『魔石』という物が存在する。

魔石とはその名の通り魔力・魔術が施された石である。
この存在によって魔術師だけでなく魔力を持たない一般人も大いに助かっている。

『魔力』を宿した石。それは魔術師の補助的なものだ。

何故なら、これがあれば極々わずかな魔力によって魔術を発生させることが出来るからである。魔力も体力と同様で使用すれば減り、使いすぎると魔術が発生しないどころか失神することもある。回復するのも体力同様休んでいたら自然と回復する。だから如何に少ない魔力で効率のいい魔術を使えるかが魔術師の一番の資質とも言える。その効率の良さの一つが『魔力』を施された石の使用という事だ。

そして、もう一つの『魔術』を施された魔石について。

これも言葉通り『魔術そのもの』が施されているのだ。
一つ例を上げるとしたら、魔石を目標に投げつけ、ぶつかった瞬間魔術が発生する。『火』なり『水』なり『風』なり、発生する種類は石に施された魔術によって様々だが。とにかく魔術を施された石は、ある条件(さっきの例では目標にぶつける)を満たすと魔術が発生する仕組みなっている。これによって魔術師だけではなく魔力がない戦士や一般人にも広く使用される。特に旅をする時は是が非にも持っておきたい一品である。護身用は勿論のこと、『水』の魔石は手軽な補給水にもなる事が理由だ。










とまぁ、そんな感じの事を午後の授業でやってるワケである。
石橋が教科書を片手に説明を続ける。


「こんな風に非常に便利な魔石ではあるが未だ解明されていない部分もある。何年か前にも千年以上も前に創られたと言われる魔石が発掘されたがそのほとんどのメカニズムが不明のままだ。歴史上の有名な魔術師や研究者の哀川練鵬。蔵人・カイゼン。Mr.ルーツ。ユウリ・カーウェン。セイル・S・フォンなどの様々な者も魔石の研究をしたが同様に解明しきれてずにいた。それどころか謎が増えたとも言って良いだろう。そして創られただろうと思われる魔石もあり、それは未だ発見されておらずにいる。それを発掘出来たら一攫千金・億万長者になれるだろう――――」


祐一の後ろの席が『一攫千金・億万長者』の辺りでガタンッと鳴った。その席の使用者は寝てるにもかかわらず。


…………北川の奴一攫千金でも狙ってんのか?


そんなどうでも良い事を考えながら祐一は欠伸を洩らす。

授業とは総じて退屈なものである。内容をまったく理解出来ない者やすでに内容を理解している者にとっては更に。
授業の始まったばかりの時は7年ぶりという事もあって、非常に楽しみにしていた祐一だが30分もすぎた時にはもう飽きていた。


昔は面白かったんだけどなぁ……。とまた欠伸を洩らしながら思う。


それは石橋の授業が下手と言うわけではなく、7年以上も前、その頃は魔術どころか計算のやり方も知らない時期で新しく知る知識をすいすいと理解していった。興味があり、理解も出来れば授業でも面白い。そういう事である。

石橋の目を盗んで教室を見渡す。後ろの席の北川はさっきも言った通りぐっすり熟睡中で教科書すら出ていない。模範的とすら言えるやる気のなさだった。それとも午前の戦闘の疲れでもとっているのかもしれない。
おそらく前者だろう。

ちなみに彼の武器は槍は教室の後ろに立て掛けてある。


北川潤……か。なかなか面白い奴がいるな。


性格は勿論、戦闘にしても面白い。祐一は北川をそう判断した。

スピード重視の槍使い。試合の時の周りの反応の通り彼のスピードは十分Aランクでも通用する――と言うよりAの中でものトップクラスの迅さであった。そしてそのスピードの一段階上のスピードを誇る必殺技《闇突》。祐一はなんでもなく避けたように見せたが実は内心冷や汗モノであった。雷光のダメージもない試合開始にやられていたらおそらく避けきれなかったであろう。


……この能天気な寝顔からはとてもそんな風には思えないけどなぁ。


ふぅ。と祐一は他人に分からない程度に息を吐き視線をずらす。

彼の隣の席の人物は逆の意味で(こちらは正しい意味で)模範生の美坂香里だ。

その姿は拳士と分かる格好で彼女も接近戦を主とした戦闘スタイルであろう。しかし彼女は北川と違い魔術の方の腕も良く拳士としても魔術師としてもAランクの実力の持ち主らしい。近距離だけではなく中距離・遠距離もこなすオールラウンドタイプ。

そしてそれ以上に特筆すべきは彼女の頭脳だ。授業を受ける凛々しく、知性的な顔立ち。普段から見せる知識。彼女は勉強が出来るのではなく頭の回転が速い。『学年主席』と言う肩書きに驚くのでなく納得がいくそんな人物。


この年齢でAランクは凄いよな……。北川との試合の後の睨みも凄い迫力あったし。

…………あれ? つか、なんで俺睨まれたんだ?


んー、としばらく考えてみるが思い当たる事がない。


まぁ、知らないうちに恨まれるのは日常茶飯事か。


そう判断して思考を切り替える。

香里とは逆に納得できないのがこの少女。

相沢祐一の従兄妹。水瀬秋子の愛娘。そして陸上部『部長』の水瀬名雪だ。


……………………信じられねぇ……。


名雪はあの『蒼き絶対者』の娘でもあるし、この天然……もとい、おおらかな性格で周りを包みこむ雰囲気がある。そう考えれば『部長』と言う肩書きも納得出来る…………かもしれない。

祐一は名雪の昔を知っているからか(もしくは昔しか知らないからか)、どうにも頷く事が出来ないようだ。

それはともかく、彼女も母親同様魔術師である。『蒼き絶対者』の血を継いでいる彼女の魔力は桁外れらしいが今はまだその力を操りきれずBランクに身を置いている(それでも学生の身では十分凄いが)。そして陸上部に所属しているだけあって脚は速い。実は言うと今朝身をもって経験している祐一だった。
その脚で常に自分の距離で闘えると云う強みを持つ彼女である。


そして次に…………。


と、ここで祐一の思考が止まる。
相沢祐一。紹介した3人の他のクラスメートの名前を覚えていなかった。
まぁ転校初日であるから当たり前なのだが。

仕方がないのでここにはいない人物。名雪とは別のもう一人の幼馴染について思考する。


月宮あゆ。


話を聞く分には彼女も魔術師らしい。
昨日の話を聞く限りでは得意とは思えないし、ランクも低そうだ。しかし彼女も潜在魔力は高いのでは……、と予想する。
幾分か話を大袈裟にしていると思うがあの広い闘技場を土で埋めるとは通常の魔力容量では考えられない。ただ単に限界まで魔力を使ったためか予想通りに魔力容量が桁違いなのか、今はなんとも言えない。


言えない。が――――止めてほしい。


そう祐一は思う。
祐一はあゆに戦闘の技術を身につけてほしくなかった。
身につけてしまったら闘わなければならないから。実際は身につけても闘わなくてすむ事もあるだろう。けど、それでも身につけていないものに比べれば『いざ』という時に闘わなければならなくなる。そんなのは嫌だった。『いざ』なんて知った事じゃない。あゆが『命を賭ける』と言う事実が堪らなく嫌だった。

あゆが戦闘技術を身につけるのは嫌だ。否、拒否しているとも言えるだろう。けど、祐一にはそれは言えない。この時代、この世の中、戦闘技術がなくてどうやって生き抜けというのだ。祐一には『俺が守ってやる』なんて言葉吐ける筈もない。彼は7年間もあゆを放って置いたのだ。
そして、またこれから先も同様に同じ事をするのが分かっている。そんな彼がそんな言葉言えるはずもない。


…………あゆに会いてぇなぁ……。


思考がネガティブになる前に打ち切る。

そしてそう言えば、と祐一はふと気付いた。

急遽決まった祐一の転入。あゆが知っているはずがない。


なら……、と想像を膨らます。


彼女ならまず祐一と一緒の学園に通える事を喜ぶだろう。そして同じクラスでない事に残念がり、けどすぐに笑顔に戻り嬉しがる。

それが簡単に明確に思い浮かんだ祐一は笑みをこぼす。
ついさっきとは別の感情であゆに会いたくなった。
彼女の無垢で無邪気で純粋な笑顔を堪らなく見たくなった。

そんな祐一の気持ちに合わせるように授業終了のチャイムが鳴った。




















さてっ! と元気良く立ち上がったは良いが良く考えてみれば祐一はあゆのクラスが何処か知らなかった。
けど、それは知っている人間に聞けば良い、と隣の少女――は止めて(爆睡中)――その後ろの香里に聞く事にした。


「どうしたの? 授業を楽しみにしてたわりには眠そうにしてキョロキョロと落ち着かなかった相沢君」


授業に集中しているかと思ったらバッチリ見られていたようだ。


「…………まぁ、それは置いといてだな」


両手で横にやるジェスチャーをする祐一。


「『月宮あゆ』って言う名前の子供みたいと言うか子供そのもののうぐぅなタイヤキ泥棒知らないか?」

「…………タイヤキ泥棒かどうかは知らないけどあゆちゃんなら友達よ」

「やっぱりか。名雪ともそうだったから香里もそうなんじゃないかって思ったんだよな」

「名雪からあゆちゃんを紹介してもらったのよね。おもしろい子がいるって」

「面白い子か。見てて飽きないもんな、あゆは」

「そうね」


祐一と香里はあゆの姿を思い出してくすくす笑った。


「それであゆちゃんがどうしたの?」

「ん? あゆの奴、俺が転入した事知らないから驚かせようと思ってな」

「趣味が悪いわね」

「心得てるさ。そんなこと」

「なら余計にタチが悪いわよ」

「んん? 月宮あゆってあの月宮あゆ?」


北川がいつの間に起きたのか会話に割って入ってきた。


「どの月宮あゆか知らんがあゆはあゆであゆあゆだぞ」

「相沢君、意味不明なんだけど……。北川君が思ってる通り、あの『闘技場を土で埋め尽くした』月宮あゆちゃんで合ってるわよ」

「はぁ〜。あの月宮あゆとも知り合いとは。相沢、お前結構顔広いンだな」

「まぁ幼馴染って奴でな」


へぇ。と北川は一つ頷いて、


「オレはまだ話した事ないんだよな。顔は知ってるけど」

「それは良い事だ。良くやってくれたぞ、北川」

「いえいえ、どうしまして。……って何がだ?」

「あゆにお前の馬鹿が移ると困る。これからも話すなよ」

「…………相沢。お前、なんかオレに対して冷たくないか?」


今日友達になったばかりの奴にここまでいじられてさすがに少し暗くなる北川であった。


「これが俺の愛情表現なんだ。いやお前の事は結構気に入ってるんだよ」

「オレはお前がキライだ」

「気が合うな、北川。実は俺もお前がキライだ」

「……はっ。そーかよ。オレ、バイトあるしもう帰るわ」


とぼとぼ歩く北川に祐一は、


「少し……いじりすぎたかな?」

「良い薬じゃないかしら。いつもはふざけすぎなんだから。それにどうせ明日にはケロッとしてるわよ」

「良く分かってるな」

「これでも結構付き合い長いしね」


嬉しそうな大変そうな微妙な表情をして、やれやれという風に名雪を起こし始める香里。


「ほら、起きなさい。名雪。部活行くんでしょっ」

「けろぴー……くー……」

「はいはい。けろぴーは部室にいるから行くわよ」

「わかったお……ぶしつ……いくー……」


『行く』と『くー』が重なりつつ、名雪は寝たまま起きると云う不可思議な事をやりながら歩き出した。


「よし。これであたしも部活にいけるわね」

「その前にあゆのクラス教えてくれないか?」

「あゆちゃんはC組。隣のクラスよ。最も今行っても無駄だけどね」

「なんでだ? そういえば教室に誰もいなかったような……」

「そ。C組は今日課外訓練よ。まぁ簡単な実戦ね」


香里の『実戦』と言う言葉に祐一は憮然とする。


「なに怖い顔してるのよ。別にたいして危険な訓練でもないわよ?」

「………………そうか」


ムリヤリ納得しようとしている祐一を見てくすり、と少女は笑う。


「なんなら場所を教えましょうか?」

「教えてくれ」

「……即答ね」


あまりの返答の早さに少しばかり呆れた様子の香里に気まずさを覚え目線を外す。


「教える前に質問なんだけど、いいかしら」

「なんだ? あゆが心配なのかってことなら見当違いだぞ。俺はここの生徒としてどんな課外授業をしてるか気になっただけであって、まったくこれっぽっちもあゆの事なんか知らないからな?」

「………………」

「……なんだよ?」

「……別に」


色々言いたいことはあったがそれを自分の中へ押し込む香里。

美坂香里。大人の対応が出来る女だった。


「それで質問なんだけど……」

「おう」

「あなた、魔術師としての自分に自信はあるかしら?」

「……? まぁ、自信がなきゃ旅になんか出ないわな」

「そう。ならいいわ。大丈夫でしょ、多分」


少し考え込む香里が何を言いたいのかまったく分からない祐一は、どういうことだ? と答えを求める。


「この街から少し東にいったところに森があるわ。そこであゆちゃん達は訓練をしているわ」

「サンキュ。けど、魔術師とそれが何の関係があるんだ?」

「分からない?」


まるで知っていて当然、と言わんばかりに聞き返す香里。
首を捻りかけた祐一だがすぐに思い当たる事が有ったようで「あ……」と呟きをもらす。


「そうか。あの森か」

「ちゃんと知ってるようね」

「仮にも魔術師を名乗るからには知らない訳にはいかないだろ」

「あら。すぐに思い出さなかったようだけど?」

「…………うっせぇ。度忘れしただけだ」

「まっ、そういう事にしといてあげる。それにこの街に住んでて知らない人よりはマシよね」


…………あゆとか……名雪……か?

あー……、なんか知らなそうだよなぁ。あいつら……。


「こっちにも心当たりが有るみたいね」

「まぁ……、つーか香里もだろ」

「……そうね」


2人はなんとなくやるせなくなって同時に溜息をついた。


「あゆちゃんの居場所も教えたし、あたしも部活にいくわね」

「おぅ。サンキューな」


教室を出て香里と祐一は別れる。

そして彼は香里が示した場所、





――――『囁きの森』へと向かった。




















〜あとがき〜

昼食すっとばしての第八話。

お久しぶりです。海月です。

いや、ホントあいだ開いたなぁ……。
話は出来てたのに修正に一切手を触れなかったためにえらく遅くなってしまった……。

ちなみに今回から空白を使ってみました。
連載途中から書き方変わるのは如何なもんかと思うけど読みやすくなる分は構わんだろうと楽観的に思ってます。
「別に読みやすくもないぞ?」とか言われてたら…………、まぁまた別に頑張ります。

内容には触れずに次回はあゆイベント〜!



海月さんから第八話頂きました。

授業でしたが魔石の話が出てくと言う事は今後出てくるんでしょうか?

それに北川、哀れ…… 今日会ったばかりの人からここまでいじられればヘコみますね〜

まあ、それが北川だといってしまえばそれまでなんですが(笑)

そして、あゆ。祐一がここまでこんな風にあゆに対して気を使うのってあまり見ないような(私が知らないだけかもしれませんが)

なので新鮮でした。

次回はあゆの戦闘がありそうな感じがしますね。楽しみです。

あと、最近忙しくてアップするのが遅れました、すいませんでした。

 

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