バトルフィールドオブチルドレン

第23話 祐一の過去 前編


<香里視点>

 

この人は何を言ってるの……

いきなり食事10人前以上って……

あたしは美汐さんが言った突然の一言に思考が止まる。

というかあたしだけじゃなくて全員止まってると思う。

そのことに気づいたのか少し顔を赤くして慌てて付け加える。

 

「相沢さんの今の状態を治すのに必要なんです。どこかありませんか」

「祐一さんに関係するんですか!」

 

あたしの後ろから佐祐理さんの声が聞こえる。

 

「はい、とにかくなるべく早くできる所を」

「あの、それならわたしの家ならできるはずだけど」

「えと……確か、名雪さんでしたね本当ですか!?」

「うん、大丈夫だよ!」

「それなら本当に急いで行きましょう、場所はどこですか?」

「あそこだけど」

 

そう言って名雪が城の方を指差す。

 

「えっ?えっ?あれってカノン城ですが……」

「そうだけど?」

「それって、もしかして……」

「わたし、これでも王女さまなんだよ」

 

その言葉で美汐さんが固まる。

それは普通は驚くでしょうね、王女がこんな戦闘するかもしれない所にくるなんて無いでしょうから。

けど、ここで時間を食っていて相沢君は大丈夫なのかしら?

さっきの話からすると大変危険なはずだけど……

そんな状態でいるとあたし達の所に向かってくる人達の気配がしてくる。

 

そして……

 

「誰かいるか!」

 

という声と共に現れたのはカノン王国の軍事に関する全権を持っているファルス大臣だった。

護衛のためか兵士を20〜30人ぐらい引き連れている。

そしてその大臣の姿を見て一番に反応したのは名雪だった。

小さい頃に父親を亡くした名雪にとってファルス大臣と倉田先輩のお父さんである倉田大臣が父親のような存在らしい。

前に名雪からそう聞いたことがある。

 

「ファルスのおじさん」

「おお、姫様ではないですか。何故このような所に」

「ちょっとね、それよりおじさんの方こそ何でこんな所に?」

「丘の頂上から大爆発が起こったのが見えまして、騎士団を派遣しようと思いましたら闘技場の魔物で手一杯。
仕方がないので私自ら直属の部下を引き連れて見に来た次第です」

「そうだったんだ……って、そうだおじさん祐一を城に急いで運んであげて!」

「相沢殿を?どうかなされたのかな?」

「そうなんだよ。だからお願い」

「わかりました。おい誰か、急いで相沢殿をお運びしろ!」

 

そして大臣の部下が丁重にそして素早くいつのまにか右腕に手袋をつけなおしている相沢君を運んでいく。

 

「では私達も城へ」

 

美汐さんがそれを見ながら言う。

 

「おや?あなた方二人は見かけない方ですがどなたかな?」

 

ファルス大臣が不審そうな顔で美汐さんと真琴さんを見る。

 

「相沢さんの友人です」

「……そうですか、まあわかりました」

「……なら急ごう、祐一が心配」

「そうね、急ぎましょう」

 

そう言ってあたし達は城に向かって走りだす。

そのためファルス大臣が苦虫をつぶしたような表情をしていたことに気がつかなかった……

 

 

 

 

「がつがつ……んぐんぐんぐ……おかわり!」

「す、すごいわね……」

 

相沢君が運ばれて城に着いてから大体遅れて2分後くらいにあたし達も城に着いて食堂に直行する。

そこで見たのはすでに空になった皿が3枚積んであり、そのうえまだものすごいスピードで食事をしている相沢君だった。

 

「こんなスピードであれだけの量を食べて大丈夫なんですか!?」

 

栞が心配そうに言う。

 

「心配しなくても祐一なら大丈夫よぅ。確か普通の人より胃液(?)が10倍近く出てるんだから」

「そして相沢さんが食べ終わるまでまだ時間がかかるはずなので今の間に何か簡単な質問は受けますが」

 

その言葉で美汐さんと真琴さん以外のみんなが一瞬硬直する。

そして無言になる、みんな怖いんだ相沢君のあの腕の事をいざ聞くのが。

あたしも含めて全員が相沢君のことを好きだというのは態度を見ててわかる。

そして相沢君がたとえ魔族だろうと好きだという思いは変わらないと思ってはいる。

思ってはいるけど、やはり怖いという感情は押さえられない。

 

「じゃあ、オレから質問で。あの相沢の腕ってなんなんだ?人狼の腕としか思えないけど……」

 

そんな時、後ろから北川君があたし達が聞けなかった質問をした。

そういえばいたのよね……北川君達。

何気にひどいことを思っているけど今はそんなこと気にしているときじゃないわね。

 

「あれはあなた達が思っているものであってます。魔人の腕です」

「じ、じゃあ、祐一さんは魔王……」

 

佐祐理さんが少し青ざめながら言う。

 

「はい、そうなります。けど魔族ではありません、腕のために完全とはいえないですが人間のままです」

「そうなの!」

 

思わず叫んでしまう。

 

「あらあら、なにやら大切なお話をなさっているようですね。私も聞かせて欲しいので場所を変えませんか?」

「えっ!」

 

美汐さん達を含めて全員がいきなり聞こえてきた声の方を向く、するとそこには秋子さんがいた。

 

「お母さん、いつからそこに?」

「ついさっきですよ」

 

全然気配がわからなかった……さすが秋子さんね。

 

「はじめまして、水瀬秋子女王様ですね。私、天野美汐といいます。お会いしたいと思っていました」

「あら、あなたがあの……いずれやってこられると思ってました」

「!!それはまた何故?」

「祐一さんが帰ってきたとき空腹で気絶しましてね、そのときにふとしたことで腕を見てしまったので」

「ということは相沢さんが魔王だと知っていてここに?」

「確信はありませんでしたが、一応そういうことになりますね」

 

その事実はあたし達を震撼させた。

 

「お母さん知ってたの!?なら、何で教えてくれなかったの!?」

「落ち着いてから言おうと思ってたのよ。すぐに言っても混乱を招くだけだろうから」

 

確かにそうよね……というかそんなことが知れ渡っていたらこの国で住めなくなるし。

 

「それじゃあ、場所を変えましょうか?」

「ちょっと待ってください、相沢さんがもうそろそろ食べ終わる頃だと思うので……ってものすごく寝そうな雰囲気になってますね」

「……寝た」

「はぁ、ああなると当分起きることは無いと思うので一足先に行きましょうか」

「では、こちらへ」

 

 

 

<美汐視点>

 

カノン王国の水瀬秋子女王……油断ならない人ですね。

今こうして私達をどこかへ案内していますけど、隙だらけじゃないですか。

先ほどの会話から私と真琴のことを知っている様子でしたしわざと隙を作っているようですね。

そうなると……試されていると考えた方が自然ですね。

自分を危険に晒してまでそんなことをするとは……

まあ、もともと争いに来たわけではないですし攻撃するようなことはありませんけど。

 

「着きましたこの部屋です」

 

秋子女王が連れてきた所は城の最上階で中心付近に位置する部屋だった。

大抵の城のこういう部屋って……しかもこの大きくて装飾品が散りばめられた豪華な扉があるということは……

 

「玉座の間……ですか」

「不審がらなくても大丈夫ですよ。大臣含め、国の要職に着いている方々はいますけど、
私の全てを賭けてあなた方に危害が及ぶようなことはさせませんから」

 

そういうことを言うということは中にいる方全員が私達の名前を知っているといって間違いないですね。

ということは名前を言ったとたん攻撃される可能性がありますが……

相沢さんの腕のことも知っていて黙っていた様子ですし、一応は信用してもいいですけど……

では、何故そんなところで話をするのでしょうか、誰にも聞かれない所でしたほうが効率がいいはずなのに。

これも私達を試しているのか……? いや、そこまでするのは危険すぎますね。

なにせこの国の中枢を担っている人たちがいるのですからデメリットの方が多いでしょう。

ということは聞かすことが目的……ですか?

 

それにしても、真琴が全くそんなことに気づかず八年ぶりの城を見てはしゃぎ気味なのが頭の痛いところですね。

 

そして私と真琴、相沢さんのご学友達が秋子女王の招きで玉座の間に入っていった。

 

 

 

 

 

<祐一視点>

 

「祐一まて〜」

「へへっ、名雪なんかに追いつかれるもんか」

 

あれっ?何で小さい名雪と俺がいるんだ?

……そうかこれは夢の中か。

俺の頭の上に真琴が乗っているところからして魔界の穴に落ちる直前の風景だな。

少し離れた所で親父や母さん、秋子さんが見守っている。

親父と母さんか懐かしいなぁ……

 

「名雪ちゃん持久力あるな、俺がいつも鍛えている祐一にあそこまでついていってるなんてな」

「あの子、走ることが好きみたいなので」

「あら、私はあの思い切り走ってる中、祐一の頭から落ちない真琴ちゃんが凄いと思うわ」

「ああ、祐一がこの前ものみの丘で拾ってきた怪我していた狐か、確かにな」

 

……ほのぼのしているなぁ。

 

そして俺の運命を変える瞬間がやってくる。

 

「おーい名雪ー、つかれてきたから少し休もうぜ」

「いいよ〜」

「よし、ならあそこの木陰でって……あれ、地面がうわぁぁぁぁぁぁーー!!」

「えっ、祐一ぃぃー」

 

毎年数回、この世界のどこかで偶然開く魔界への一方通行の穴がちょうどこの時俺の足元に発生した。

そこで魔界に落ちてしまった俺はその衝撃で意識を失ってしまうんだよな……

とそんなこと思いながら場面が人間界から魔界に変わっていく……

 


あとがき

さっそくですが、夏休みで続きは早く書けるかなと楽観的なことを考えていたら無理でした……

どちらかというと大学があった方が暇かなというくらいで。

とまあこんな感じで……ってあれ、祐一が出てこないな?

祐一「Zzzzzz……」

寝てるのか、なら今回は私一人で。

今回の話、時間がかかったわりに短めです。

もう少し長くしたかったのですがきりが悪くなりそうな予感がしたのでいったんここで切りました。

次回もこのまま祐一の夢で過去が語られていきます。

まだまだネロを雇っていた人の正体や祐一が苦しんだ理由など(なんか簡単に予想されそうだけど、というかばればれ?)いろいろ謎があるので

そこら辺を語って私の中で第1部終了的な感じになります。

というか展開遅いですよねぇ、まだ第一話から数えて3日目ですよ。

そんなことを思いながらまた次回で。

 

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