少年と少女がいた。

出会いは遥か昔。

共に過ごすは雪の一時。

いつしか少女は少年を大切に思うようになった。

少年が少女の元へ来なくなった。

長い長い年月がすぎ、それでも少年は来ない。

少女は待った。

7年がすぎた。

少女は成長した。

少年も成長した。

再会。

少女は泣いた。

少年は笑った。

少女は微笑んだ。

少年も微笑んだ。

歩く。

共に。

7年ぶりに一緒に。

少年と少女。

二人で共に歩く――――










「待ちなさい。どこ行くつもりよ、二人とも」

寄り添って歩こうとする男女を思いっきり睨んで美坂香里は言った。

「おぉ、いたのか。ゼンゼン気付かなかったぞ」
「『運命』とか『奇跡』とか妙な事言ってた時、目が合ったのはあたしの気のせいかしら」

言葉だけなら疑問系だが、逆に尻下がりで言ってくる。
香里がそれをやると怖い。
そもそも何故彼女が怒っているかというと、祐一と名雪の再会直後、二人は香里を無視してどこかへ行こうとしたからだ。
名雪の場合は祐一との再会で親友のことを忘れると言う薄情なことをやってのけたのだろうが、祐一の場合は香里のことを気付いていて、あえてそうやったのだ。
理由は、ただからかう為に。
そんな考えに香里は気付いていた。
鋭い洞察眼を持つ香里を褒めるべきか、自己紹介もしていない初対面の相手をからかおうとする祐一に呆れるべきか、判断は任せよう。

それはともかく。
香里は今現在も睨んでいる。
声もいつもより落とし、迫力がある。

睨まれながら祐一は考えていた。
この世で最も恐ろしいのはなにか、と。
それは魔物なんかじゃなく人間だ。
長年の旅によりそれを知っていた。

自分のために人を騙し。
保身のために他人を犠牲にし。
欲望を満たすためには家族をも裏切る。

そんな人間が最も恐ろしいイキモノ。

今、祐一はニンゲンのオンナに睨まれていた。
ならば彼がとる行動はただ一つ――――

「…………ごめんなさい」
「その間が非常に腹立たしいわね。変なこと考えてそうで」

鋭すぎます、香里さん。

「はっはっは、まぁ冗談だ」
「……名雪が行ってた通り、変な人ね。あなたって」
「むぅ。心外だな。俺のどこが変だと言うんだ」
「全部」

おどける祐一にきっぱりと一言で斬って捨てる。

「ところで、らぶらぶなとこ悪いけどいつまでくっついてるわけ? こっちが恥ずかしくなるんだけど」

言われて自分の様子を改めて見る祐一。
香里をからかう為に名雪と腕を組むより、より密着して寄り添ったままの格好。しかも名雪はその状態に光悦するほどご満悦のご様子。
さっきから喋らないと思ったら、自分の世界に入っちゃってるようだ。

状況確認。

把握。

赤面。

「だぁぁぁ! いつまでくっついてやがるっ。早く離れろ!」

自分からくっついておいて結構な言い草である。

「いたひ〜。はなひへよ。ゆ〜ひち〜」

ほっぺたを引っ張りムリヤリ名雪を自分の体から引き剥がす祐一。照れてるのか焦ってるのか頬を握る力が結構篭もってたり。
そんな二人を見ながら笑う香里。

「くすくす。意外と純情なのね」










「それじゃ、あたしは先に帰るわね。邪魔しちゃ悪いし」
「べ、別にジャマじゃぁ……ないけど……」
「はいはい。分かってるわよ。名雪。またね」
「俺は無視か? 香里」
「あら。いたの? ゼンゼン気付かなかったわ。相沢君」

自分が言った言葉をそっくり反されて閉口する祐一。
別れる直前になってようやく自己紹介を終えた二人だった。

「……なかなかやるな。香里」
「ありがと。それじゃ、相沢君もまたね」
「あぁ、じゃぁな」
「また明日学校でね〜」



「さて、どうする? 名雪」
「なにが?」

尋ねてもいまだ手を振る名雪。ちなみに香里はもう人ゴミに紛れている。名雪には香里がまだ見えてるのか?

「今からどうするって聞いてるんだよ」
「え〜っとね……家に帰ってお母さんにも祐一のこと……あ! そうだ! 商店街いこっ!」
「商店街? 買い物か?」
「いいから。行こう!」
「なんなんだ、まったく…………」

引きずられるように歩く祐一は思わずぼやいた。
歩く、と言ってもすぐ近くまで来ていたのか5分も立たずについてしまった。

「ここが商店街だよ。覚えてる? 祐一」
「うっすらとなら覚えてるな。結構変わってる気もするけど」
「え〜。そんなに変わってないと思うけど……」
「そりゃ、名雪はずっとここに住んでるからな。多少の変化も日常だろうしよ」
「そうかな〜?」

首をひねる名雪。
これが7年の歳月の違いか、としみじみ思う祐一。

「それでどこに向かってるんだ? いい加減教えてくれよ」

前を歩く名雪に数回目の質問を浴びせる。
ここまでに来るまでに同じ質問をしても笑うだけで何も教えてくれないのでそろそろ諦めていると、初めて違う答えが返ってきた。

「タイヤキ屋さんだよ」

タイヤキ?

この雪華都でタイヤキと言えば……。

「…………まさか」

目で尋ねる祐一に名雪はくすくす笑うばかり。

いるのか?

あいつが。

いてもらわなきゃ困るけど。

だって、あいつは――――

「うぐぅぅぅぅぅぅ!!!」

前方より珍生物が紙袋を抱えてものすごい勢いで走ってきた。

「おいおい……マジかよ」

そう言いながらも笑みが浮かぶ。

「あゆちゃ〜ん」

名雪が手を振りながらで少女の名を叫ぶ。

あぁ、やっぱりお前か。

「あっ。名雪さん! 久しぶり〜!!」

あちらも負けずに手を力いっぱい振る。

いや、前をちゃんと見ろ。危ないから。

どぐすっ!

普通のタックルじゃありえないような音が響いた。哀れ通行人A。
だから言ったのに。声に出しちゃいないけど。

「うぐぅ。痛い……」

泣きそうな顔から、はっと気がついたよう紙袋の中を確かめると、ほぉ〜っと安心した顔になる。
ころころと表情が変わる様が面白い。
こいつも変わってないな。と、祐一は笑いながら思った。

「ほら、大丈夫か? あゆ」

目の前まで歩き手を伸ばす。

「あ、ありがとう。うぐぅ……鼻が痛いよ……」
「どれ、ちと見せてみ」

立ち上がらせても身長の差があるので屈みこんであゆの顔を覗き込む祐一。
至近距離にイキナリ知らない男性の顔が来て、顔を赤くして逸らそうとするあゆを祐一は手で押さえて邪魔をする。
見ようによってはキスする直前のようにも見える。

「ふむ。大したことはないな。まぁ一応直しとくか。――――願え。安らぎの《癒歌》」

あゆの顔が温かな光に包まれる。

「よし。治療完了」
「わぁ! 痛みが消えちゃったよ! ありっ……が……とぅ……」

目を見開いて驚くあゆは御礼を言おう祐一を見るが祐一の顔はまだ目の前にあり、あゆはボンと顔を赤めつつ、それでも御礼を言った。

「うぅ〜、私の時はそんなことしてくれなかったのに……」

怖さがまったくない脹れ面で言う文句は意図的に無視した。
その代わりなのかは知らないが心の中で言い訳する祐一。

しょうがないだろ?

コイツは――月宮あゆなんだから。

あの、誰も――あゆさえも知らない――紅い出来事が遭った月宮あゆなんだから。

だから、しょうがないだろ?

そう思うとふと目の前の少女を抱き締めたくなる衝動を受けた。
が、それはさすがにいかんだろう。と――後が怖いし――何とか自制する。

それはともかく。

――――『奇跡の再会』、早くも第二弾。














魔術解説

『癒歌』……………治療の下位魔術。小さな擦り傷や火傷を治す事ができ、痛みも引く。
         あまり大きな怪我だと痛みを和らげる程度で治療効果は薄い。





〜あとがき〜

こんばんは。海月です。
『時をこえる想い』第二話はあゆとの再会。

あゆの殺人タックルを祐一にぶつけるかどうしようか少し悩みましたが無関係の人を巻き込ませました(笑
あ……、通行人A全員で無視してる。
…………。
………………。
それでは第三話で!(逃




早くも海月さんに第二話を頂きました。

ヒロインは名雪っぽいですね〜

初々しいのが良いです。

けど、あゆがそれに参戦してくるのかな?

どうなるんでしょう?なにやらあゆには秘密の過去があるらしいですし。

先が気になります。

(というわけで私も通行人Aを無視ということで……)

 

 

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