バトルフィールドオブチルドレン
第22話 ドラゴンを送り返せ
ゆっくりと心の中でイメージを作りながら封印を解除していく。
この封印を解除するのは約3年ぶりか……
最後に右手の手袋を外して魔王が持っているという人狼の右手が現れる。
そしてその瞬間、右手から全身にライカンスローブの血が巡っている様な感覚がやってきて、同時に力が漲ってくる。
久しぶりに感じるこの血沸き肉躍る感覚は少し快感だな、やっぱり。
そのせいか、全然そんな場面ではないのに笑みがこぼれる。
「さあ、早くケリをつけないとな……」
そしてそんな言葉まで出てくる。
……普段はあんまりそういうことは口にはしないんだけどな。
で、一応これで第七十五代目の魔王の登場というわけだ。
けど、落ち着いてはいるが本当に早く決着をつけないといけない。
この状態になった俺からは一応これでも魔王なので相当な魔素が体から放出されている。
魔族の真琴と天野、今まで魔物とかと何度も戦ったことがあるあゆは大丈夫だけど、それ以外のメンバーは魔素に慣れていない。
魔素は普通の人が浴びるとプレッシャーや嫌悪感を感じたり体が不調になったりする。
他の動物がモンスターに変化することだってあるのだからその効果は結構なものだ。
それが名雪や香里達に封印を解除してから浴び続けることになるのだから危険だ。
慣れた人ならそんな弊害はほとんど起きず、逆に相手の強さをある程度把握する手がかりにできるようになるんだけどな。
それと俺自身の体だな、ものすごい久しぶりの封印解除だからどの程度持つか……
「相沢さん、どうするつもりですか、もうこっちに目をつけられているので他の方々の復活も見込めませんよ」
気がついたら天野と真琴が俺の両脇にきていた。
「どうするって言ったってもう方法はアレしかないだろ」
「……そうですね」
「美汐ーアレって何?」
「ネロのしたことの逆をするんですよ。つまりこの魔法陣を使ってあれを魔界に追い返すんです」
「えー、戦わないの」
「この状況ではこっちが圧倒的に不利なの。真琴だってもうほとんど力残ってないだろ」
「う、うん」
「それにゴンドラゴンは魔界の絶滅危惧種でな、なるべく見つけたら保護するようにという法律があるんだよ」
「真琴、そんな法律知らないわよぅ」
「忘れてるだけだろ。まあ俺が魔王城を出る寸前に作った新しい法律だからな、まだあんまり浸透してないけど」
「そうなんだ」
「というわけで魔方陣を発動させるまで俺があいつを引きつけておくから頼んだぞ」
「任せておいてください。けど、あのドラゴンが魔界のどの場所から召喚されたか魔方陣に残ってる魔力から割り出す時間も含めて、
最低30分以上かかります。まあ、後ろの人達にも動けるようになり次第手伝ってもらうので実際の所はそれよりも短縮されます」
天野が不安げな顔で俺に言う。
俺は安心させるために笑顔で「大丈夫だ」と言って少し落ち着かせる。
そして自分に気合を入れてドラゴンに向かって駆け出す。
「と、勢い良く出てきたのはいいけど、どう対処しよう……」
保護するわけだからあまり攻撃するのもいけないしな。
「って、熱っっっ!!!」
しまった考え事している間に口から炎を吐かれてもう少しで黒こげだったぞ。
「よし、時間稼ぎなんだから回避に専念にしてやり過ごそう!」
動体視力と逃げ足だけは自信があるからな。
自分でこんなこと思っていて悲しいけど……
<美汐視点>
魔方陣に魔力を注入しながらネロの魔力の残りカスからあのドラゴンの元いた場所を割り出しにかかって約10分弱。
かなり疲れてきました……
先の戦闘で強力な式神を三体も出したのが響いてますね……
気の使いすぎで体力が減って集中できません。
真琴も私と同じく疲れてきているみたいですし。
もう、いったい後ろの方々はいつまで固まっているんでしょう!
このドラゴンからのプレッシャーや相沢さんの右腕、私達の事とか驚きの連続かもしれませんがこれでは全員が危険に……
と、思っているとようやく何人かの方が動けるようになってきたみたいです。
「ふぅ、ようやく動けるようになってきたわ、気持ちでは怖くないと思っているのに意識の奥ではやっぱり恐怖を感じているのね。
必死で体を動かそうとしているのに、ここまで動かなかったのは初めてだわ」
「……私も。それで美汐……だったよね、だいたいの話は聞こえてたから具体的にはどうしたらいい?」
「この魔法陣が発光するまで魔力を注入してください。調整の方は私と真琴でやりますので」
「……わかった」
そして先ほどの紹介で……確か、香里さんと舞さんの二人が魔方陣に向かって魔力を注入し始めました。
……やはり今の状況が危険だからといっても魔族の私の言うことを疑いもせずに手伝ってもらえるのってうれしいですね。
先ほどまでは敵同士だったのに、いくら相沢さんがある程度の説明はしてくれたとしても。
「うぐぅ、ボクも手伝うよ」
「俺も復活したぞ。いろいろと聞きたいことはあるが、まずはここを乗り切る方が先だからな、手伝うぜ。
それにしても、北川と久瀬はいつまで固まってるんだ。これぐらいのプレッシャーだったらお前らならもうそろそろ慣れるだろ」
「ぼ、僕だって動けるようになりたいさ……けどまだ、足の竦みが治まらないんだよ」
「オレもそうだ。くそっ、情けない……」
「美汐、解った?」
4人の方が手伝ってもらってそれほど経たない頃、真琴が私に言った。
「もう少しです……解りました。逆探知成功です」
ようやくこのドラゴンが何処からやってきたのかわかりました。
あとは、魔法陣を発動させれば……
と、思った瞬間、魔方陣が急に光はじめました。
そんな、もう魔力が溜まったのですか!
この人達……潜在能力がハンパじゃないかもしれませんね。
はっ、今はそんなことよりも……
「相沢さん、準備が整いました!」
はやく囮になっている相沢さんを助けないと。
<香里視点>
「魔方陣が光った!」
あゆちゃんの声と共に魔方陣が眩いばかりの光を放つ。
さっきはいきなり光ったからビックリしたけどかなり大きい魔方陣ね。
「相沢さん、準備が整いました!」
その言葉で相沢君がこっちにOKサインを出した。
笑顔だからまだ余裕はあるみたい。
そしてあたし達の後ろでは名雪、栞、倉田先輩、北川君、久瀬君、一弥君がまだ動けないでいる。
けどそれが普通だと思う。
最初のプレッシャーだけでも相当なものだったし。
相沢君の右腕が見えてからは異様な空気と共に体が重くなって、自分でも何で動けたのか不思議なくらいなんだから。
斉藤君がそれをこれぐらいのプレッシャーとか言ってたときは驚いたわ。
と、そんなことを思っていると相沢君が上手にドラゴンを誘導しながらこっちに向かってきている。
「さてそれではここから少し離れましょうか。魔方陣は遠隔で発動できますし、私達がここにいると相沢さんの邪魔になりますから」
美汐さんがそう言った。
「そうね」
というわけで手分けして栞達を少し離れたところに移動させて待つ。
「いいぞ、天野!」
そして移動して1分も経たないうちに魔方陣の中に誘導し終わる。
「いきます!」
相沢君の声を聞いて美汐さんが魔法陣を発動させる。
魔方陣から光が溢れ出しドラゴンが雄たけびをあげる。
そして光が収まったときには魔方陣の中にはドラゴンの姿はなくなっていた。
「……終わったの?」
「みたいだね」
あたしがふともらした言葉にあゆちゃんが言った。
その言葉で今まで張り詰めていた緊張が解けて少しめまいがした。
けどその向こうで相沢君が蹲り苦しんでいるのが見えてハッと意識を取り戻す。
その時にはもう美汐さんと真琴さんが相沢君の所で寄り添っていた。
その光景に少し悔しさを覚えながら近づく。
「くっ、うごぉぁぁ」
「腕を解放してからまだ30分も経っていないのにこの状況……魔王城を抜け出してからほとんど腕、使わなかったのですね」
「あ、ああ……」
「はあ、本当にあなたって人は……」
「祐一、それで今回のレベルは?」
「真琴、そんな微妙に期待した目で見るのはやめろよ……俺があの事を嫌いなのは知ってるだろ。今回はレベル1ぐらいだ」
「レベル1ですか、今の状況では一番難しいですね」
レベル1?何のことかしら。
聞こえてくる三人の会話からそんなことを思ってるとふらっと体が倒れそうになる。
ああ、ネロの大会潜入からこれまでのことで体が疲れきっていたのね……
と、その瞬間うしろから体を支えられる。
「名雪!」
「ごめんね、肝心なところで何も出来なくて。遅れたけど復活だよ、他のみんなも」
「気にしなくていいわよ、あたしだってあの状況で動けたのが不思議なくらいなんだから。それよりも今は……」
「祐一が心配だね。あの腕のことも気になるし」
「ええ」
そうこうしていると美汐さんがあたし達の方を見て急に深刻そうな顔をしてこう言った。
そしてこの場に合わないその言葉であたし達はまた一瞬固まることになる。
「今すぐ10前以上の食事を出せる所はありませんか?」
という言葉で……
あとがき
どうもマサUです。早くしようと思いながらもう2ヶ月、ようやく完成です。
もう「次は早く〜」とか言わないほうがいいな……
祐一「おう、作者」
なんか機嫌が悪そうだね、祐一。
祐一「当り前だろ。やっとここまで待って真の力を解放したのに結局逃げてるだけって」
いや〜それについては一番初めの段階(ネロの存在も無かったとき)ではまわりが疲れてる中、その力を使って敵を倒してたんだけど。
それはそのころの話が軽かったから出来たのですが今の状態では出来ないと判断しました。
詳しめで言うとはじめの頃は前に書いてある通り軽めだったので祐一がその力を使っても
「祐一は祐一だよ。そんなことで好きっていうことは変わらないよ」と出来たのですが、
今のちょっと真面目モードでは魔素の性質の上に力の強さを見せたら恐怖という感情を植え付けてしまい、
そうなると関係修復に時間がかかるかもと思い今回はその力を逃げのみに使わせてもらいました。
まだ今回のような感じならしっかりとした説明があれば何とか大丈夫かなと思うので。
だから簡単に言うとこれから過去話や説明が入る予定なので次の戦闘からは活躍できると思うぞ。
祐一「思うだけかよ!」
いや、だって先のことは分からんしょ。
祐一「ぬぅぅ……」
あと今回の話でキャラがたくさんいるとこんなに書きにくいものかと思いました。
正直5人ほど動けなくしたのはそのせいでもあります。
一応何故動けなかったとか逆に動けたのかとかは理由を考えています。
さすがにあまりあとがきを長くしたくないのでカットします。
祐一「本当に考えてるのか?」
さすがに今回は考えているぞ。
祐一「そういえば香里視点での天野と真琴の呼び方に違和感があるぞ」
それはまださっきまで敵だったし今も完全には味方かも分からないし仲良くもないしかといって……とかいってるとああなってしまったんだよ〜
祐一「おいおい、そんなことで半泣きになるなよ」
いや、自分でも違和感があるから……
祐一「……まあ、いじけてる人は置いといて。それでは第23話で」
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