俺がこの街の帰ってきてから一年が経とうとしている。


 そして今日は十二月六日。


 俺の恋人、天野美汐の誕生日である。


 もちろん、しっかりとプレゼントは買っておいた。


 だが問題が一つだけ残っている。


 それは……名雪、栞、による妨害……


 あゆ、真琴、舞は俺と天野が付き合うことを応援してくれているのだが、


 名雪、栞、は諦めがつかないらしく、デートの時などいつも邪魔をしに来るほどだ。


 天野の誕生日である今日に、あいつらが邪魔をしに来ないわけが絶対にない。


 はぁ〜、面倒な放課後になりそうだ……








マサUさんサイト開設一周年記念&美汐誕生日記念SS「思い出の場所」








 俺は四時間目が終わると同時に教室を出て、天野のいる教室を目指す。


 もたもたしてると名雪たちに捕まるからな。それに天野とちょっと相談したいことがあるし。


 おっと、天野のクラスに到着っと。


「すみません。天野いませんか?」


 俺はとりあえず近くにいた女子に話しかける。


「あっ、相沢先輩ですか。ちょっと待ってくださいね。今呼んできますので」


 実は俺たちってこの学校ではかなり有名なカップルなんだよな。


 俺があゆ、名雪、真琴、栞、舞の告白を断ったことが何故か広まったからだが……


「相沢さん」


 おっと、我が愛しの天野がきたな。待てよ……そういえばいつもここで天野と呼んでるから、


 たまには天野以外で呼んでみるとするか……天野美汐、美汐だからミッシー。よしこれでいくか。


「おう、ミッシー。迎えに来たぞ」


 俺は取り合えず今思いついた呼び方で呼んでみる。


「……その呼び方は止めていただけませんか」


「何を言うミッシー。この呼び方は昔からじゃないか」


 まあそんなことあるわけ無いが。


「相沢さん……怒りますよ?」


 もう既に怒ってるよな……何か額から汗が出てきた気がする……


 ちょっとからかいすぎたかもしれない。


「悪かった。謝るから許してくれ」


「今回だけですからね」


 ふぅ、なんとか大丈夫だったな。


「それで、相沢さん。一体何の御用があって来られたのでしょうか?」


 そういえば用件をまだ伝えてなかったな。


「えっとだな、今日の放課後時間あるか?」


「私ですか?」


 天野はちょっと驚いた顔をしながら言う。


「天野以外誰がいるって言うんだよ。それともお前以外の人と行けってことか?」


「そ、それは……」


「あ〜あ、天野は俺のことなんてどうでもいいんだな。はぁ……これから俺はどうすればいいんだ」


 俺はちょっと大げさに表現してみる。天野の反応を楽しむために、だけど。


「あ、相沢さん。私は相沢さんのこと大好きです。だから私のことを嫌いにならないでください」


 天野を見ると、かなり必死になっているようだった。


「わかってるよ、天野。俺がお前のこと嫌いになるわけないだろ」


 そう言いつつも、俺は天野の慌てぶりに内心笑い声をあげている。


「相沢さん……」


 その言葉を聞いて天野は安心した表情を浮かべている。


「それで今日大丈夫か?予定が入ってるのなら別にいいけど」


「いいえ。今日は何も予定がないので大丈夫です。それでどこに行かれるのでしょうか?」


「場所はついてからのお楽しみだ。ただ一つ問題があってな……」


 俺は先ほどとは違い、真面目な顔をして言う。


「問題ですか?」


「ああ、いつものごとく名雪と栞が邪魔をしてくると思うんだ。でもさすがに今回は邪魔されるわけにはいかないんだ」


 まあ、俺が天野のためにあるものを用意したなんて言えないしな。いつもなら邪魔なんて気にしないところなんだが。


「そうですか……それでは何かいい案はあるのですか?」


 実は何も思いついてないんだよな。授業中も考えてたんだけど。


 ちょっぴり天野に期待してたり。


「どうやら何もないようですね……ならこういうのはどうでしょうか?」


「何だ?」


「相沢さんと別々に帰ったフリをして後で落ち合う、というのはどうでしょうか?」


「無理だな。名雪がくっついてくるだろうし、下手すれば栞も加わる可能性がある」


「そうですか……では仮病と偽って、先に帰るというのはどうでしょうか?」


「いや、別に俺は構わないが天野に迷惑を掛けるわけにはいかないからな。それは駄目だ」


相沢さんの為なら学校の授業なんてどうでもいいのですが……


「ん、何か言ったか?」


「い、いえ、なんでもありません。わざわざ気を遣っていただきありがとうございます」


 なんか天野の反応が変な気がするんだが……まあ気にしても仕方ないか。


「しょうがない。こうなったら……」


「こうなったら?」


「特攻しかない」


「特攻、ですか?」


「何があっても突っ込む。これ以外にもう方法はないだろ」


 俺は少し自身ありげに言った。


「そんなことはない気がしますが」


 それに対し天野が少し呆れ気味に言う。


「あゆの特攻をいつも見てるだろ。あの殺人的な体当たりを」


「それはそうですが……名雪先輩と栞さんにやったら怪我をするのではないでしょうか?」


「……よく考えるとそうだな。あいつら絶対に怪我するか」


 良く考えると、あゆの体当たりを毎回受けて怪我してない俺って一体……


「相沢さん。考えるのは後にして、お昼ご飯にしませんか?お昼休みに入ってからだいぶ過ぎてますし」


 時計を見ると、十二時四十分を指していた。


「そういえば腹減ったな。今日の朝も名雪のせいで何も食べてないからな」


 今日は名雪がいつも以上に遅く起きたために、パンはおろかコーヒーを口にする時間もなかったのである。


 おかげで授業中かなり辛かったというのは言うまでもないだろう……


「そうでしたか。実は今日相沢さんの分もお弁当作ってあるので、よろしければ一緒に食べませんか?」


「あ、天野お前ってやつは……ありがたくいただくぞ」


「今日は中庭で食べませんか?今日はいい天気ですので」


「おう、天野の弁当が食えるならどこにでも行くぞ」


「あ、相沢さん」


 俺の言葉を聞いた途端に顔を真っ赤にした。


 この後、俺は天野をからかいつつ中庭に向かっていった。








 俺たちは階段を下りて、下駄箱で靴に履き替え、中庭に出た。


 空に雲はひとつもないが、十二月とあって少し肌寒い。


 だが、久しぶりに晴れているためか、外で遊んでいる生徒が所々で見える。


 取り合えず俺たちは、中庭に設置されているベンチで座って食べることにした。


「はい、相沢さんの分のお弁当です」


 天野が持っている弁当箱は周りに鶴が描かれている、いかにも天野らしい弁当箱だった。


 俺は天野からその弁当箱を受け取った。


「じゃあ天野、ありがたくいただくぞ」


「はい、相沢さんのお口にあうかどうかはわかりませんが、遠慮せず食べてくださいね」


 天野がうなずくのを確認して、俺はとりあえず目の前にあった卵焼きを食べることにした。


「どうでしょう?」


「うん、うまい。これなら店を出してもいいくらいだぞ」


「そんな……相沢さんそれはちょっと褒めすぎではないでしょうか?


「いや、そんなことないぞ。本当に店を出しても大丈夫なくらいだ」


 そういいつつ、俺は弁当の中身をどんどんと食べていく。


「ふぅー、ご馳走様。うまかったぞ」


 10分くらい経っただろうか。天野から受けた取った弁当箱の中身は全て無くなっていた。


「お粗末さまでした。食後のお茶です、よかったらどうぞ」


「サンキュー」


 俺はそういって天野からお茶を受け取る。


「やっぱり食後に飲むお茶はうまいな」


「はい。私は食後に飲むお茶が一番好きです」


 天野がしみじみとしながら言う。


「天野らしいというかなんというか……まてよ。……そうか、この手があったか」


 俺は天野の言った「一番好き」という言葉を聞いて、ある作戦を思い浮かばせる。


「相沢さん、どうかなされましたか?」


 俺の発言に少し驚いた顔をして、天野が聞いてくる。


「いい作戦を思いついたんだよ。あの二人から逃げれるいい方法が」


「一体どのような作戦なのでしょうか?」


「それはな…………ということだ」


「それならうまくいくかもしれませんね」


「だろ。この方法なら、あゆたちでも大丈夫な気がするが……」


「確かに真琴もあゆさん達も好物に目がないですからね」


 どうやら天野も俺と同意見のようだった。


「だろ。……さてと、そろそろ俺は行くな。弁当ありがとうな」


「はい。それではまた放課後に」


「おう」


 そういって俺は天野と別れ、教室へと戻っていった。











 午後の授業が全て終わり、SHRも終えた俺は下駄箱で靴に履き替え、急いで待ち合わせ場所に向かった。


「悪い天野。少し遅れた」


 俺は校門の前で待っている天野に声をかける。


「いいえ。私も今さっききたばかりですので」


 帰りの挨拶が終わった瞬間に鞄を持って出てきたのだが、


 どうやら天野たちのクラスのほうが早くSHRが終わったらしい。


「それはよかった。じゃあ行くとするか、俺の後についてきてくれ」


「わかりました」


 こうして俺たちは歩き始めようとしたのだが……


「ちょっと待ってください」


 どこから現れたかわからないが、栞が道をふさいできた。


「ここから先は一歩も通しませんからね。この美坂栞の名にかけて」


「何だそのどこかで聞いたことのあるような」


「そんなこという人、嫌いです」


「わかった嫌いなんだな。じゃあ通してもらうぞ」


「それとこれとは話は別です」


「かなり話が矛盾してるように思えますが」


 栞の発言に天野が的確なコメントを入れる。


「うっ……」


 


「矛盾があったな。じゃあ通らせてもらうぞ」


 そう言って栞の横を通り抜けようとしたが。


「待ってください。祐一さんが言ってることは、通り抜けることと関係ないと思います」


「ちっ、気づかれたか」


「何ですかその言い方は」


 栞はどうやら俺の発言が気に食わなかったようだ。


 まあ当たり前かもしれないが。


「気づかなければこの手は使わなくて良かったからな」


「この手って何ですか?……もしかして暴力ですか!!こんなか弱い女の子に暴力を振るうなんて人類の敵です!!」


 確かに暴力ってのもありだったけど、その後が怖いしな……特に香里が……


「いや、俺は何も言ってないぞ」


「じゃあ何ですか?」


 栞が警戒しつつ聞いてきたので、俺は昼休みに考えた作戦を実行することにした。


 それは……


バニラアイス一週間奢るから今回は見逃してくれ!!


 そう、好物で釣るというものだった。今時は通用しないと思うが栞と名雪なら通用するはずだ。


「わかりました。今回だけですからね」


 そういって栞は道をあけたが、今悩ますアイス取ったよな……俺ってアイスより存在が下なのか。何か涙が出てきた……


 とりあえず、多少心に傷を負ったもの、栞を突破することに成功した俺たちだった。








「とりあえず第一の関門突破ですね。相沢さん」


 商店街を歩きつつ、天野が話しかけてきた。というかあっさり突破できた気が……


「ああ。でも今度は名雪が来る頃だと思うぞ」


「祐一、見つけたよっ」


 人の噂をすれば何とやらというやつか。


「おう名雪。今ちょっと忙しいから用なら後にしてくれないか?」


 まあ無駄だと思うが一応言ってみる。成功したら儲けものだし。


「駄目だよ。今日は何の日かくらい知ってるんだからね。絶対に二人っきりにさせないんだから!」


 やっぱり駄目だったか。あゆだったら通用するんだろうけど。


(うぐぅ、いくらボクでもそんなのに引っかかるわけないよ)


 なんか聞こえた気がするが……気のせいだな。とりあえず名雪も栞と同じ手でいってみるか。


「頼む名雪。イチゴサンデー一週間奢るから今回は見逃してくれ」


「……そ、そんな手には乗らないんだからね」


「今少し悩んだだろ」


「そ、そんなことないよ」


 しかしさすが名雪だな、栞と同じ手では駄目か。仕方がない、最終手段を使うとするか。


「名雪、もし退かなかったら、明日から秋子さんに頼んで毎日オレンジ色のジャ「祐一、私用事思い出したから行くね」ム……行ったか」


 名雪は俺の言葉を全部聞く前に走り去って行った。


「相沢さん、オレンジ色のジャムってなんなのでしょうか?」


「天野……世の中に走らない方が幸せなことだってあるんだ」


「よくわかりませんが、相沢さんがそうおっしゃるなら聞かないことにします」


「賢明な判断だ」


 アレは知らない方が幸せだからな……ちょっと天野が食べたときの反応が気になるけど。


 たぶんショックのあまり気を失うか、倒れるんだろうな……ってどっちも同じ意味か。


 そんなこと考えても仕方ないし、栞も名雪ももう邪魔には来ないから目的の場所に行くとするか。


「そろそろ行くぞ、天野」


「はい」


 こうして、俺と天野は再び歩き出した。











「ついたぞ」


 俺と天野は商店街を抜け、俺が昔狐だった頃の真琴に出会った場所……ものみの丘にきていた。


「………」


 天野は俺の言葉を聞いていないようだった。たぶん昔のことを思い出しているのだろう。


 何もすることの出来なかったあの頃の自分を……


「俺がここに天野を連れてきたのはな、二つわけがあるんだ」


 俺は取り合えずここにきた目的を話すことにした。


「……何でしょうか?」


 その言葉を聞いて、天野がやっと口を開いた。


「一つは今日は天野の誕生日だろ、。誕生日おめでとう、天野」


 そう言って、俺は天野に綺麗にラッピングされた縦長な箱を渡す。


「これは?」


 俺からのプレゼントであるということの気づかったか……


 まあ普段何もあげてないから仕方ないかもしれない。


説明するのは少し恥ずかしいけどしないと。


「いわゆるプレゼントというやつだ」


「ありがとうございます。開けてもよろしいでしょうか?」


「おう」


 天野は箱を包んでいる紙を丁寧にはがし、箱を開けた


「天野に似合うかな、と思って買ったんだけど。やっぱり変だったか?」


 俺が箱に入れたもの、それはピンク色のマフラー。


 最近雪も頻繁に降っており、学校の登下校時に天野が風邪を引かないように思い、買ったものだった。


「いいえ、とても嬉しいです。大事に使わせていただきますね」


「天野が喜んでくれてよかった……こういうのはよくわからなくて不安だったんだ」


「そうだったんですか……そういえば先ほど二つとおっしゃっておりましたが、もう一つ何なのでしょうか?」


「ああ、どちらかというとこっちがメインだ。今から俺が話す事をよく聞いてくれ」


 ついに俺は天野に思いを伝えるときが来た。


 俺は心臓の鼓動が早くなっているのを感じる……


「わかりました」


 天野は真剣な表情をしながら言った。


 俺は少し落ち着くために一度深呼吸をする。


 そして……覚悟を決めた。


「実は俺、就職先が決まったんだ。まあ大企業とはいえないけど……それなりにいい会社に入れたんだ。


それで親に話したんだ……天野と付き合ってることをな。そしたら親はどうやら気に入ったらしくてな、天野のことを。


まあ、それはいいとして……まだ早いかもしれないが、言わせてくれ。天野、俺と結婚してくれ。


もちろんすぐには出来るわけがないのはわかってる。だからこれを受け取ってくれないか?」


 俺はポケットから箱を取り出す。さっきの箱みたいに綺麗なわけではないけど、


 それはある約束を表すものが入っている箱。そう、婚約指輪が入っている箱である。


 それからどれ位の時間が過ぎただろうか……天野がついに口を開いた。


「相沢さん……後悔しても知りませんからね」


 天野が目に涙を浮かべ、笑いながら言う。その言葉はどこか嬉しそうな感じがした。


「後悔なんてしないさ。天野のほうこそ後悔するなよ」


 俺は天野に笑いながら答える。俺の頭の中には「後悔」なんて文字は無い。


 天野と一緒だったら、どんな境遇に陥ってもやっていける自信があったから……


「後悔なんてありません。相沢さんと一緒にいられるのでしたら」


「天野……」


 そして、俺は天野の薬指に指輪をはめ込んだ。


 そのとき、一匹の狐が二人の姿をずっと見ていた。


 そして、何かを満足したかのように、どこかに駆けていってしまった。


 もしかしたら、この狐は天野が昔いっていた狐だったのかもしれない……


 真琴がこの場に居たら、何かを感じ取ることが出来た可能性もなくはないだろう……








エピローグ


 俺は高校卒業後、天野と真琴と三人でアパートで暮らしている。


 もちろん、街からは出ていない。この街にはたくさんの思い出があるからだ。


 ちなみに俺の親と天野の親に婚約について話した所一発オッケーをもらった。


 俺の親が今度日本に帰ってきたときに天野の両親と会う予定だ。


 おっと、そろそろ時間か。


 さてと……行くとするか、俺と天野の思い出のあの場所へ……











 終わり








 あとがき





 いきなりですが、この度はマサUさんサイト開設一周年おめでとうございます〜♪


 そして、今日は天野誕生日でもありますね〜♪


 某チャットで偶然にもマサUさんがHP開設したのが十二月六日だったことが判明、


 自サイトで掲載しようかな、と思ったのを急遽投稿に変えました。


 え〜、このSSを書いた際、ある方に大変お世話になりました。


 自分のSSの駄目な所を的確に指摘してくださり、今回のようなのが出来ました。


 この場を借りてお礼申し上げます。アドバイスありがとうございました。


 まああまり長くあとがき書いてもしょうがないと思うのでこの辺で。


 それではマサUさんサイト開設一周年&天野誕生日本当におめでとうございます。






マサUです。

HHさんに一周年記念&美汐誕生日SSを頂きました。

ありがとうございます!!

散々妨害してる割にはあっさり食べものに陥落してしまう名雪と栞。

ある意味、祐一がかわいそうでした(笑)

けどそのおかげで幸せになれた二人、よかったです。

あと実は私自身も今日に合わせて美汐のSSを書いていたんですが間に合わず(爆)

HHさん含め大変申し訳ないです。

 

感想などは作者さんの元気の源です是非メールを!

 

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