バトルフィールドオブチルドレン
第29話 最悪のミッション
<香里視点>
「う、う〜ん……」
窓から差し込む朝日が顔に当たり目を覚ます。
ふう、まさか2日連続で名雪の家に泊まる事になるなんてね。
昨日、ものみの丘にあたし達が着いたときには相沢君は時遅く気持ちよさそうな顔で寝ていた。
心配してきたのにその顔をみてほっとする反面、ちょっと腹が立ってしまったわ。
そして北川君が相沢君を、久瀬君が疲れ果てていた一弥君を背負って城に帰ったのよね。
その後は相沢君抜きで夕食を食べて秋子さんの勧めでもう一泊する事に。
っと、何ぼぉーっとして昨日の事思いだしてるのよ。
もうすぐみんなで朝食を食べる時間なのに。
急いで着替えなくちゃ。
「おはよう」
「おはようございます、香里さん」「お姉ちゃんおはよう!」「……おはよう」
食堂に着いてみんなと挨拶をかわす。
けど、予想通りというか名雪と相沢君がいない。
相沢君は美汐ちゃんの見立てじゃ今日の夜辺りにならないと起きないのでわかるけど、名雪は……
ちょっと頭痛がしそうになったとき秋子さんが朝食をもってやってきた。
「みなさん、おはようございます。あら、名雪はまだ起きてきてないのね」
秋子さんが困った娘ね、というようにため息をつく。
「すいません香里さん、名雪を起こしてきてもらえませんか?」
そして続けてあたしにこう言った。
「……で、なんでこんなに大所帯になったのかしら」
あの後、あの名雪に一人では辛いと思って舞先輩にも手伝ってもらおうとお願いしたら佐祐理先輩もついてくる事になって。
そうしたらあれよあれよと女の子全員で行く事に。
北川君達も行きたいと言ってたんだけど、もちろん粉砕。
まあ、斉藤君の真っ赤な顔だけは好感もてたけどね。
そんなこんなで名雪の部屋に到着したあたし達は臨戦態勢に入る。
緊張してきたわね……
「みんな、いい?あたしがドアを開けたら急いで中の目覚ましをまず止めるわよ」
「わかったけど、真琴達全員でやることなの?」
「やることよ!ドアを開けた瞬間にそれが解るわ、真琴ちゃん」
そう言ってドアの取っ手を握る。
一体中の音量はどれほどのものかと想像するだけでも恐ろしい。
そしてそれが一切外に漏れないこの部屋の防音機能も凄い。
「よし、それじゃ行くわよ」
そう言って一気にドアを開ける。
ジリリリリリリリリッッッッッ!!!!!!
「えうぅぅ〜〜」
想像以上の爆音だったんだろう栞が気絶する。
もう、だからあなたには無理ってさっき食堂で言ったのに。
かわいそうだけどあなたの骨を拾ってあげる余裕が無いの。
他のみんなも気絶はしないながらも耳を手で塞いで辛そうにする。
「これは本当に全員であたる必要がありますね」
「あう〜なんで名雪、こんな音の中で寝れるのよぅ」
「あははー音は辛いですけどこういうことするの楽しいですー」
「……佐祐理、そういう風に思えるのおかしい」
「うぐぅ、音で集中できないから高速移動できないよ」
……みんなできてよかったかもしれないわね。
「これで、最後!」
あたしが最後の目覚ましを止める。
「ふう、真琴当分動きたくない……」
あたしもかなり疲れた。
名雪、目覚まし買いすぎよ……
前に来たときよりも格段に増えているし。それも全部違う目覚ましだから驚きよ。
「けど、これはまだ前哨戦なんですよ。真琴」
「あははー肝心の名雪さんはまだ寝てますからね」
「ホントに祐一君って毎日こんなことしているの?」
「してるわよ。最近は音がなる前に全部消してるみたい」
「……尊敬に値する」
舞先輩の言葉に全員が頷いた。
「さて、これからが本番……なんだけど、もうあれから結構時間経ってるし、最終兵器を使います」
あたしが疲れきった声で言う。
「香里さん最終兵器って?」
「昨日相沢君から聞いたのよ。『名雪が確実に起きる目覚ましがある』って」
「それなら、はじめからそれを使っておきなさいよぅ」
「あたしもそれを言ったんだけど、『いや、本当に最終兵器なんだ。できるなら使いたくないほどの』って言って……」
「相沢さんが使いたくないほどって言うのは少し怖いですね……」
美汐ちゃんの言葉にで少し沈黙が降りる。
「けど、もう仕方ないじゃない。真琴、もうお腹へったし、早く済ませるわよぅ」
「そうね、じゃああたしちょっと取ってくるわ」
そう言って隣の相沢君の部屋に向かう。
「えっと、確か昨日聞いた話だとベッドの下に……あった、これね」
相沢君の部屋に入り目覚ましを見つける。
そして落ち着いたのか急に目のまわりの景色が見え出す。
え〜と、あたしはベッドの下を探っていたためしゃがんでいる。
ということはあたしの顔は当然床近くにあるし、ベッドのそばにある。
だから真正面を見たら目の前に相沢君の顔があってもおかしくはないのよね……
そう判断したとたん、血液が頭に上り顔が真っ赤になる。
相沢君の寝顔改めてみると可愛いし格好良いわね……
中性的な顔のつくりってずるいわね。相反するものが共存してるんだから。
あたしはつい見入ってしまう。
そしてちょっとずつ顔に近づいていく……
「香里さん、目覚まし見つかりました?」
佐祐理さんの部屋の外からの声で現実に戻る。
「あ、は、はい見つかりました。いまもって行きます」
あぶない、あたしったらもうちょっとあの声が遅かったら――してたかも……
「さて、はじめるわよ」
目覚ましをすぐに鳴るようにセットしながら言う。
みんながその声にOKサインを出す。
その中、舞先輩がものすごく疲れた顔をしているのが見える。
あたしが目覚ましを取りにいっている間、名雪を一応起こそうと頑張っていたらしい。
ご愁傷様です……
そしてセットが終わる。
「あと、10秒」
9、8、7、6、……3、2、1……
『甘くないジャムはいかがですか』
時が止まった……
「い、いらないよ!」
名雪が目覚める。
顔が真っ青だ。あたし達も多分同じ顔をしているんだろう。
実は美汐ちゃん、真琴ちゃん、あゆちゃんも昨日の夕食でジャムの餌食になってしまっている。
これがまだ餌食になっていなかったらこのセリフを聞いても大丈夫だったのに……
運が悪かったわね……
「もうみんなひどいよ〜」
着替えを済ませた名雪が頬を膨らませて言う。
「それはあなたがすぐ起きないからでしょ!今、何時だと思ってるのよ」
「けど、あの目覚ましは反則だよ」
「そうね……次、もし使うときがあれば耳栓をしておくわ」
ちなみにあの目覚ましは名雪が着替えている間に相沢君の部屋に戻しに行った。
「そう言う問題じゃないよ〜」
「それよりも、早く食堂に戻るわよ」
朝からかなり体力使って、もうお腹がなりそうよ。
「あ、あれ?お姉ちゃん、私一体何を?」
栞がようやく気絶から目覚めたみたい。
……今まですっかり存在を忘れてたわ。
「お母さん、おはよう〜」
「おはよう名雪。一人で起きれるように努力しなさい」
「努力はしてるよ〜」
努力“は”ね……
「話はいいから、もう真琴お腹ぺこぺこよぅ」
「そうね、さっきのはもう冷めてしまっていますから急いで作りなおしますね」
そう言って秋子さんは厨房に入っていった。
「はい、ご飯ですよ」
「え、早っ!」
「あ、驚きました♪実はもうそろそろかなと思いまして作っておいたんです」
そう言ってお茶目な顔で秋子さんがご飯を持ってきた。
「ごちそうさま〜」
「秋子女王、とても美味しかったです」
「そういってもらってうれしいですよ」
秋子さんが笑顔で言う。
「さてそれでは祐一さんがいないのが残念ですが、美汐さん、真琴さん、これからどうするんですか?」
「とりあえず相沢さんを連れて城に戻ります。ネロの件の報告もありますので」
「真琴、ご飯が美味しかったからもうちょっと居たかったけど」
相沢君をつれていくということでみんな驚きの声を上げる。
「心配しなくてもいいですよ。ちょっと相沢さんにやってもらうことをやってもらったら帰ってきます」
「やってもらうことって何なんですか?」
秋子さんが尋ねる。
美汐ちゃんは少し悩んだ顔を浮かべたけどすぐに話し出した。
「実は相沢さんには魔界の門の結界を張りなおしてもらうんです」
「結界ですか?」
「そうです。割合では人間との共存を望んでいる魔族の方が多いんですが、そうでない魔族もいます。
しかもそういう魔族に限って力が強いんです。
だから相沢さんが魔界の門に一定以上の力を持った魔族が通り抜けることができないよう、結界を張っているんです」
確かに魔界の門が開いた後でも深刻な被害はまったく出ていない。
それは結界があったからなのね。……って、それを張りなおすということは――
「今、その結界が破られたってこと!?」
「いえ、まだ大丈夫です。しかし破られかけている事は確かです。これを――」
そういって美汐ちゃんはポケットから壊れた水晶の欠片を出す。
「それって、今朝あたし達と戦う前に見ていた物よね」
「これは相沢さんからもらったもので魔界の門の結界と繋がっているんです。
それが壊れたということは、結界も壊れかけているということ。砕け散ったら、結界が壊れたことになるんです」
「なるほど、急に雰囲気が変わって佐祐理達と戦うことにしたのはそのためだったんですね」
「すいません、結界が壊れかけているとなると早急に相沢さんを探しださないといけなかったので……」
「……気にしないで」
「ありがとうございます。あ、そうです、全員とはいかないですけど魔王城に行ってみませんか?」
機嫌が良くなったのか美汐ちゃんが驚きの発言をする。
「え〜と、香里さん、舞さん、あゆさん、斉藤さん、一弥さんは行けますね。
他の方は今日のドラゴン以上の魔素が漂っている場所ですので、今のままでは厳しいですけど」
「美汐、それでも人間を連れて行くのは危なくない?」
真琴ちゃんの言葉でちょっと怖くなる。
「大丈夫ですよ。私達や相沢さんがいますから魔王を倒そうとやってくる勇者と間違われて戦闘になることはないはずです」
「戦闘があるんですか?」
「そうですね。平和のため、力試しや力の誇示のためやら理由は様々ですが魔王城に乗り込んでくる勇者の人達がいるので。
そうなるとやはり戦闘にならざるをえません。今の所、ちゃんと怪我の治療もして島の外に送り返しています」
「よかった、死者はいないんですね」
「秋子女王、当り前ですよ。そんな事があったら共存とか言い出しても話も聞いてくれなくなりかねませんから。
相沢さんからも人間とは極力戦闘はしないように言われてますし。それで話は戻しますけどどうします、一緒にきますか?」
美汐ちゃんの言葉で名前を挙げられた全員が悩む。
あたしも栞を置いていくのが少し気が引けた。
「お姉ちゃん、行ってきたら?私の事は気にしないで」
……あたしの考えている事はお見通しなのね。
「みなさん、行ってきたらどうですか?良い経験になると思いますよ。めったな事ではいけない場所ですから」
そして秋子さんのこの言葉が後押しをした。
「そうね、行ってみようかしら」
将来、世界中を旅しようと思っているなら本当に良い経験になると思うし。
「ボクも行くよ」
「俺も行ってみるか」
「……私も行ってみる」
「僕も行きます」
「解りました。では、一応明日出発の予定ですので準備をお願いします」
「わかったわ」
「それで真琴、もうちょっとここに居たいって言っていましたよね」
「言ってたけど、それがどうしたのよ」
「この先、幅広く勇者としてやっていくのなら魔素に慣れるのも必須事項となるはずですので。
真琴、ここに残ってその特訓の教官をやりませんか?まあ、残る方たちがその気がないのなら別ですけど」
美汐ちゃんが何か期待にみちた顔で言う。
「わたし、やるよ」
「佐祐理もやります!」
「このままだと美坂に釣り合う男になれないからな」
「僕もやるよ。父と同じ騎士団長を目指しているからね」
「私もお姉ちゃんに迷惑をかけたくないですから」
それぞれの言葉で美汐ちゃんが笑顔になる。
「真琴もいいわよ。これから当分ここの料理が食べれるんだったら、それくらい」
「よし、これで話がまとまりましたね。残るは――――」
<祐一視点>
「あ〜よく寝た」
ああ、体がだるい……
いくら呪いといってもかなりの時間寝ていると体がおかしくなるな……
それにしても夜か……まさか一弥と戦ったその日ってことはないだろうからその次の日あたりかな。
「ま、そんなことは誰かに聞いたらいいことだし。この時間ならみんな食堂にいるだろうから行ってみるか。腹減ったし」
そして食堂についた俺はこちらからの質問より先にこう言われた。
「相沢さん、魔王城に帰りますよ」
「はぇっ!?!?」
一体いきなりどうなっているんだ?
そう思わずにはいられなかった。
あとがき
と、いうわけで第29話でした。
祐一「今回はかなり早めに完成したな〜」
そうなんですよ。自分でも驚きのスピードでした。
特に名雪を起こす所は久々に楽しみながらも書けました。
祐一「けど、DSの遊戯王のゲームにはまらなかったらもっと早く出来ていただろ」
そ、それは日記に書いたことなんでここでは言わない方向でお願いします。
まさか、あそこまではまるとは思わなかったんですよ。
祐一「しかも、この間隔って他の方からすれば普通くらいのペースなのでは?」
ぐはぁ……そ、それを言ってはいかんですよ。
祐一「わ、わかったからそんないい年して泣きそうな顔をするな」
よし、なら今回の話だけどインターミッションみたいな感じになりました。
当初は名雪を起こすシーンなんて一切無かったんですが書いてる最中にふと思いつきました。
おかげでまた予定の場所まではいきませんでしたが、個人的にはかなり気に入る話数になりました。
あとは美汐が見せた水晶は19話の終わり付近で出てきました。けど1年半以上も前のことなので誰も覚えてはいないと思いますがw
それとあの最終兵器は1話で出てきたものです。これも忘れられてるでしょうね。
祐一「まあ、そんなこんなでまた次話で」
大喜びします。
SEO | [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送 | ||