少年は焦っていた。

バイトで集めた薬草を落とさないように腰につけた小さなバックにいれ、右手に持った槍を周りの木々にぶつけないように気をつけ、彼のトレードマークとも言えるぴょんとはねた髪の毛を後ろになびかせ、少年――北川潤は森の中を疾走していた。

焦りと冬の気候とは思えない陽気さに溢れる汗を拭いながら彼はちらちらと地面に眼を向ける。別段木の根に注意している訳ではない。気をつけているのは見逃さない事をだ。


血痕。


それが途切れ途切れに残っている。
いつもならこんな血の痕など彼は無視している。
見なかった事にするのではない。見て、知っているから無視するのだ。

そう。彼は、北川潤は知っている。

この血が何なのか。誰が流したのかを。

この血は魔物のものであった。
彼がバイト中に出会った魔物。
彼が得意の槍で撃退した魔物のものだ。

だからいつもならこんな血の痕なんか無視している。

けれど、彼は疾走する。

顔を苦々しく歪ませながら。


「誰だか知らねぇけど……もちこたえてろよっ」


更にスピードを上げる。

障害物の多い森の中なのにまるで平地のように駆け抜ける。

この先で叫びをあげた誰かを助けるために。

自分が逃してしまった魔物――リザードマンの群れの一匹を倒すために。

彼は疾走する。




















「――――大丈夫か!?」


疾走した先に北川が見たのは放心したように地面に座りこむ少女だった。

その少女もこちらに気付いたようでゆっくりと北川を見て、にぱーっと笑う。


か……可愛い…………。


その笑顔を見て焦りを忘れ、見惚れるがはっと気付き頭をブンブン振り回す。


不覚! オレにロリ属性はないはずなのに!?

じゃなくてっ、オレは美坂一筋なんだ!!


もっと考えるべき事があるだろう、というツッコミを入れてくれる人間は残念ながらいなかった。


「……キミが……風さん?」


少女が首を傾げ、尋ねてきた。


「は? なんだって?」


風さん?

風? 何故に『さん』付け?

それとも人の名前なのか?

加是さん?

もしかしてオレ、加是章一さん(仮名)と間違えられてる?


「あ……、あはは。違うよね。ゴメン。なんでもないよ」

「そう? まぁオレ、章一さんじゃないしね…………」

「章一さん?」


いや、そんなキョトンとした顔でオレを見るなよ。言い出したのはあんただろ。

あれ……? つか、この子どっかで見たコトあるような…………。

そうだっ、確か――――。


「――――月宮あゆ」

「え? キミ、ボクの事知ってるの?」

「あぁ。有名だからね」

「もしかして…………じゃなくてもアレだよね……」


なんの事を言っているのか解っているのだろう。困った顔、というか軽く落ち込むあゆ。


「そ。あの『闘技場土埋め事件』だな。凄かったらしいじゃん」

「……言わないでほしいよ。すごく怒られたんだから」

「そりゃそうだろうな。あの土片付けるのに学園総動員したからなぁ……」

「…………うぐぅ」


それはともかく。


「大丈夫? なんかボーっとしてたみたいだけど」

「あ、うん。魔物との戦いが終わったから気が抜けちゃって」

「魔物って――……、リザードマン!?」


視線を周囲に動かし、リザードマンを発見する。
その腕の傷から北川が撃退した魔物で間違いなさそうだ。


やっべー……。オレ、リザードマン追いかけてたんだよな。月宮さんと呑気に話す前にリザードマンのコト確かめるべきだったのによ…………。


ハンターとしてあるまじき行為をしてしまった自分を叱咤する北川。
ピクリともしないので大丈夫だと思うが一応リザードマンの生死を確認する。

その際にやっと辺り一面が水浸しな事に気付く。


うん、死んでるな。水系の魔術で一発……ってとこか。


勿論北川の負わせた傷もあるが致命傷はそれだろう。


「えっと……どうかな?」

「ん? ちゃんと死んでるよ。魔術で一発って感じだけど……、違う?」

「うん。そうだよ。一発で倒しちゃった」


最も当てるまで何発も外しちゃったけど。と恥ずかしそうに続けるあゆ。


「でも、一発で倒すのは凄いと思うな。あ、それとも魔石使ったとか?」

「ませき…………?」


一言つぶやいて固まるあゆ。

微動だにしないあゆを見て北川は困惑する。


オレ……、なんかおかしなコト言ったか?


「そ…………」

「そ?」

「そうだった〜〜〜〜〜〜!!!!」

「うへぇ!?」


突然の叫び声に虚をつかれ驚く北川。


「そうだよ! 魔石あったんだよ! いっぱい持ち歩いてるのに何で忘れてるの!? うぐぅ〜……、そうだよ、魔石使えばあんな苦労しなかったのに……。も〜ボクってホンットダメだ〜…………。う〜ぐ〜〜……」

「えと…………、つまり魔石持ってたのに存在をすっかり忘れてて、そのせいでリザードマンとの戦いに苦労したってコト……?」

「…………うん。はぁ、忘れてなきゃあんなに悩まなくてすんだのに……はぁ〜……」

「あー、けどあれだよ。道具に頼らずに苦労して闘ったんならその分経験値が上がったはずだろ? ムダな苦労じゃないって」

「そう……かな?」

「おぅ。オレが保障する」

「……うん。そうだね。そうだよね!」


にぱっ元気良く笑う。


うん。この子は笑顔の方がよく似合う。


「ありがとう! えと…………」

「名前? 北川潤だ。よろしく、月宮さん」

「うん! よろしくっ、北川くん!」




















「それじゃ、そろそろオレ、いくわ。リザードマンも倒されてたし」


北川の目的はあゆのところに駆けつけて時点で済んでいた為にもうここにいる必要はない。元々の目的の薬草取りのバイトももう少しやっておきたいところでもあるので。

じゃーな、と別れを告げ、去る北川にふと疑問が浮かぶ。


月宮さんって……、確かC組だったよな。課外訓練って……もっと森の入り口付近のはずだったような……。


そう考えながら、なんだか身体が重い事に気付く。
後ろを見ていると北川の服をつかんで引きずられているあゆが居た。
引き止めようとしたが力が足りず失敗したようだった。


「うぉぅ!? ど、どうしたの!? 月宮さんっ」

「待ってよー……、一人にしないでよー……」


泣きそうな、というかすでに半泣きのあゆ。


えーっと。もしかして…………迷子ですか? あなた。

 
先程の疑問と今のあゆの顔。容易に想像がついてしまった。


「……実は仲間のみんなとはぐれちゃって」

「はぐれたって……訓練コースとえらく離れてるけど……、この場所」

「やっぱり見当違いな方向に走ってたんだ…………」


なんとも悲愴感溢れる表情から眼を離し、腰につけてバックをちらりと見て考え込む北川。


量としてはギリギリ…………、いや少し足りない……か。けど……まぁ……しょうがないか…………。

後でバイト先で叱られればいいだけだ。…………おっかねーけど、あの店主。


はぁ……、と北川はあゆに気付かれないように小さく溜息をつき、声をかける。


「オレで良かったら森の入り口まで案内するけど?」

「えっ。いいの!?」


ぱぁっと見違えるように明るくなる少女を見て北川は苦笑する。


「月宮さんがリザードマンに襲われたのはトドメをささなかったオレのせいだしね。そのお詫びだよ」

「そんなお詫びなんて……ボクが北川くんと会えたのもそのおかげなんだし、それに…………」


あゆはそこで言い淀んで、なんでもない。と言葉を打ち切った。
少し気にはなったがまぁいいか、と深く考えるのをやめる。


「それじゃっ暗くなる前に帰りますかっ」

「うん!」


彼女は元気良く返事をして北川の空いた左手に自分の右手をつなぐ。


「って! さり気になにしてんの!?」


見事に狼狽する北川。慌てて左手を離そうとするがあゆが思った以上に力を込めていたためそれは叶わなかった。


「北川くんと離れ離れにならないように手をつないでるんだよ。もう一人ぼっちになりたくないもん」

「うっ…………」


そう寂しい顔されたら離すわけにいかねーじゃねぇか…………。

つか、月宮さんの手柔らか…………。


異性と手を繋ぐ事にドキマギしながら、心の中で言い訳をする。


美坂〜。これは浮気じゃないからな……、信じてくれよ〜。

月宮さんを寂しがらせないためにしょうがなく、しょうがなくなんだ…………。


そう思いながらも顔が緩んでる北川。
ちなみに北川と香里は付き合ってるわけでもなんでもない。


「どうしたの? 早くいこっ」


北川の前に回りこんで上目遣いで覗きこんで来るあゆ。


その格好とってもグーです。けど今のオレにそうゆうのはやめてくれ…………。


目を逸らしながら力なく答える北川。
異性関係は意外とからしきな純情少年を無頓着な少女が引っ張って森の奥へと進む。

奥へ進んでどうするんだよ! と北川が気付くのはもう少し後になってからだった。




















暑い……。


左手から伝わる熱が北川の身体を侵し、灼熱の炎のように広がる。

……なんて言い方は勿論大袈裟だし、暑いと感じる原因は他にある。

というかこの森に来るたびに感じる疑問でもある。


「なーんでこの森は季節がメチャクチャなのかねー。森の外は雪だってのにここは桜が咲くような季節なんだよな」

「何でって言われても……、この『千重の森』はそういうところってしか言いようがないよ」

「そうだけどさ。四季がいっぺんにある森なんてどう考えてもおかしいぜ?」

「う〜ん、そう言われちゃうと……なんでなのかな?」

「いや、オレが聞いてるんだけど…………」


あゆの言った『千重の森』とは『囁きの森』と同じくこの森を指すものである。

『囁きの森』とは主に魔術師が使う名称で一般には『千重の森』という名称で通っている。

『千重』とは「数多く重なる」と言う意味で、この森で重なっているのは北川の言った『四季』である。

北に冬。南に夏。東に秋。西に春という具合に別れており、そのためこの森には西の春夏秋冬から東の春夏秋冬までの16段階の季節があるというなんとも摩訶不思議な森である。

今、北川とあゆがいるのは西の森で『春』の真っ盛りであった。


考えてみてほしい。

雪の降る北の大地にリザードマンがいるか?

ハンターとはいえ半人前のあゆが雪の降り積もる大地で魔物から逃げ続ける事が出来るか?

同じように――いや、更に障害物まで増え――北川が森を平地のように駆け抜ける事が出来るか?


答えは否である。


それを可能にするのがこの『千重の森』で、そしてそれがこの森のもう一つの特色であった。

何故こんな特色があるか、原因自体は解っているが『そう』なった理由は、諸説は色々あるがまだ解っていない。

解っていないがその存在はとても喜ばれている。


例えば、あらゆる地域の植物が育ち、それによる貿易で街を発展させる。

例えば、特定の気候にしか住めない魔物が存在でき、それはハンターの育成に非常にありがたい。


この『千重の森』によって雪華都は大きく発展してきた。

この広大で大いなる力と存在を持つ森が雪華都の生みの親と言って良いほどに。





その祖先の中で北川潤と月宮あゆは道に迷った。




















「どーして地図も持ってないのかな? 北川くんは」

「そ……そういう月宮さんだって持ってないだろっ」

「ボクは斉藤くんが持ってたから必要なかったんだよっ」


元々自分が悪いと自覚していた北川はそれ以上反論せず小さくなっていた。
それを見て、あゆは申し訳なさそうにゴメンと謝った。


「ボクが怒れる立場じゃないよね……最初に迷子になってたのはボクなんだから…………」

「いや、オレが悪いんだよ。この森にはよく来てるから地図はいらないなんて……、正直言って舐めてた」

「でもボクがいなかったら北川君が迷うことなかったんだし…………やっぱりボクが……」

「月宮さんは悪くないよ……、ホントオレが……」


そこまで言って苦笑しながら北川は言葉を止める。


「やめようぜ。どっちが悪いかなんてさ……、こうなっちまったんだから色々言っても変わんないし、この後どうするか考えよう?」

「……うん、そうだね」


でも……やっぱりごめん。と小さく北川に聞こえないようにあゆは謝った。


「日も傾いてきたし……野宿の準備したほうがいいな、こりゃ。夜に歩き回るのは危険だしよ」


野宿に適しそうな場所を捜し、その場所にあゆを留守番を頼み――最初嫌がったが――薪を拾いに出た北川は、落ち込んでいた。


オレまで迷子になるとはなぁ……、この辺りなら眼を瞑っても平気なつもりだったのに、マジで『つもり』だったとは……へこむわ…………。オレ一人ならまだしも月宮さんまで一緒の時にとは…………。ちきしょーカッコワリー……。

てか、今日オレ寝れっかなー……?

一人になるのあんなに嫌がってたし……、まさか寝る時までくっついてこないよな?

あ。でもそれってちょっと役得。じゃねーって……なに喜んでんだオレは、サイテーか? サイテーなのか!?


ぐおぅ、とうなだれる北川に朱みが混じった光が当てられ悲愴感が増している。


とぼとぼと歩きながら薪を集めた北川だったがあゆの待つ場所が近づくにつれシャキッと姿勢を正して元気よく戻った。
せめてあゆに不安を与えないようにという配慮だったがそれは無駄に終わった。

無駄なだけならよかった。

そこで北川の帰りを待つ少女――――















月宮あゆが消えていた。















周辺を捜してまわる。叫んで名前を呼びかける。

反応は、ない。

綿に水が染み込むように徐々に状況を理解していく。

力が抜け手に抱えた薪が落ちていく。北川はその音が遠くで聞こえるように感じた。

軽いパニックを起こしながら、自分自身を罵倒しながら走り、あゆを捜す。


なんで一人にしたっ!? なに喜んでたんだ! オレは!!

あの子が一人を嫌がってたのは知っていたのに! 何でオレは!?

一人になって落ち込みたかったのか!? ンな考えで不安がってる女の子をほっておいたのか!! マジサイテーじゃねぇか!!!


彼は森の中を疾走する。

リザードマンを追ってた時以上の迅さで。

あの時は決してつけなかった擦り傷を身体中につけながら。

自分自身への怒りとあゆの無事を願って。


その願いが通じたのかあゆはすぐに見付かった。


「月宮さん!!!!」


今までの人生で一番出したんじゃないかってほどの大声で彼女の名を呼ぶ。

しかし、少女に反応はなく。紅い空を眺めぼんやりと佇んでいる。


「どうしたの……!? 大丈夫!? ちょっ……月宮さん!!?」


肩を激しく揺さぶって初めて彼女は北川に気付いたように彼に視線を移す。


「ビックリした……、どうしたの? そんなに慌てて」

「どうしたって……!」


そのあまりにも呑気な質問に北川は怒りを覚えた。


「心配したに決まってるだろ!? 戻って来たら月宮さんいなくて……! オレが一人にしてっ。魔物とかいるはずだしっ。サイテーで……! あぁっもうワケわかんねぇ!!」


支離滅裂な北川の言葉でもあゆは自分の身勝手な行動で心配をかけた事が分かり、ごめん。と謝る。


「ホントにごめん……。けど……けどね……」


また北川が駆けつける前と同じように空を見上げ、


「呼ばれてるような気が…………したんだ」


紅い空より更に先を見るような視線。空を通じ、まるで別の空間を見ているようだ、と北川はそう思った。


「……いいや、もう。早く戻ろうぜ」


気が抜け、怒りも抜けた。身体にはなんとも言えない疲労感だけが残っていた。

けれど、北川が戻ろうとしてもあゆはそこを動こうとしなかった。


「どうしたの? 月宮さん。早く戻んねーと日が暮れるぜ?」

「…………ごめん。もうちょっと付き合って。たぶんすぐ近くだから……」


そう言ってあゆはゆっくり歩き出した。野宿する場所とは逆方向に。
北川は慌ててついていき、何をする気か、どこへ行くのか、そう聞き出したかったがあゆの雰囲気にたじろぎ口をつぐんでしまう。

あゆの足取りに迷いはなく、まるで行く道を予め知っているかのようだった。

世界はどんどん紅く染まり、全てが紅に包まれたその時を待っていたかのようにあゆの歩みが止まった。

あゆが止まり、ようやく北川に周りを見る余裕が出来て、目を向けたその風景に言葉を失った。




















桜。

無限に広がるように辺り一面に咲き乱れる桜。



湖。

桜に周りを囲まれ、深淵の底を持つ静寂の湖。



滝。

唯一の音源であり、地響きの迫力を持つ滝。





風が――――吹く。





風によって桜の花弁が舞い踊る。

舞った桜を湖が受け止める。

二つの関係を滝の水飛沫で一層輝かせる。





それが――――紅い。





紅に包まれる。

紅に覆われる。

紅に守られる。





血のように広がり。

炎ように盛り。

生命のように儚い。





全てが紅い。





紅い。





紅い。





その風景は観る者の感動を誘う物語。

その物語は聞く者の感傷を思う伝説。

その伝説は触る者の感覚を消す神話。





風と桜と水。――――そして、紅。





全てが混じり、全てが産まれ、全てが一つ。










その風景は本当に物語で。

その物語は真実に伝説で。

その伝説は絶対性を持った神話で。










それを観る者は例外なく――――奪われる。















心を。















間違いなく持っていかれる。

根こそぎ。

土台を崩壊するくらいに。

人生を丸ごと飲みこむくらいに。


心が壊れてしまうと理解してしまうほどに。


それが解っていても。

眼を離せない。

否。

心を取り返せない。




















風で舞う桜があろうと。

地響きの滝が流れようとも。

そこにあるのは静止で、静水で、静寂だ。





だけど。





波紋が一つ。





湖に広がる。





波紋が二つ。





波紋が三つ。





ふわりふわり、と。





つま先が触れる程度に歩く。





湖の上をふわりふわり。





少女が歩く。





静寂が――――破られた。










「キミが――――風さんだね」










空に向かって言葉を投げかける

質問ではなく、確認の言葉を。










風が――――吹く。










桜が舞い、少女を包むようにして優しく肯定の意を示す。










「――――ありがとう」










風が――――吹く。










桜が舞い、少女から離れるもののすぐそばで踊っている。





それは、なんという答えだったのだろうか。





周りからは解らない。





けれど。





少女には伝わる。





だから。





少女は頷き――――湖に波紋を創る。















風が桜を舞わせて少女を誘う。

導かれるように少女は歩を進める。





ふわりふわり。



ふわりふわり。





右へ左へ。



前へ後ろへ。





桜のエスコートに誘われるままに。

湖の上を舞台に少女が踊り始める。





ふわりふわり。



ふわりふわり。





滝の水飛沫が少女に降り注ぐ。



その水の冷たさに少女は身体を捻り、くるりと回転する。



それがなんだかとても気持ちよくて。





くるりくるり。



くるりくるり。





桜を、水飛沫を、周囲に舞わせながら。





少女は踊る。





くるりくるり。



くるりくるり。





両腕を広げて踊る。





くるりくるり。



くるりくるり。





指先に風が触れる。

指先に桜が触れる。

指先に水が触れる。





くるりくるり。



くるりくるり。





風を、桜を、水を、指へ絡ませ撫でるように滑らせる。





宝物を創るかのように滑らせる。

願いを想うかのように絡ませる。





それ故に優しく。

それ故に愛しく。





くるりくるり。



くるりくるり。





風が細く伸び。

桜が色を付け。

水が柔らかさを出す。





少女の指へ触れ出来たそれは――――糸。





細く長く桃よりも紅に近い色の糸。





くるりくるり。



くるりくるり。





少女が踊れば踊るほど糸は増える。





くるりくるり。



くるりくるり。





糸は束となり、やがて衣と化す。





くるりくるり。



くるりくるり。





少女は風を受け、気持ち良さそうに踊る。

少女は桜を舞わせ、楽しそうに踊る。

少女は水を浴び、麗しく踊る。

少女は紅の光と共に、穏やかに静かに艶やかに踊る。










羽衣を纏った少女――――あゆは。










風と桜と水――――そして紅を従えながら。










まるで天女のように――――















――――神話の世界を舞い踊る。






























〜あとがき〜

加是章一さんはこのSS内には存在しません(多分)

お久しぶりです。SSを書く時間がなくてちょっと凹み気味な海月です。

祐一は出ず何故か北川が出てきた今回のお話。
祐一があっさり出てきてもつまらんかな、という理由なんですが。で、白羽の矢が立った北川くん。

まぁ気まぐれの産物ですね(オィ

引き続きあゆも出てきた訳ですが、冷静に読んでみると電波少女だよなぁ……。

電波は北川の特権ではなかったのか!?(マテ

『うぐぅ』は電波が元凶だったのだろうか!?(だからマテ


まぁど−でもいい冗談は置いといて、『風さん』の正体もさて置いといて、名雪が出てこないなぁ…………(それこそ置いとけ

というかKANONキャラを早く全員集合させたいなぁ、と思っていますが。それは順番待ちってとこでしょうか。
集合したらしたで書きづらい気もするけど……。

とりあえず次回で新しくKANONキャラが出てきますので、誰かをお楽しみにしてくれたら嬉しいです。



海月さんから10話を頂きました〜

もう二桁の話数、早いですね〜

そして加是章一君の大活躍の回(笑

香里一筋の加是君があゆにときめくっていうのがあまりないので面白かったです。

そして最後に神秘的というか「風」さんが現れましたね。

この先どうなるのでしょう。

 

 

感想などは作者さんの元気の源です掲示板へ!

 

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