バトルフィールドオブチルドレン

第16話 何かが起こる予感


「―――はい、分かりました。私の方から騎士団の方に伝えておきます」

 

秋子さんが真剣な面持ちで言う。

ここはカノン城の玉座の間。

 

俺達はネロと戦ったあと、あの場所でみんなが落ち着くのを待ってから百花屋には寄らず城に帰ってきた。

さすがに魔族が絡んできているとなると一刻も早くそのことを伝えないと思ったからだ。

そして女王である秋子さんにさっきあった出来事を話した。

秋子さんはその話を聞くとすぐに騎士団の方に連絡をまわす。

こういうときの秋子さんを見るとやはり一国を治めている女王様だなと思ってしまう。

事の重大さを理解して判断を下すのが早い。

 

「さて、ネロとかいう奴のことは話したしあたしたちはそろそろ帰りましょうか」

 

そしてすべてを話し終わった後香里がそう言った。

 

「そうですね、百花屋でアイス食べれなかったのは残念ですけど」

「うぐぅ、ボクもたいやき食べれなかったよ」

「それではみなさん泊まっていかれたらどうですか?」

 

すると秋子さんがそう言った。

 

「もう遅いですし、明日は決勝トーナメントがありますから」

「でも、なんか悪いです」

「気にしないでください。空いてる部屋はたくさんありますから」

 

確かに、このカノン城はやたらと客間?がたくさんある。

 

「そうですか、ならお言葉に甘えさせていただきます」

「……お腹減った」

「そうですか、なら食事にしましょうか」

「やった、久しぶりにまともな食事が食える」

 

北川が喜びの声を上げた。

そういえばあいつ一人暮らしだったな。

 

「ならお母さんも一緒に食べようよ」

「ごめんね名雪、まだ少し仕事があるのよ」

「そうか、なら仕方がないね」

 

名雪が残念そうにつぶやく。

 

「じゃあ早速食堂の方にいくか」

「そうね、なんかもうみんなお腹すいてるみたいだし」

 

俺の言葉に香里が相槌を入れる。

そして俺達は食堂に向かった。

 

 

 

 

<秋子視点>

祐一さん達は行きましたか……

 

「アスカはいますか」

 

そして私がそう言うと私のすぐ後ろに少女が現れる。

 

「はい、ここに」

 

その少女は栗色の長髪を髪留めで留めている。

歳は今年で15だったわね。

まだ若いけどこれでもカノン王国の諜報員なのよ。

 

「それで、今回は何を」

「大臣達やこの国の高官達のここ最近の関所の出入りと、その時誰か一緒にいたかを調べてください」

「はい、分かりました。けどさすがに一人では……」

「そうですね、今諜報部で手が空いているといえば……シンジが空いていましたね」

 

シンジというのは同じく15歳の諜報員でいつもアスカと一緒にいてる男の子です。

 

「ちょっ、秋子さ……とすいません女王様シンジはちょっと」

「何か問題でも、時は一刻を争うんです」

「分かりました、シンジといってきます」

「お願いします」

 

そしてアスカが部屋から出て行こうとするとふと私のほうを振り返る。

 

「そういえば女王様に一つ聞いておきたいことが」

「なんですか」

「アタシの仕事服なんで忍装束なんですか」

「私の趣味です」

「趣味……ですか」

「はい、趣味です」

「……」

「……」

「分かりました、それでは任務にかかります」

 

そういってアスカは複雑な顔をしながら部屋から出て行った。

だめですかね、忍装束。

 

それにしても魔族ですか……

騎士団やハンター達にも情報が入らないでこの城下町に侵入するなんて。

しかもクライアントがいるとのこと。

信じたくはありませんが、この国の高官達の中にそのクライアントがいるかもしれません。

関所では通行人の身分証明は基本的に行っているけど高官達とその連れの人は身分証明を行っていませんから。

……とりあえずアスカ達の調査報告がくるまで待たないといけないわね。

 

 

 

 

 

そしてカノン城か城下町のどこか。

ネロとクライアントと思われる男が話していた。

 

「何だと!王女を襲って失敗しただと!」

「思った以上に王女も含めて実力があったのでねぇ」

「だからあれほど忠告したではないか!あの連中はかなりの腕をもっていると!」

「(そう、本当に想像以上の実力だった。さすが歴代の魔王を倒した、こちらの世界で言う伝説の勇者を一番多く輩出した国ですねぇ。
特にあの少年、名前は相沢祐一といいましたか、大会での戦いを見ていましたが身体能力だけは常人より遥かに高かったですけど
剣捌きなどは並以下であのメンバーでは最弱のように感じられましたが、羽音だけで瞬時に何が起きたか分かった所といい、
あの王女様を助ける時に張ったシールドといい、あのキラービーが操られていたことに気づいたこといい。
魔法や魔族、戦闘に関しての知識がかなり豊富にあるようで、普通ではありませんねぇ、何かありますねぇ。
いやいや、ワタシの見る目も無くなってきたようですねぇ。けどこれで仕事の楽しみが増えたというものです)」

「聞いているのか、ネロ!」

「聞いてますよ、任せてください明日は本気でいきますんでねぇ。へっへっへっ」

「もう失敗は許されんぞ」

「承知してますよ」

 

そしてネロは去っていった。

 

「(くっ!あの魔族信用ならんな。おそらく今ごろは女王のところにあいつが現れたという情報がきている頃だ、

あの女は勘が鋭いからなワシの所にも捜査の手が伸びてくるかも知れん。これは別の手を打っておかないといけないかもしれんな)」

 

 

 

<祐一視点>

秋子さんに誘われてみんなで食堂に向かう途中、俺はふとあのことを思い出した。

 

「そういや香里、俺決勝トーナメントに勝ち残ったよな。あの賭けはどうなったんだ」

 

俺がそう言うと香里はしまったという顔をする。

 

「どさくさまぎれに無い事にしようと思っていたのに思い出してしまったのね」

「わたしは忘れてたよー」

「そういえばそういう賭けしてたんだっけ、お姉ちゃん」

「まさかこのまま無しとか言わないよな、香里」

「わ、分かってるわよ。一つぐらいなら何とでもなるし」

 

半ばやけになりながら香里が言った。

 

「え、何で一つなんだ香里」

「何でって、大会トーナメントにも残ったらあなたの言うことなんでも一つ聞くってことだったでしょ」

「それは香里が俺に言ったことだろ、『トーナメントにも残らなかったらあたしの言うことなんでも一つ聞いてもらうわよ』って、
俺は『トーナメントに残ったら俺の言うことなんでも聞いてもらうからな』と言ったんだぞ。つまり回数は関係ないということだな」

「し、しまった……あたしがこんな手に引っかかるなんて」

「簡単に言うと香里は俺のものになったって事だな」

 

と、俺が軽い感じで言ったがその言葉で場が凍りついた。

名雪達は何か考え込んでしまって、北川は肩をわなわなと震わせる。

そして香里は顔を俯いてしまった。

しまったな、そんなに落ち込んでしまったのか。

 

「香里、そんなに落ち込むなって、確かに引っ掛けるためにああ言ったけど本気じゃないんだから」

「そうなの?」

 

香里が顔を上げて言う。

けど、なぜか知らないが残念そうな感じがするのは気のせいか。

 

「そうだぞ」

 

俺の返事で名雪達がほっとした顔をする。

 

「けどまあ、昨日のあゆとの戦いで勝った時の奢りを割り勘にしてもらおうかな」

「それだけでいいの?」

 

やっぱり何か残念そうな感じで香里が言う。

 

「ああ、あまり無理難題を言うわけにもいかないしな。それでいいぞ」

「分かったわ……」

「相沢ーーー」

 

するといきなり北川が抱きついてくる。

 

「北川いきなりなんだ、俺にその気はないぞ」

「俺だってないわ。いやー相沢お前って本当にいいやつだな」

「何のことだよ」

「いやいや気にするな。それよりも早く飯食いに行こうぜ」

「お、おい、押すな北川」

 

俺はなぜか上機嫌の北川に押されながら食堂まで行くことになってしまった。

 

そして俺の後ろで名雪達が何か話していた。

 

 

「祐一が『香里は俺のもの』って言ったときは驚いたよ」

「ほんとですぅ、お姉ちゃんならそれを逆手にとって何かする事だって出来ますからね」

「ボクも冷や汗かいたよ」

「……祐一が鈍感で今回は良かった」

「あははー、そうですね」

「はぁ……もうちょっとで相沢君といろいろ……」

 

 

 

やっと食堂にたどり着く。

そして中に入ると兵士達が待ってましたといわんばかりに集まっていた。

間違いなく名雪達目当てだな。

なんか俺なんか眼中に無いって雰囲気だもんな。

それにしてもどうやって栞や佐祐理さん達が食べて帰るって分かったんだ。

どう考えてもさっき秋子さんに誘われたばっかりで兵士達が知るはず無いのに。

恐るべし兵士達の情報網ってところか。

というかこんなんでいいのかここの兵士達は。

 

そう思いながらあたりを見回すと見知った顔がいた。

なので俺は名雪達と少し別れてそっちに向かう。

 

「よお、久瀬きてたのか」

「ちょっと父上に用事があってね、斉藤君も来てますよ。それにしても相沢君こそ大勢で」

「そんなこと言って、知っててこんないいタイミングで飯を食ってるんだろ」

「な、何を言ってるんですか。僕は父上の用事が終わったあと兵士達に今日は倉田さんたちが来ているので、
女王様のことだからたぶん夕食に招待するぞ、なんてことは聞いていないぞ」

「おい、久瀬」

「何ですか斉藤君」

「思いっきりしゃべってるぞ」

「え、あ……」

 

なんていうかお約束な奴だな。

 

「ま、いいけどな。それじゃ俺達は向こうで食べるかな」

 

そう言って俺は名雪達のもとに向かう。

 

「ちょっとまってください、僕も行きます」

「俺はいい……」

「何を言ってるんですか、斉藤君も行きますよ。せっかく水瀬君と仲良くなれるチャンスじゃないか」

「い、いや、だから俺は」

「問答無用」

 

 

 

 

「うまい、うまいぞー」

 

俺が名雪達の所に帰ってくると北川が口いっぱいに料理を詰め込んでいた。

 

「まったく、あなたは品というものがありませんね」

 

する久瀬が北川に話し掛ける。

 

「久瀬か、来てたのか。おっ斉藤もいるのか水瀬がいるのによくここまできたな」

「僕が無理やり連れてきました」

「やるねぇ、まあおまえも佐祐理さん目当てだろうけど」

「美坂君にいつも付きまとっている君に言われたくは無いですけどね」

 

そして二人は笑いあう。

あの二人本当に仲がいいな。

 

 

「祐一君、どこ見てるの。早くご飯食べようよ」

「そうだよ祐一、今日は兵士さん達がたくさんいるから早く食べないとご飯なくなっちゃうよ」

 

俺が北川達の方を見ているとあゆと名雪が話し掛けてきた。

 

「舞さんだってすごい勢いで食べてるし」

 

あゆが言った方向を見てみると確かに舞が結構な早さで食べている。

よほどお腹がすいていたんだな。

横で佐祐理さんが苦笑している。

 

さてそれじゃ、俺も飯を食うとするかな。

そうして俺は楽しい夕食を過ごした。

 

裏で何かが蠢いている事も知らないで。


あとがき

どうもマサUです。BoC16話完成しました。

祐一「相変わらず遅かったな」

今回は理由あって新しいHP(天翔けるツバサ)を作ってたので。

しかもまた書かない期間が少し長かったのでスランプに……

祐一「まあ頑張っていこうや」

なんか祐一に慰められることが多い気がする。

祐一「気にしないほうがいいぞ」

そうですね。

祐一「そういえば今回出てきてるアスカとシンジって」

これは元ネタは言うまでも無くエ○ァです。

出番がほとんど無いキャラなので遊びで名づけました。

本当はアスカじゃなくてマナとしたかったんですけどマナはあまり知られてないと思ったので。

祐一「で、次はどうするんだ」

次は何か短編を書いてみたいなとは思ってるんですがネタが思い浮かばなくて。

祐一「落ち着いて頑張ろうや」

それでは第17話、決勝トーナメントで。

 

 

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