなりそんなことを言われてもどういう返答をすればいいのかも分からないですし。

そして結構な時間が……いや、実際は短かったのかもしれない。けど私にはとても長い時間に感じられた。

その時間、私は秋子女王の返答を待った。

 

「了承」

 

そしてそう一言言った。

 

「えっ……?」

 

ほんの一言だったので、私は聞き間違えたのかと思ってしまう。

 

「え、ああすいません、いつもの癖で。わかりましたよ美汐さん、こちらからも喜んでお受けします」

「あ、ありがとうございます!」

 

私は深くお辞儀をする。

まさか、こんなに簡単に話が通るとは思ってもみませんでした。

相沢さんにとって叶えたい夢、私達にとっては叶わぬ夢だったものが一歩動き始めた。

嬉しくて少し涙が出そうになる。

けど、その喜びを打ち消す声があがる。

 

「女王様!私は反対ですぞ、魔族との友好協定なぞ!魔族は敵、敵なのですぞ。
今まで、我々人間がどれほどのことをされてきてるのか知らないはずはないはず!」

 

その声の方を向くとその主はファルス大臣でした。

その顔は一目でわかるほど怒りに満ち溢れていますね。

 

「ファルス大臣、あなたの言うことともわかりますし、知っていますが残念ながらその意見は却下させてもらいます」

 

女王は先ほどとはうってかわって鋭い視線でそう言う。

何かありそうですね。

その言葉でファルス大臣は予想に反してあっさりと引き下がった。

そして悔しそうな顔をして少し俯く。

 

「すいません、少しお騒がせをいたしました。では、これからの事どうしましょうか?」

 

さっきの視線からまた元に戻って優しい笑顔に戻って女王が言う。

 

「あ、どうしましょう。とりあえず相沢さんが起きてから……」

 

そう話をしているとき私の左側から凄い熱量を持った火の玉が秋子女王に向かって襲い掛かった。

あの熱量はフレイムボールおも超えるマグマボール!

あんなものを喰らったらひとたまりもありません。

 

「お母さん危ない!」

 

私の後ろから水瀬さんの悲鳴が聞こえる。

あまりに突然でしかもありえない事だったので秋子女王も含めて誰も対処ができない。

 

駄目です!間に合わない……

そして衝撃と爆音が巻き起こった……

 

 

 

 

 

<祐一視点>

 

「ん〜よく寝た!」

 

それにしてもあんな夢を見るなんて……二日前も昔の夢を見たし……

まだそんな歳じゃないのにな。

そんな事を思いながら俺は微かに笑みをこぼす。

 

そして急に気づいて慌てる、こんな所で寝ていたことを。

俺はどうしたんだっけ、確かドラゴンの送り返しの後……

そうだ、天野や真琴は!

寝る前、一心不乱にご飯を食べていたけど、微かに天野や名雪達が近くにいた事を覚えていた俺は周りを見渡す。

しかし、食堂のおばちゃんや食事をしている兵士の人達以外には誰も見当たらない。

やばい、危険だ。早く探し出さないと!

 

一応説明をした、名雪達が近くにいるはずだから大丈夫だとは思うけど、あの二人は魔族なんだから、ばれたら何が起きるか分からない。

最悪、騎士団等と戦闘する事にでもなったらあの二人でもただでは済まない。

そう焦っていると、爆音と共に城が少し揺れる。

この感じからすると場所は玉座の間付近じゃないか。

それにこれは明らかに魔法によるものだ。くそっ、間に合わなかったのか。

俺は焦燥にかられながら、騒然としている食堂を抜け出して玉座の間に向けて駆け出した。

 

 

 

だいぶ玉座の間に近づいたな、あと4分の1ぐらいか。

食堂を飛び出してまだ1分も経っていないうちにそんな所までたどり着いた。

息もほとんど切れていない、名雪との早朝登校マラソンの影響がこんな所に出るなんてな。

そんな俺の前に全身を甲冑で身を包んだ集団が立ちふさがる。

 

「ここから先は危険だ早く立ち去れ」

 

その中の隊長らしき人が俺にそう言い放つ。

この姿はファルス大臣の直属の近衛騎士団だな。

久瀬の親父さんが隊長の王国騎士団と違って女王や大臣たちを護衛するための騎士団だ。

俺を城に運んでくれたのと同じ人たちだ。

 

しかし……早すぎる。

いくらファルス大臣直属といっても、普段は食堂よりまだ少し向こうにある詰め所や鍛錬場にいる。

なのにその人達が爆発後すぐに玉座の間に向かっている俺の前にいるはずが無い。

ということは元々この付近にいた事になる。

まるでこういう事が起きるのを分かっていたかのように……

 

怪しさを感じた俺は、まさか自分達が言っているのに通るはずが無いと思っているのか思ったより隙がある。

そこを突き、強行突破を掛けた。

それは上手い事いき、その集団を抜ける事に成功する。

全身甲冑だ、一度突破されたら追いかけてはこれないだろう。

 

そして最後の曲がり角を抜けて玉座の前にたどり着く。まだ食堂から2分も経っていない。

中の様子が気になり一気に扉を開けようとするが、さっきの嫌な予想が頭をよぎり手が止まる。

名雪達、美汐達大丈夫なのか……

いや、そんな事は開けて見ないと分からないじゃないか、俺。

そう手を開いたり閉じたりしながら自分に言い聞かせ、一気に扉を開けた。

 

「ごほっ、ごほっ」

 

部屋の中は爆発の影響で粉塵が巻き起こっていて視界が極端に悪かった。

目を凝らしてみると確か部屋の中央付近だったと思うところに人影が見える。

あれは……名雪達か。

俺は急いでそこに駆けつけ、みんなの安全を確かめる。

 

「一体、何があったんだ?」

「それがいきなり何者かが秋子さんにマグマボールを」

「しかもあの状況だと避ける事も障壁を張る事も間に合わなかった可能性が……」

 

そ、そんな……

 

「あゆ、とりあえず魔法でこの粉塵を俺が入ってきた扉から外に押し出すんだ」

「うん、わかったよ。……ウィンディー!」

 

すると部屋中に突風が吹き荒れる。

こ、これはちょっと風が強すぎる……あゆ、焦って力加減間違えたな……

けど、そのおかげですぐに視界が晴れる事になった。

そして玉座の方を見ると、悠然と何事も無かったかのように座っている無傷の秋子さんがいた。

 

「お母さん!」

「大丈夫ですよ、名雪」

 

名雪の顔がみるみる笑顔になっていく。

 

「な、何故だ……」

 

そしてその横でそうつぶやく声が聞こえた。

俺達がその方向に振り向くと呆然としているファルス大臣がいた。

 

「残念でしたね、ファルス大臣」

 

笑顔のまま秋子さんがそう言う。

けど、その笑顔がこの状況では寒気がするほど怖い……

 

「くっ、何故あれが外れた? あの状況から無傷のはずがあるまい!」

「さあ? それをあなたに言う必要なんてありませんしね」

 

えっ、今の言葉からするとマグマボールを撃ったのがファルス大臣……?

そんな…… ファルス大臣はもう亡くなった名雪のお父さんが生きていたときからこの国を支えていた人なのに。

俺にも優しくしてくれて……

 

「けど、この一撃であなたが黒幕、ネロのクライアントというのがはっきりしましたね」

「ふん、今のが無くても裏ではもう調べはついていたりするんだろうが」

「あら、よくお分かりで」

 

それに名雪の父親のような存在なのに……

そんな人が名雪を殺そうとしてたなんて……

 

「嘘、嘘だよね、ファルスのおじさん……おじさんが私を殺そうなんて……」

 

そう思ってる俺の横で先ほどまで笑顔だった名雪の顔が泣きそうな顔に変わっている。

 

「残念ですが姫様、ネロを使ってあなたを襲わせたのはこの私です」

「そ、そんな……」

 

顔が絶望の色に染まり名雪が泣き崩れる。

 

「何故だ、何故あんたがこんな事を!」

 

俺は怒りにうち震えながら叫ぶ。

 

「気に入らないのですよ、今のこの国の進んでいく方向が」

「方向……?」

「国王が亡くなってからからというもの、この国は魔族に対する政策が甘くなっている……
魔族の血が流れているハーフの人間が平然と城下町に住んでいる、そして今もこんな国の中枢に魔族を招き入れている。
何故だ!何故向こうから勝手に襲ってくる奴らなぞにこちらがそんな事をせねばならない!
奴らは滅ぼさねばならなんのだ、この世から完全に!だからこの国の体制を変える必要がある!
そのためにはどんな手でも使ってやる、滅ぼしたいと思っている奴らの力を借りてでも!」

 

ファルスの叫びが部屋に木霊する……

 

「だったら何故私を狙わなかったんですか」

「あなたはいくら現役を退いていたとしてもまだ強い。ならまだ姫様を狙う方が効率が良い。
民衆に人気があるあなたの娘である姫様がネロという魔族に殺されたとなると必然的に魔族殲滅の方に話が流れていく。
あなたがその流れを止めたくても民衆がそれを許すはずが無い。私はそれだけでも一応満足できる。
もちろん娘の死に悲しんで隙ができればあなたも亡き者にしようとは思っていましたがね。
しかし、あのネロが使えなかった。何度も殺しを失敗しおって、おまけに死にかけてる始末。
だから処分してやったわ。まあ、どちらにしても殺すつもりだったから死期が早まっただけだったんだがな」

 

くっ、なんて奴……

 

「しかし、そんな思いももう終わりです。観念しなさい」

「終わり?観念?何を言ってるんです。それはこちらのセリフです」

 

そしてファルスが指をパチンッと鳴らす。

すると全身甲冑の近衛騎士団がいっせいにこの部屋に流れ込んできた。

 

「こ、これは……」

「驚きましたか、こんなこともあろうかと我が騎士団を配置しておきました」

「…………」

「あーはっはっはっ!声も出ませんか。この近衛騎士団たちは皆、私と同じ考えをしている者達なんですよ。
誰も武器をここには持って入らない、だから直接攻撃は期待できない。
そして魔法は我が近衛騎士団全員、対魔法のコーティングを施している全身甲冑を装備しているから効き目は薄い。
あなた達が勝てる可能性はほとんど無い。さあ、観念しましたか?」

 

あからさまに挑発したような声でファルスが言い放つ。

どうする、どうする、いくら俺が力をもう一度覚醒させても倉田のおじさん達、大臣達を守りながら戦える自信は無い……

 

「ふふ、何の言葉も返ってきませんか。つまらない。まあいい、我が騎士達よ慈悲などなしにこいつらを殲滅しなさい!」

 

くそっ、絶体絶命か……

そう思ったのだけど……騎士団が動かない。

 

「何をしている、早くこいつらを処分しろ!」

 

し〜〜ん

 

「どうしたのだ、早く――」

「それはできないですね」

「な、なんだと」

             かぶと
そして隊長らしき人が冑をとる。

 

「お、お前は久瀬!な、何故ここに……お前はネロの召喚した魔物共と戦闘していたのではなかったのか」

「それはもう全部倒してきましたよ。そして城に帰ってくるといろいろ起きてるじゃないですか。
おまけに近衛騎士団がこの部屋を封鎖するように立っていますし。
その上、私達を襲ってくるじゃないですか、だから逆に倒して近衛騎士団の振りをしていたんですよ。
全身を甲冑で覆っていますからね、入れ替わっていても気づかれないし」

 

久瀬のおじさんが歳に似合わず子供がいたずらしたような声で言う。

 

「くっ、うぬぅぅぅぅ…………」

「さあ、これで形勢逆転ですね。本当に終わりですよ。ファルス大臣」

 

秋子さんがファルスにそう告げる。

 

「あっはっははっははは、そうだな確かに私はもう終わりだ」

 

ファルスはそう言って天井を見上げる。

ついに諦めたのか……?

しかしその後、俺達の方を見るその目は諦めた人の目ではなかった。

                             ブラッディフィールド
「だが私一人で終わる気は無い!我が血を贄に、血の障壁!」

 

その言葉で本当に血の色をした障壁がこの部屋を包み込む。

 

「なにをする気だ!」

「簡単な事だよ、私はこれから自爆する」

「なっ……や、やめろ!」
                サクリファイスエクスプロージョン
「もう遅い!我が魂を贄に、生贄の爆発……」

 

そしてファルスを中心に光が集まっていく……

 


あとがき

よ、ようやく完成しました……半年ぶりです。

最悪、更新停止も頭をよぎった事もありましたが何とかなりました。

そして、書き方が何か変わったような感じもします……

それが良い方に向かっているといいなと思います。

それにしてもキャラが多いのはきついです……

この話なんか名雪と美汐以外のカノンヒロインズや男4人衆一切セリフありません。

書くと話がややこしい方向に向かったり、長くなって話が先に進まなくなったりしたのでカットしちゃいました。

なんにせよとりあえず、復活できました。

これからも宜しくお願いします!

 

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