盛り上がるクラスメートを何とかやり過ごし、北川を連れて名雪と香里の元に戻る祐一。

「ただいま、おふたりさん」
「おかえり〜。祐一、凄かったよ」
「……まさか北川君に勝つとはね。驚いたわ」

興奮しながらもセリフはいつも通りな名雪と驚くというよりも警戒しているような香里。

「あ〜……死ぬ〜〜」

身体と一緒にアンテナもへたっている北川を横にし、祐一は座る。

「祐一。ほっぺたと左腕、治して上げるよ」
「ん? あぁ頼む」

相沢祐一。あれだけの戦闘の後にもかかわらず負傷箇所はこの二つのみであった。

「名雪。相沢君より北川君の方が重傷なんだから、こっちを先にやって欲しいわね」
「北川君は香里に任せるよ」

そう言いながら、祐一の頬に手を当てる名雪。
光に包まれたかと思うとあっという間に傷が消える。その後の左腕も同様だ。

香里もしょうがないといった風に北川を回復させる。
北川の場合は外傷はないに等しいがその分身体の内部がやられている。
雷光とはそういう剣である。

「なかなか良い試合だったぞ。相沢」

エキサイトしすぎなクラスメートとなんとか静め、最初に言った通りペアを作って試合をさせた石橋だった。
ちなみに全員が試合を同時に出来るワケではないのでそれぞれの場所でギャラリーと化している者や個人鍛錬している者もいる。
名雪・香里といった美少女コンビに介抱されているのを嫉ましく睨んでいる者もいるがそれは無視。

「北川相手に一方的とはな、さすがは秋子さんの紹介だな」
「別に一方的というワケではないですよ。今回は雷光を初めて見せたわけだから北川も戸惑ったんでしょう。次はどうなるか分かりませんよ」
「そんなものは言い訳にもならないわ。相沢君」
「そうなのか? 香里」
「とぼけないで欲しいわね。闘う以上何があるか分からない。この程度で戸惑ったんじゃ実戦で使い物にはならないわ」
「なかなかキツイな」

なぜか睨んでくる香里を茶化すように軽く言ってみるが、ふん、と顔を背けられてしまった。
そんな香里を石橋は少し見ただけで、すぐに祐一に視線を戻す。

「北川には油断も戸惑いもなかった。普段の実力を十分に出した。その上で負け、お前が勝った」
「北川君、いつもより凄いくらいだったよね」

名雪がうんうん、と頷く。

「その北川に魔術師のお前が魔法剣を遣っていたとはいえ接近戦で勝った」

魔術師とは本来、中距離・遠距離で真価を発揮するもの。

「相沢。お前Aランク並の実力は十分あるぞ。なんでDランクなんだ?」
「あ〜……、それはですね……」

ランク試験に行くのがめんどくさかったからです。

そう正直に言うと殴られる気がした。
うまい言い訳を考えていると、

「祐一めんどくさがり屋さんだから、ランク試験行かなかったんじゃないのかな?」

大当たりの名雪を殴りたい衝動を押さえ、乾いた笑いを出す祐一。

「……そうなのか? 相沢」
「ソンナワケナイジャナイデスカ〜」

ひたすら片言なのを自覚して、更に乾いた笑いがでる。

「……まぁ良い。学園でもランク昇進試験は出来るから気が向いたらやりに来い」

それだけ言うと石橋は殴ることなく去っていった。
ほっ、と胸を撫で下ろし、さっきは我慢した衝動を今度は行動に移す。

「名雪〜。余計な事を言うんじゃねぇ」
「ひたひ〜。はなひへよ〜」

相変わらず柔らかいほっぺただ。
柔らかさに免じて今回は離してやる事にした。

「呆れた……。本当に面倒なだけだったの?」

香里がこっちを見ているが、さっきのように睨んではいない。

「……まぁな。別に上げる必要もなかったし」
「なら、どうしてDランクなわけ? 一度も上げなかったらEランクのはずよ。どうしてなのかしら? 名雪」

祐一ではなく名雪の方へ聞きだす香里。
さすがにそれまでは分からないだろう。

「たぶん、ランク試験がどんなのか気になったんじゃないかな? けど、つまんなかったからそれ以来行ってないとか」
「……………なんで分かるんだよ。お前は」

予想に反してまた大当たりの答え。

「――――愛の力だな」

からかう様なその声は座っている祐一達より更に下から聞こえてきた。
雷光より復活した北川潤だった。

「水瀬には相沢の事が何でもわかるんだな〜。さっきの魔法剣よかよっぽど痺れるぜ」

むくり、と起き上がったその顔に無言で拳を叩きこむ。
さっきの試合より早いぐらいのパンチなのに北川は軽く避ける。

「照れるな照れるな。北川潤は愛の力に負けました、てね」

ケラケラ笑う北川に名雪は顔を赤くして俯き、祐一は北川を睨む。

「はいはい。負けた腹いせに二人をからかわないの」
「美坂っ。た、確かにオレは相沢に負けたが、それとこれは話が別だ!」
「どう違うのよ」
「そこにネタがある限り、使うのが芸人ってもんだ! なぁ相沢!」
「その通りだ! さすが北川! 心得ているな!」

脊髄反応のようにとっさに反応したその言葉に理性が追いつき、青ざめる祐一。

「くっくっく、認めたな。相沢。認めたよな」
「い、いや……今のはだな……」
「変更は却下だ! さ〜て本人の許可も出たし、からかいまくるぞ〜」

楽しげな北川と苦虫を噛み潰したような顔をしている祐一。
今朝とは立場が逆転していた。










北川のからかいを香里が誡めたその後。

「それにしても相沢君の魔術って独特よね」
「確かにそうだな。《雷光》なんて魔術初めて聞いたぞ」
「あ、でも。似たような魔術あったよね。何だっけ? 魔法剣なんて遣わないから忘れちゃったけど」
「ポピュラーなのは火の魔法剣《赫討》、水の魔法剣《蒼討》かしらね。雷光は雷の魔法剣《紫討》に近いわね。……雷光みたいに最後、雷の雨に変化は出来ないけど。それはともかく魔法剣って結構難易度高いから遣われるの少ないのよ。《紫討》なんて《赫討》や《蒼討》より更に難易度が上だからほとんど廃れてるようなもんだし」
「さすが学年首位。よく知ってるな」
「『知は力』よ。何事も知っておいて損はないわ」

祐一も皮肉った様子もなければ、香里もそれを鼻にかけた様子はない。
2人ともそれを当然のように受け止めている。

「そんな魔術使えるとはな〜。意外と凄かったんだな。相沢って」
「意外は余計だ。俺からすれば北川の耐久性・回復力の方が驚いたぞ」
「確かに北川君の回復力は信じられないものがあるわよね……」

何か心当たりがあるのか苦労人ぽい溜息をつく香里。

「香里にいつも殴られてるのにケロってしてるもんね。北川君って」
「ふっ。あれは美坂の愛のムチだからな。いくら殴られようとそれは悦びでしかないのさ!」

なかなか変態が入ってる北川潤。十七歳。

「まぁ耐久性については予想がついてるけどな」

関わりたくないので120%シカトを決め込む祐一。

「へぇ。興味深いわね」
「私も知りたい〜」

同じく関わりたくない香里と素でシカトする名雪。
ある意味名雪の方が酷い。

「オレは放置か!? そういうプレイはキライなんだぞ!?」

プレイってなんだ。

「北川は魔術を遣えないみたいだけど、多分魔力自体は持ってると思うんだ」
「……ふぅん。だから北川君には魔術抵抗が備わってるってわけ?」
「そうだ。さすが理解が速いな」
「どういう事?」

首を捻る名雪。

「魔力を持っている奴は持っていない奴より魔術に対しての抵抗力が高い事は知ってるよな?」
「うん。確か……攻撃魔術をくらう瞬間、魔力が少しだけ中和してくれるんだよね」
「その通りだ。戦士だろうが一般人だろうが魔力を持っている奴は魔力0の奴に比べれば効きにくいんだ。それでも訓練をしなけりゃ効果は薄いけどな」
「そっか。魔力を持ってるから北川君は雷光が効きにくかったんだね」
「そーいうこと」
「けど相沢君。一つ問題があるわ」
「なんだ?」
「彼……魔術何一つ遣えないのよ。初心者向けの《火指》すらよ?」
「そうだぞ。自慢じゃないが魔術なんて成功した例がないぞ」

ここぞとばかりに話題に割って入る北川。

ちなみに《火指》とは超初心者向けの魔術。マッチを使ったほうがマシだっ、と言いたくなるぐらい小さな火が出てくるだけの魔法だ。

「確かに自慢にゃならんな……。香里の疑問に対しては、言っちゃなんだが才能がなかったんだろ。或いは魔術が遣えないように封印してあるという事も考えられるが、それはないだろう」
「なかなか酷い言い草だな」

そう言いながらもへらへら笑う北川。
元々ないと思っていた魔力が今さらあると言われても実感がなく、槍に命をかけている今、魔術の才能がないと言われても大したショックはなかった。むしろ魔術に対して耐久性があるらしいので儲けもの、ぐらいにしか考えていなかった。

「封印ですって?」

香里は北川と違うところに論点を置いた。

「可能性の問題だ。魔術を封じる魔術もあるっていうだけの話だ」
「だけって。魔術師にしてみれば大問題じゃない!」
「確かにそんな魔術がぽんぽん遣われれば大問題だろうな」
「……遣われないってわけ?」
「その前に一つ質問するが、香里は『魔術を封じる魔術』。その存在は知っていたのか?」
「…………知らないわね。ふぅん……、そういう事ね」

たったこれだけで祐一の思考を理解する香里。学年首位は伊達じゃない。

「香里も知らないんだ。そんなの知ってるなんて凄いね。祐一」

香里も知らない。
つまりは廃れてるという事。
魔術師に対してこれ以上ないくらい有効な手段が廃れている。
つまりは使用が出来ないという事。
存在するが使用は出来ない。
それほどまでに難解・高度な魔術。否、禁術と言うべきか。
つまりは、そういう事。



「いつの間にか北川君の話になったわね」
「まぁ俺の魔術より北川の異常さが目立つって事だろうな」
「そうかもね」
「水瀬……、素で頷くのは止めてくれ。さすがに傷つく……」
「しょうがないだろ。名雪なんだから」
「そうね。名雪だものね」
「……2人ともひどいこと言ってる?」
「そんな事ないわよ」
「あぁ、酷いのは北川の頭だけだ」
「オィ! 相沢ぁ!! さり気にムチャクチャ言うなぁぁ!!」

また北川へ話が脱線。
というか脱線させているのは祐一なのだが。





いい加減北川から話を戻して。

「相沢君って旅をしてたのよね。だったら魔術は独学なわけ? そうだとしたら凄いけど」

でも、そしたら独特なのも分かるけど……、と香里は言葉を続ける。

「大体はあってるけど。独特ではないだろ。色んな地方の魔術を合わせていったりしたらこんな風になっただけで」
「それを独特って言うのよ」
「祐一、魔術だけじゃなくて言葉の勉強もしようね」
「……名雪に言われるとひたすら腹が立つな」
「バーカ。バーカ。相沢のバーカ」

無言で殴る。今度は当たった。

「……な、なら呪文詠唱も普通と違うの? 雷光だけじゃなくて、初めて会った時の《炎精》の時も詠唱聞かなかったけど」

倒れる北川を横目で見ながら――見るだけで助けないようだが――質問を続ける香里。

「そういや、水瀬は従兄妹だから分かるけど何で美坂とは知り合いだったんだ?」

もう回復してやがる北川だった。

「街でナンパをしてるとこを見かけてな、それを助けた時にな」
「なんだと!? 美坂をナンパだと! 来い! 相沢!! 勝負だ!!!」
「だぁぁぁっ。ナンパしたのは俺じゃねぇ。俺は助けてやっただけだ!」

胸倉をつかみ、更に吊り上げようとする北川をなんとか引き剥がす祐一。

「別に助けてくれなくても何とかなったけどね」
「私がいたから助けてくれたんだよね〜」

名雪が珍しく嫌らしい笑みを浮かべる。
事実だけに言葉もない。

「そんなわけないだろ。自意識過剰だ」

それでも否定するけど。
けど、名雪は気にする様子もなく嫌らしい笑みを変えない。

「美坂〜〜! 今助けるぞ〜〜〜!! オレの愛で今こそ! 今こそっ!!」

なんか逝っちゃてる北川。誰から助けるつもりだろうか。

「北川うるさいぞ! 美坂チームも休んでないでそろそろ授業に参加しろ!」

遠くから石橋の声が届く。北川の叫んでいる内容はスルーらしい。

「先生! 美坂チームは止めて下さいって言ってるじゃないですか!」

香里が怒声を張り上げて、リングに向かって歩いていく。
祐一達3人もそれに続いた。

香里が先頭で。

しかもそれがあまりにも自然。

確かに彼らは『美坂』チームのようだ。














〜あとがき〜

このメンバーの名称はやっぱり『美坂チーム』(笑

こんばんは。海月です。

祐一だけでなく北川についても説明があった今回、メチャクチャ書きやすかったです。
理由は北川がいたから。
彼がいたら色々アイデアが出てくる出てくる(笑
代わりに話が脱線して思う通りには進みませんけどっ。
て云うかホントさ、

北川サイコー(笑

いやもう大好きです。


まぁそれは置いといて。

話の長さが気になるところです。
今まで一話一話の長さが短かったんですが、これからは前回の第六話と今回の第七話くらいの長さでやっていこかな。と思っています。
これでもまだ短いって思う人は言って下さい。
それと読みやすい読みにくいとかも言ってくれると嬉しいです。

こうゆう事(↑以外でも)を言ってくれれば可能な限り善処しますので。

それでは。


香里属性の私なので北川羨ましいじゃないかぁ〜

そして前話の仕返しか今度は祐一が北川にやり込められる。

海月さんがサイコーというのがわかるほど祐一と北川の掛け合いが面白いです。

さて次はどのようになるのかな?昼食あたりかな?

 

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