バトルフィールドオブチルドレン

第28話 月明かりの決闘


「決闘!?」

「そうだ、今日のトーナメントの試合では納得いかない!」

 

街灯もなく、月明かりだけが照らしているものみの丘で一弥が俺に叫ぶ。

 

「ネロのせいで途中で中断してしまったからか?」

「それも無いわけじゃないが、違う。あの時、お前は本気を出していなかった!」

 

その言葉で何も言えなくなる。

 

「僕は姉さんが好きだ。けど姉弟だから結ばれる事はできない……だから僕は姉さんに相応しい人間しか認めない!
朝言った事も嘘じゃない。けどこれが本音だ。そしてそんな想いでお前に挑んだ僕にお前は手を抜いていた!」

「そ、それは……」

「もちろん、その右手を人前でさらすことが難しいのもわかる。だから今、こうしてもう一度お前に決闘を申し込んだんだ。
魔王の力をも解き放った相沢祐一に。そして僕は勝つ!!」

「……」

 

一弥の言った言葉一つ一つが俺に突き刺さる。

朝の試合のときから解っていた、一弥の想いが相当なものだということが。

けどあの大勢の前で魔王の右手の力を使う事は出来なかった……

いや、それ以前にその封印が解けそうになることさえ恐れて今までのアカデミー生活と同じく手を抜いていた。

その一弥がもう一度決闘を申し込んできているんだ。もう自分が魔王だということもばれている。

本気を出してもいいはずなのに、なのに何で躊躇われるんだ……

 

「どうした、相沢祐一。何を躊躇っているんだ。今度は俺が勝つと言っていたのは嘘だったのか?
それかもしかして魔王の力を使うのが卑怯だとか思ってるんじゃないだろうな!」

「!!!」

「……その顔を見ると図星かな。あの過去話を聞いた感じではその力を手に入れれたのが運が良かったぽいしね。
そんな偶然手に入れたもので戦うのが悪いかなとか思ってるんだろう。だったらふざけるんじゃない!
運だろうと偶然だろうと手に入れたものはその人の力だ!逆にそういう風に躊躇って守りたいものを守れなかった方が駄目だろう!」

「そうだな……」

 

俺は何を迷っていたんだ?一弥の言うとおりだ。

さっきだって思ってたじゃないか呪いや人に見られて恐れられるのが怖かったなんて言っていられないって。

俺には夢がある、そのためには力も必要だ。

 

「その決闘、受けるぞ。俺をやる気にさせたことを後悔させてやる」

「ようやくその気になったね。のぞむところだ!」

 

そして俺は初めて晴れ晴れした思いで右腕の封印を解いた。

 

 

 

<美汐視点>

 

「祐一いないよ〜」

「一弥もいません」

 

皆さんで夕食を食べに行こうとしたとき二人いないことが気づいた。

確か一弥さんは途中まで私たちと一緒に話していてたはずなんですがいつの間に……

そうこうしていると窓からふわぁっと夜風が流れてきた。

私はその中に知っている感覚を覚えた。

これは相沢さんの魔素……!

 

「美汐、これって」

「真琴も感じましたか」

「真琴さん、美汐さんどうしたんですか?」

「今、相沢さんの魔素を感じました。この感じからすると私達が戦ったあの丘で」

 

その言葉に私と真琴以外の人がはっとした顔をする。

 

「……もしかしたら一弥と戦ってるのかもしれない」

「あの子、かなり相沢君に執着していたしね」

 

皆さんがその意見で一致する。

 

「そうですか。なら、もしもに備えて少し経ったら行ってみましょうか」

「え、もしもって祐一さんが一弥さんを……」

「栞さんそれは大丈夫です。心配なのは相沢さん方です」

「ということは一弥くんが祐一君を?」

「あゆさん、それの方が先ほどのよりも大丈夫です。魔王の右手を解放した祐一さんに1対1で勝てる人間はいませんから」

 

まあ、噂どおりなら全盛期の秋子女王となら同等の戦いをしていたかもしれませんが。

でも、その程度なんですよね、相沢さんは。歴代の魔王の中で恐らく一番弱い。

けど、生まれ持った力からほとんど成長しない魔族とは違い人間は成長しますからこれから超えていくとは思いますが。

 

「それにもしもとは言ってますが杞憂に終わるとは思います。多分すぐに決着がつくと思いますし」

 

なにせ、殺気が混じってたとはいえドラゴンの魔素で動けなったのだから……

 

 

 

<一弥視点>

 

か、体が動かない……これが魔王の魔素なのか……

今朝のドラゴンとは段違いの濃さだ。体中に悪寒がはしってたまらない……

動け!動くんだ!

 

「一弥、動けないだろう?今朝のドラゴンと違って殺気は出してないが魔素は比べ物にならないほど濃いはずだからな」

 

そう言って相沢祐一が僕の方を見る。だけど、動く気配を見せない。

 

「どうした、何故仕掛けてこない」

「一弥がこの魔素の中でも動けるようになるまで待ってるのさ。このままお前が動けないままで俺が勝つのは納得できないからな。
まあ、さっきの言葉で俺はこの力の迷いが吹っ切れた、その借りを返していると思ってもらってもいいぞ」

 

そう言って相沢祐一が笑顔を見せる。

 

「大丈夫だ、一弥ならすぐに慣れる筈だ。それだけの強い意思があるのなら」

 

 

 

<美汐視点>

 

「う〜ん、魔素の反応が消えないですね」

「ねえ、美汐ちゃんわたしはその魔素がまったく感じられないんだけど」

「私や真琴は相沢さんの魔素を感じ続けてたから、相沢さんのみ微かな魔素でも感じる事が出来るんです」

「そうなんだ〜 じゃあ、わたしもいつかは感じるようになるんだぁ」

 

名雪さんが納得した顔をする。

 

「それにしても、もうそろそろあの丘に行った方がいいですね」

「さっき言ってた、もしもがあるかもしれないからか?」

 

北川さんが私に質問をする。

 

「はい、今で4分近く経ってますから、もう数分経つと……」

「あの、そのもしもってなんなんですか?佐祐理達にも教えて欲しいんですが」

「そうですね、皆さんなら話してもいいと思いますし。私と真琴が心配してるのは魔王の右手、それに憑いてる呪いなんです」

「呪い!?」

「そうです、私達はそう言っています。そしてそれはあの右腕はその宿主の理性を奪っていくというものなのです。
そして欲望のみに生きる野獣とかしてしまうのです。今日、相沢さんがありえない食事や眠りについたのはその呪いの為です」

「え、なんで理性が無くなって食事や睡眠になるんだ?」

「北川君、それは人間の三大欲は食欲・睡眠欲・性欲だからじゃない?」

「香里さん。そうです、そのとおりです。そして相沢さんは力の使う程度によって低い順から食欲・睡眠欲・性欲の権化になります」

「ということは、今までの魔王もその呪いに?」

 

佐祐理さんの言葉に他の人達もうなずく。

 

「はい、そして私達魔族の欲は支配欲と戦闘欲です。その為、はじめは相沢さんと同じ人間との協和を考えていた魔王も最後には……」

「……だったら祐一も!?」

「それは大丈夫です。相沢さんの場合は完全にそうなる前に右手の力を封印しているので。封印していると次第に元にもどりますから。
けど私達魔族には力が全てという世界観のため力の封印という観念が存在しなかったのです。
だから、相沢さんが右腕の力の封印をしたことで初めて呪いの効力もその間消える事がわかったんです」

 

私の言葉で皆さんほっとしたみたいです。

 

「さて、説明も一段落しましたし、相沢さんの所に行きましょうか」

 

 

 

 

<一弥視点>

 

相沢祐一が魔王の力を解放して3分ほど、僕はまだ動けないでいた。

悔しい、目の前に憎い相手がいるのに……

この相手が魔物とかならもう既に死んでいるはずなんだ。

 

「もうそろそろかな」

 

相沢祐一が小声でそう言った。

その瞬間、悪寒しか感じなかった魔素の淀みがすぅーっと薄くなっていった。

それに体が動く!

 

「よし、これで改めて決闘が始められるな」

「ああ、僕が動けるようになるまで待っていた事を後悔させてあげるよ」

 

そう言って、僕は剣を構えて一気に駆け出す。

魔王相手に様子見なんかしている暇なんか無い。

まずはあいつの動きを止める。

 

「アクアウォール」

 

相沢祐一の四方の地面から分厚い水の壁がせりあがる。

 

「何のつもりだ?一弥。こんな魔法くらい何の意味も無いぞ」

 

ふふっ、僕の意図に気づいてないな。

 

……今だっ!

相沢祐一が水の壁から右手を出した瞬間、僕はその壁にアイシクルブリザードをぶつける。

 

「これで右手を封じた上に動けないだろ!」

「くっ、水の壁は後で凍らす事で動きを止めるためか」

「そうだ、どうせすぐに壊されるとは思うけど一瞬でも隙ができればいける!」

 

相沢祐一の左に回りこみながらそう言った。

 

「もらった!」

「甘い!こっちにはまだ左手が残っているぞ」

「けど、僕のいる場所からでは左手は届かない」

 

そして僕は相沢祐一の腰に向かって水平に斬りかかる。

よし、これえで先制はとれたはずだ。

そう思った瞬間、氷壁が爆発したかのように吹き飛び、その破片が僕に襲い掛かる。

僕は反射的に攻撃を止め両手を眼前でクロスして防御する。

 

「くっ……」

 

無数の破片が僕の全身に軽い切り傷をつけていく。

一体どうして氷壁が……っ!

嫌な感じがしてとっさに後ろに飛ぶ。

すると僕が今までいたところに特大の稲妻が降りそそいだ。

 

「あ、危なかった……」

「お〜、よく避けたな」

 

声の方を向くと相沢祐一が氷片で僕と同じように軽い切り傷を負っていたけど悠然と立っていた。

 

「相沢祐一、いったい何をしたんだ」

「簡単な事だぞ。ただ単に殴って粉砕しただけ」

 

そう言って左手を軽くガッツポーズのような感じで僕に見せる。

 

「まあ、魔王の右手の解放で全体的に身体能力が上がってたことと、ちょっと気を拳に宿らせて破壊力は上げていたけどな」

 

厚さ20センチ以上あった氷壁を粉砕した事のどこが簡単な事だよと、心の中で舌打ちをする。

 

……それにしても魔王化は魔力が上がるだけではなかったのか。

そして気を操る事が出来るのも完全に予想外だ。

と、言うか気をそのまま体に宿らす事が出来る人がいるなんて思う事さえ普通ないし。

なんせ符術以外で気を使う技術は現代ではもう姿を消してしまっているから……

 

で、どうする。いないはずだったが現にこうして気を符術以外で使う人がいるわけだ。

剣術は今朝の大会の時でさえかなり読まれていた。身体能力が上がっている今では確実に避けられる。

だから魔法を上手に組み合わせないと……イメージが大事だ。

 

「さて、今度はこっちからいかせてもらうかな」

 

そう言って、ようやく相沢祐一が剣を構えた。

そして一気に駆け出してくる。

剣が振り下ろされる。

それを僕は剣で受け止める。

 

「くぅぅぅ……」

 

くっ、なんて重いんだ。受け止めるだけで精一杯じゃないか。

 

「お、やるな。なら……」

 

相沢祐一の右足が動く。

蹴りがくるとすぐにわかったが上からの剣圧で動く事が出来ない。

駄目だ……

 

「ぐはっ!」

 

モロに蹴りを受けた僕は後方に吹っ飛ばされる。

そしてそれに追い討ちをかけるように相沢祐一からフレイムボールが放たれる。

くっ、絶妙なタイミングだ、これも避けきる事ができない!

そして多分打ち消すほどの魔法も撃つ時間は無いみたいだ……

なら、少しでも相手にダメージを与えないと。

光を一点に収束させるイメージを、いつも姉さんが使っている時よりももっと。

 

「よし、レイビーム!」

 

僕の放った針のような光の光線が火の玉にぶつかる。

そしてその中心を貫いてその先へ――

 

「くっ!」

 

目の前に迫っているフレイムボールの向こう側から相沢祐一の苦痛の声が聞こえる。

よかった……当たったみたいだ。

あとは、これを耐え切るだけか……

そしてドゴォォッという爆発音と共に僕はさらに後方に吹っ飛ばされた。

 

「くぅぅ……」

 

何とか受身をとって、連撃がこないか注意を払う……がなにも無い。

 

手加減されている……

さっき、あれほどの追い討ちをかけることが出来たのにそれをしない事が証拠だ。

それにフレイムボールも威力が弱かった。

あれは意図的に威力を落としているに違いない。

多分僕を殺さないようにするためだろう……

聞いても恐らく相沢祐一はそう言うと簡単に予測できる。

けど逆をいうとそれだけの力で僕に勝てると思われているといる事だ。

 

単純に悔しかった。

単純にこの男に勝ちたいと思った。

けど、今のままじゃ勝てないという事も同時に感じていた。

諦めるか?

……そんなはずはない。

この戦いはそんな簡単に諦めるようなものじゃない。

たとえ勝てないと思っても最後まで戦わなきゃならない!

 

相沢祐一が悠然と立ってこちらを見ている。

 

「うわぁぁぉぉぉっっ!!」

 

僕は剣を構え、その男に向かって叫び突撃していった――

 

 

 

 

――それから数分後。

倒れた僕の額の先に相沢祐一の剣が突きつけられていた。

 

「僕の負けだ……」

 

圧倒的だった。結局あのレイビームからこの男に大きなダメージを与えることができなかった。

悔しいけどけど、なんかすっきりした気分でもある。

ここまでの強さなら姉さんを守ることができるだろうから。

 

「姉さんをお前に預ける」

 

この男の周りには姉さん以外にもこの男を好きな人がたくさんいる。

だから最終的に姉さんは選ばれないかもしれない。

そのときのために僕はこの男を超えれるように努力しよう。

そう心に誓った――

 

 

 

<祐一視点>

 

「姉さんをお前に預ける」

 

一弥の言葉が心に響く。

けど、俺はこの言葉を完全に受け止めることができない……

 

確かに佐祐理は好きだし大切な人だけど、それはあゆや名雪達にも言える。

それに俺はこの思いが愛なのかどうかがわからないんだ。

 

「祐一さーん」「祐一君〜」

 

そうしていると遠くから佐祐理さんやあゆの声が聞こえてくる。

やっぱり、天野や真琴に魔素の放出でばれてたか。

 

そしてそっちのほうを振り向こうとしたとき急激な眠気に襲われた……

 

朝のが完全に……治ってないのにまた力……を使ったせいだ……な、レベル2―睡眠欲―だ……

これは……丸一日くらい……寝て……しま……うか……も……

 

そして俺は夢の住人になった……


あとがき

やった〜書き終わった〜

祐一「お、今回は機嫌が良いじゃないか」

なんかね、いつもなら愚痴や言い訳や謝罪をしてるんだけど今回はそれを喜びが上回ってるんだよ〜

祐一「それは良かった、そして内容に入るが今回の俺ってものすごいダメダメじゃないか」

それはホントに祐一には悪い事をしたと思ってます。

私自身もあの凹みまくっている祐一のせいで書きにくくなって止まっちゃったからね……

とりあえず一弥にあの時祐一が本気を出していなかった!というセリフを言わせようと思ったのがこのような状態に。

おかげでスピーディーな戦闘にしようと思ってたのが心理描写が(作者的に)多めの話になってしまったんだよ。

祐一「おまけに俺の活躍薄いし」

とりあえず一弥の先ほどのセリフが決まってから今回のテーマは祐一の魔王の力に対するわだかまりを消す事と一弥の祐一に対する決着をつけようという事に決まってね。

祐一は初めの内にふっきれちゃったから必然的に一弥メインになっちゃって。

祐一の強さがやっぱりあんまり感じられなかったのは悪かったと思ってます。

それにしても北川にしても一弥にしても書いてるともの凄く親しみを持っちゃって困りました。

お陰で一方的に一弥を負けさす事が辛くなっちゃって途中の部分は時間経過で終わらせちゃいました。

というか今回の話自体元々は考えてなかったイレギュラーなものなんだよ。

祐一「一弥自体がイレギュラーだったしな」

そうなんだよ。

とここで話が変わりまして、物語に関係ない設定ということで前々話でお亡くなりになりましたファルス大臣のフルネーム紹介〜

祐一「え〜と、ファク・ファルスだったな」

そうですこれはギャラクシーエンジェルELのゲームの敵組織ヴァル・ファスクを元にしました。

そんな感じで次話をお楽しみに。

次こそは軽めのコメディ色がある話にするぞ〜

 

 

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