<祐一視点>
「ふう……」
ベッドに横になりながらため息をつく。
ファルス大臣の事件が終わったあと、俺達は秋子さんの意見で一休みをする事になった。
俺は玉座の間から部屋が近いということで一足早く休んでいる。
香里達はまだ客間に向かっている所だろう。
そして名雪は秋子さんに呼び止められて玉座の間に残っている。
「俺は、何も出来なかった……」
さっきの出来事を思い出しながら呟く。
決して対処できない事態じゃなかった。昔の自分なら……
人間界に帰ってきてから右腕をほとんど封印したままで、魔王城を抜け出して旅をしていたときは一切使っていなかった。
まあ、封印に少しだけ穴をあけて旅の戦闘の補助程度には使ってはいたけどそんなものは使っていないのも同じだし。
それがここまで力の低下を招いていたなんて……
呪いや人に見られて恐れられるのが怖かったなんて言っていられない。
「まずは基礎体力の向上と右腕の制限時間を延ばせるように慣れることをまたはじめないとな」
そう自分に誓っているとき、ふとドアの方に目が向いた。
すると、ドアの隙間に紙が挟まっているのが見えた。
近づいてみてみると手紙だった。
俺はそれを開いて読んだ。
バトルフィールドオブチルドレン
第27話 真実
<秋子視点>
他の大臣達も全員退席させて、そしてこの場にはようやく泣くのも疲れたのか泣き止んだ名雪と二人だけになった。
私は玉座から立ち上がって名雪のそばに歩み寄る。
「お母さん……ファルスのおじさんが……」
名雪の言葉に何も言わず抱きしめて頭を撫でる。
さっきは女王であること、この国の事を考えて名雪の方に対して何も出来なかった。
その分を、今このときに……
するとまたこみ上げてきたのでしょう、今度は静かに泣きはじめた。
「名雪、お話があります」
私は優しくそう言った。
これを言うのはもう少し落ち着いてからの方がいいのかもしれない……
けど、今言うのが一番いい気がする。
「ファルス大臣のことです」
<香里視点>
「ファルス大臣のことなんですが」
誰もが無言で重苦しい雰囲気のまま客間に向かっていたあたし達に天野さんの一言が響く。
「あの人のことを誰か詳しく知ってませんか?」
「え、詳しくってどういう?」
「ほとんどの人が魔族に嫌悪や憎悪を抱いているのは理解しているつもりです。
しかしあの人の魔族への憎悪が尋常ではなかったので過去に何かあったのではと思いましたので」
それはあたしも思ったことだった。
名雪から聞いていた話ではああいうことをする人ではないと思うから。
「それなら私、お父様から聞いたことがあります。ファルス大臣は子供の頃に魔族に親を殺されたらしいです。
それは酷い殺され方だったらしいです。確か今から30年前ぐらい前の話だったと思いますけど……」
その佐祐理さんの言葉で天野さんがなにか思うところがあったみたい。
「その話なら聞いたことがあります。犯人は人間を皆殺しにしようと思っていたみたいで、人間を20人ほど殺害。
最後は両親を殺された子供に殺された……と」
<名雪視点>
「……ということがあったんです」
抱きしめられたまま、お母さんがファルスのおじさんの昔話を語ってくる。
お母さんのぬくもりが私の心を落ち着かせてくれる。
小さいときにお父さんが死んだわたしは、片方だけど親がいない寂しさが分かる。
それが両方でしかも殺されたとしたら犯人の魔族を許すことができないのも分かる気がする……
だからといってお母さんやわたしを殺そうとしたのは悲しすぎるし、許せない。
でも、やっぱりまだ信じられないんだよ……優しい笑顔のおじさんが思い浮かぶんだよ……
すると、そんな私の思いがわかったのかお母さんの腕の力が少し強まった。
「名雪、別にファルス大臣のことを無理矢理嫌いになろうとしなくていいのよ、逆に許そうとも。
この話をしたのもそういうためにしたのではないし。ただ名雪に真実を教えるためにしたのだから。
そこからどう思うかは名雪の自由。さっきのままだと名雪、潰れてしまいそうだったから……」
嫌いにも、許さなくてもいい……どう思うかはわたしの自由。
私の思いは……
「お母さん、わかったよ」
わたしは今できる精一杯の笑顔でお母さんを見た。
ファルスのおじさんのことはやっぱり嫌いになれないよ。あの笑顔が本当のおじさんだと信じて……
けど、そこで一つ気になったことがあった。
「お母さん、何でお母さんはそんな事件があったことも知っているのにあんなに簡単に天野さんの話をすぐに受け入れたの?」
<美汐視点>
「私は女王本人では無いので絶対だとは言えませんが、女王が私の話を受け入れてもらえたのは真実の書を読んだせいだと思います」
川澄舞さんから質問を受けた私はそう答えた。
「……真実の書?」
「初代伝説の勇者が同じく初代の魔王から聞いて書き記した、今では闇に葬られた歴史の真実です。
その内容は、魔族が人間を襲うようになった原因は実は人間が魔族を裏切ったと、簡単に言えばそのような事が書かれているはずです」
その言葉で皆さんが驚愕の顔をする。
まあ、当り前ですよね。自分達は被害者だと思っていたのが実は自分達に原因があるなんてことを聞いたら……
<名雪視点>
「そ、そんな……本当なのお母さん!」
ライカンスロープ
「本当です。昔、原因は分かりませんが人間界、魔界、そして人狼が住む世界が一つに繋がる事件が起こりました。
そして人狼が人間と魔族をいきなり襲い始め、人間と魔族は共に協力してこれに勝利。人狼は絶滅したといわれています。
その後、魔族は先の戦いでの共闘から人間との共存繁栄を求めてきました。人間側は一人のある国の王が中心にそれを受け入れることに」
そこでお母さんは一息入れる。
そして少し顔が険しくなった。
「しかし数ある国の中には魔族の力にに恐怖する、王もいました。魔族の強大な魔力からくる戦闘力に。
そして和平調停の場で悲劇が起きました。魔族に恐怖する王がその場で巧妙に仕込んでいた毒薬で共存を受け入れた王を殺害。
それを魔族の仕業として魔族の代表を右腕を失う重症に追いこんだのです。何とか魔界に戻ってきた代表は怒り狂い。
その後の研究のために保存していた人狼の右腕を自分に移植。魔王として人間を襲い始めたのです」
「それが……真実……」
「そう、そして人間側は殺害を企てた王が偽の事実を発表。魔族との今までに至る長い争いが始まったのです。
ファルス大臣を襲った魔族もその事を許せないでいた一人だったそうです。そしてその王がこのカノン王国の初代国王なのです」
「そんな……」
「私はその事実をこの城の地下深くに保管されている真実の書を読んで愕然としました。
そして少しでもいい。後の世に何か少しでも共存に向けての種を残せたら良いと思うようになりました」
そしてお母さんはそれが私が天野さんの話をすぐに受け入れた理由よと付け加えた。
「さて、いろんな話をし過ぎたかしら?名雪も少し休みなさい。
さっき、祐一さん達にも言いましたが爆発やら何やらでこの部屋もぼろぼろになってしまったし。
詳しい話はまた明日にすることにしたし。もうそろそろ昼御飯の時間になるしお友達と食べに行くのもありよ」
あの事件の後の上、今の話を聞いてご飯を食べに行くような気分でもないけど、このままここにいるのも意味無いよね。
お母さんもこのあと部屋に帰るみたいだし。
「わかったよ、わたしもいったん部屋に戻るね」
そう言って、私は玉座の間を出て行った。
<秋子視点>
ふう、名雪は行きましたね。
まだ完全とは言えないけれどだいぶ立ち直れたみたいでほっとしました。
迷いましたけど大臣のことを話して正解でした。
なんだかんだで強い子に育ってくれてうれしいです。
さて、と……
「シンジ、アスカ。まだいますね」
「はい」
「ここにいるわよ」
私の声に二人が天井から降りてくる。
「さっきは助かりました。あなた達がいなければファルス大臣のマグマボールが当たって、今がどうなっていたか」
「ホントよぅ、秋子さんらしくない失敗よね」
「ちょっとアスカ、今はまだ仕事中なんだから秋子さんはダメだろ」
「あ、そっか」
ホントに助かりましたよ。
本当にさっきは油断をしていてもうバリアを張る事も避ける事も出来ない状態でしたから。
二人が現れてバリアを張ってくれなければ、死んでいた可能性が高かったですね。
じゃれあう二人を見ながらそう思う。
「ふふふ、相変わらず仲が良いわね」
「そんなこと無いわよ」
「まあ、そういう事にしときましょうか。あと、無駄手間をかけさせましたね」
「それは仕方ないわよ。あの魔族の二人が現れるのもファルス大臣があそこまで早く暴走するのも予想できないわ」
「気にしない方がいいですよ、女王様」
「ありがとう」
けど、そういうわけにもいかないのです。
大臣の影に完全に引きずり込まれる寸前の悔いたような表情。あの時、大臣は泣き崩れている名雪を見ていました。
おそらく、泣き崩れていた名雪を見て親を殺され一晩中泣いていた自分とかぶったのかもしれません。
その時まで名雪の方に視線を向けなかったのは見てしまったら心が鈍るのがわかっていたからでしょう。
そんな大臣だったのですからあんな考えに至る前にもっと話をしておけば、ああならずに済んだかもしれない……
「とりあえず、今はこの部屋を直さないといけませんね」
私が考えている所にシンジから意見が出る。
「そうですね。さすがにこのままではいけませんし」
「それならアタシがミサトに言っておくわ」
ミサトとはアスカ達の上司の人です。
「お願いしますね。じゃあ、私も休むから二人共戻っていいわよ」
「わかりました」
「やっと、休みがもらえるわ〜」
そう言って二人が部屋から出て行く。
「ふう、悔いがたくさん残る事件でした……けど、私は魔族との共存を目指します。それが私の夢ですから」
誰もいない部屋で私は一人でそう誓いなおした。
<香里視点>
「さすがにお腹が減ったわね」
「そうですね、さっきお姉ちゃんぐぅ〜って鳴ってたもんね」
「こら、栞!」
美汐ちゃんから驚愕の話を聞いてから数時間、あたりはすっかり暗くなっていた。
その間、途中でやってきた名雪も含めてずっとみんなで喋っていた。
まず名雪もやってきた顔をみたらかなり元気になっていて嬉しかった。
あの名雪をここまで元気にしたのだからさすが秋子さんだなと素直に思う。
そしてそのお喋りで美汐ちゃん達ともだいぶ仲良くなった。
話の話題はやっぱり、お互いの共通点である相沢君に集中した。
けどそれ以外で驚く事実がわかった。
美汐ちゃんの年齢だ。
魔族は魔界にいるとき、正確には瘴気がある空間にいるとき肉体の成長が遅くなるらしい。
大まかに言うと4年で1年分の成長との事。
だから美汐ちゃんは肉体年齢は15歳くらいなのに本当の年齢はもう40前後。
それを聞いたときはみんな全員「え〜」と叫んだくらい驚いた。
これで美汐ちゃんが話した過去話で相沢君が美汐お姉ちゃんと言ってた理由が分かった。
年上に見えてたのね、というか普通に年上だけど。
けど、話していると肉体だけじゃなく精神の方もおばさんくさい所はあるけどあたし達と同じくらいに感じた。
「もうすぐ夜ごはんの時間だから食堂行こうよ」
「そうですね、佐祐理も昼御飯食べなかったからお腹減ってきちゃいました」
「あう〜真琴も」
と、言う事で全員で食事に行く事になった。
<祐一視点>
「おい、手紙の通りにきたぞ」
あの手紙にはものみの丘に来いという内容とその差出人が書かれていた。
「まったく、なんでこんなちょうど夕食どきの時間を選んだんだよ」
「それはこの時間だとこんな所にくる人はいないからね」
「まあ、いいさ。で、何のようなんだ、一弥」
そう言って俺は差出人、一弥を見る。
「それは、相沢祐一。お前に決闘を申し込むためだ!」
一弥は俺に向かって指をさしそう強く言った。
あとがき
予定より少し遅れてなんとか27話できました。
祐一「ふう、俺も久しぶりに登場だな」
そうだね〜おおよそ8ヶ月半くらいかな。
祐一「『そうだね〜』じゃない!……けどこれ以上言ってもしんどいだけだから先に行くか」
助かります。
祐一「で、今回の話だが名雪の立ち直りが早すぎないか?」
それはですね……話の展開上、名雪が普通に戻らないと話が進まないのですよ。
いい加減、人間ヒロイン組と魔族ヒロイン組を仲良くしないと相手同士の呼び方をどう書くか悩むし。
なんか、その場面もかなりスルーしちゃいましたけど。
祐一「それと視点の切り替えが多くて辛くないか」
それは少し思っています。
けど同じ時間に別の場所で同じ話をしてるのをどう書けばいいのか思いつかなくて……
祐一「あと、何かエヴァのキャラが出てるけど。いきなりだな」
え、祐一君覚えてないの……アスカは初登場じゃないんだよ。
16話に出てます。シンジも名前だけなら。
ええ、その原因はそれからこの話まで1年7ヶ月もかかってる私の責任ですけど……
祐一「そして次は俺と一弥の決闘だな」
そうです、もうそろそろ次の段階に話が入っていく(はず)のでシスコン一弥の祐一に対する思いに決着をつけてもらおうと思って。
祐一「ということはとうとう俺にも活躍の出番が!」
そうですね〜ようやく強さの断片を見せてくれるはずです。
祐一「『はず』ってのが気になるな……」
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