バトルフィールドオブチルドレン

第19話 魔王の側近


「くぬぅぅ……」

 

香里の言った一言でネロが苦虫をつぶしたような顔をする。

 

「さてどうするの逃げる?でもそんなことさせないわよ。あなたはもう囲まれているのよ」

 

いつのまにかネロの周りに魔物との戦いを潜り抜けながら佐祐理さん、舞、栞、あゆ、久瀬、斎藤、一弥が集まっていた。

 

「空から逃げようとしてもボクがもう逃がさないよ」

「下から狙い撃ちにしてあげます」

「……前回のような逃げ方は通用しない」

 

もう包囲網完璧だな。

 

「これは絶体絶命ですねぇ……(昨日の今日ではグラビティも通用しないでしょうし)」

「さあ、これでクライアントの名前を吐いてもらうわよ」

 

香里がネロに詰め寄る。

 

そのとき、いきなり俺は目の前が暗くなった。

足がふらついて倒れそうになる。

肩からの出血が思ったよりひどかったみたいだ……

意識が朦朧とする。

 

「祐一!」

 

名雪がそんな俺の状態に気がついて叫ぶ。

ダメだ名雪、今そんなこと言ったら……

 

他のみんながその声に反応して俺のほうを見る。

そしてその隙を逃さず、ネロが退却してしまった。

その逃げていく後姿を見ながら俺は意識を完全に失ってしまった……

 

 

<香里視点>

 

「祐一!」

 

あたしがネロに詰め寄っていたら後ろから名雪の叫び声が聞こえた。

あたしは急いで振り返ってみると、顔が青くなって肩を手で押さえながら今にも倒れそうな相沢君が見えた。

今の試合の怪我、治してきてなかったの。

 

あたしは驚いて相沢君に駆け寄ろうとするが、そのとき何かが駆け出す音が聞こえた。

しまった!

気づいたときにはもう遅くてネロはあたし達の包囲網を抜けて逃げ去ってしまった。

 

けど、今回は絶対に逃がさないわよ。

これ以上友達が危険に晒されるのを見たくないから。

 

あいつが逃げた方向を考えるとこの町を見渡せるものみの丘の方ね。

そう判断してあたしは駆け出そうとする。

 

「お姉ちゃんどこ行くの」

「あいつを追いかけるのよ」

「危険だよ!」

「どうせここを卒業した後は旅に出ようと思っていたのよ。これぐらいの危険を乗り越えてられないとやっていけないわよ」

「なら私も行きます」

「栞!」

「お姉ちゃん、意外に頑固だから止めても無駄なのはわかってるから。なら私もついていってお姉ちゃんをサポートします」

「ありがとう……栞、行くわよ」

「うん」

 

栞がそう言って一緒に行こうとすると横からも声がした。

 

「……私も行く」

「佐祐理もです」

「ボクも行くよ」

 

先輩達……あゆちゃん……

 

「わたしも」

「名雪はだめ、あなたは狙われてるのよ。名雪は相沢君を医療班に連れて行ってあげて。それじゃあたし達は行きましょう」

「美坂君、僕達は北川君を探して出してからそっちに向かうよ」

「分かったわ」

 

そしてあたし達はものみの丘に向かって走り出した。

 

 

 

 

<ネロ視点>

 

「ふぅ……ここまでくればひとまず安心でしょう」

 

ワタシはどこかの丘にたどり着いて一息入れる。

くそっ、まさかこのワタシがここまでコケにされるなんて。

 

「とりあえずここはいったんクライアントの所に戻って体勢を立て直し無いといけませんねぇ」

「その必要はありません」

「どこから……木の上ですか!」

 

ワタシは丘の頂上に一本だけ生えている木の上を見上げる。

そこには二人組の少女が枝の上に立っていた。

そしてその二人組はそこから飛び降りる。

一人はショートカットでもう一人はツインテールの少女だった。

ワタシはその二人の顔に見覚えがあって驚く。

 

「まさかあなた方は!……そうか、そうですか、ワタシも有名になったものですねぇ」

「はい、もうかなり有名ですよ。で、どうやら何故私たちがここにやってきたかわかっているようですね」

「ワタシの今までの行為―仕事―を悔い改めさせるかそれを拒否したら殺すか」

「その通りです。それでネロ、あなたの答えは」

 

向こうがプレッシャーを与えながら話し掛けてくる。

このままだと先程以上に逃げれる可能性は薄いですねぇ……

 

けど……

 

「これでもワタシはこの仕事にプライドを持っているので答えはNOですねぇ」

「そうですか、では死んでもらいます」

 

戦闘体勢に入る。

さてどうやってここから逃げ出しましょうか……

そう思って隙を窺っていると『どすっ』と背中に何か当たる衝撃が入る。

何だ?と思ったらワタシの腹から爪を装備している手が出ているのが見えた。

そしてその瞬間、口から血を吐く。

後ろを見るとツインテールの方がいた。

けど前を見るとそこにもツインテールがいる。

 

「まさか、幻……」

「私は本物ですけどね。パートナーの方は始めから幻であなたの後ろに待機していたのですよ」

「ワ、ワタシとしたことが……こ、こんなことで……」

 

こちらに誰かが近づいてくるのを感じながらワタシは意識を失った。

 

 

 

 

 

 

<香里視点>

 

「あともう少しでものみの丘ね」

 

あたし達5人はあれから全力でものみの丘まで走り続けていた。

結構疲れてきたわ……横で飛んでいるあゆちゃんとそれに乗っている我が妹がちょっと羨ましい。

栞は昔、かなりひどい病気にかかっていて、それが治った今でも体がちょっと弱いから仕方がないのだけれど。

 

「香里ー」

 

そうしていると後ろから聞き覚えのある少し間延びした声が聞こえてきた。

まさか……

 

「名雪!」

「ようやく追いついたよー」

 

あたし達のほぼ全力疾走に追いつくなんて、さすが陸上部部長……て今はそんなこと気にしてるときじゃない。

 

「どうしてあれだけきたらダメって言ったのに何故ついてきたの、それに相沢君は」

「祐一は久瀬君のお父さんが医療班に連れていってくれたよ」

「久瀬君のお父さん……騎士団長さんか」

「それにわたしのせいでみんなが危険に晒されるのにわたしだけ安全な場所にいてるなんて出来ないよ」

「…………」

 

名雪とにらみ合う。

 

「…………」

「………………はぁ、分かったわ」

「ありがとう香里」

「いいんですか、香里さん」

「ええ、言っても聞かないみたいですし。大丈夫ですよ、あの娘自身も十分強いですし、それにあたしが絶対に守りますから」

 

 

そしてそんなことがあってようやくたどり着いた丘の上であたし達が見たものは……

あたし達と同じぐらいの年齢の片方はショートカット、もう一人はツインテールの少女二人と、

そのツインテールの少女の方に串刺しにされて今にも事切れそうなネロの姿だった。

 

あたし達のことに気がついたのかツインテールの少女が爪を引き抜いてもう一人の少女と共にこちらを見る。

あまりのことで驚きながらも剣を構える。

 

「そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ。私達はあなた方に危害を加える気はありませんから」

 

ショートカットの方が話し掛けてきた。

 

「あなた達は何者、そしてネロを倒した目的は」

「そうですね自己紹介をしておきましょうか。私の名前は天野美汐、そっちにいるのが私のパートナーで」

「沢渡真琴よ」

「天野美汐に沢渡真琴!」

 

二人の名前を聞いて倉田先輩が叫ぶ。

 

「……佐祐理どうしたの」

「さ、佐祐理、お父様からその名前を聞いたことがあります。たしか現魔王の側近だと」

「ま、魔王の側近!」

 

それを聞いて真琴という娘が自慢げに胸を張った。

確かに大物ね、けど……

 

「ぜんぜん強そうには見えないわね」

「うん、なんだろうプレッシャーが無いんだよね」

 

あたしに続いてあゆちゃんが言う。

 

「な、なによぅ、言ってくれるじゃない」

「真琴だめですよ。それで先ほどの続きですがネロのことはそれが今回の私達の仕事だからです」

「仕事?」

「そうです。それで仕事の方も先程終わりました。そしてここからは私用で一つあなた達に聞きたいことがあるのです。
あ、そんなに警戒されなくても大丈夫です、単なる人探しですから。相沢祐一という人を知りませんか?」

 

あ、相沢君!

 

あたし達は自分達の想い人の名前が魔王の側近の口から聞けるとは思わず驚いて声がでなくなる。

 

「その顔だとどうやら知っているようですね。教えてもらえないでしょうか」

 

穏やかな口調で話し掛けてくる。本当に危害を加える気は無いみたいね。

どうする、そうは見えなくても魔王の側近。

けどなぜかしら、あたしの中の女の勘が絶対に言ってはいけないと言っている。

他のみんなもそうらしく、悩んだ顔をしている。

 

「あ、あなた達と祐一さんの関係はなんなんですか」

 

そんな中、栞が言った。

 

「そんなこと分かりきっていることじゃない。男と女の関係よぅ」

「なっ……」

 

またも言葉を失う。

今日はやたらと驚いたりする日ね。

そしてあたしの勘は当たっていた。

けど、そんなこと。

 

「信じられないわね」

 

あたしの場合は相沢君のことを好きになってからここ半年間いろいろアプローチをしていたのに全く気がつかなかった。

そんな相沢君と男と女の関係になっている女が二人もいるわけないじゃない。

 

「そんなこと祐一と直接あって確かめればいいじゃない」

「そうね、あなた達が帰ったあとでゆ〜っくりと相沢君から聞いてみるわ」

「……どうやらあたし達に教えてくれる気は無いようね。どうする美汐?」

「最初はこう言われたらすぐに帰る予定でしたが、たった今、事情が変わりました」

 

そう言って美汐という娘が自分の掌を見る。

そこには壊れた小さい水晶の破片があった。

 

「なので、悪いのですが、実力を持って教えていただくことにします」

 

そう言うと同時に美汐からさっきまでの穏やかな雰囲気とは変わって異様な雰囲気が満ちてきてそれと共に殺気が膨れ上がる。

そして続いて真琴からも同じような現象が起きる。

これは、想像以上にやばいわね。

 

そして6対2の対決が始まった。


あとがき

どうもマサUです。

最近これが月1でしか更新できてないことに気づいて(かなり遅いですが)もうちょっとペースをあげないとなと思っています。

祐一「おい」

ぬおっ、いきなり現れたから驚いたじゃないか。

祐一「俺の活躍が無いじゃないか」

しょーがないでしょ、いきなり香里達といっしょにいて美汐達にあったら命無かったよ。

祐一「うっ、そう言われればそうだが」

そんなことよりも今回はいつも以上に難産でした……

祐一「そんなこととはどういうことだ」

そんなこんなで今回のは少し中途半端無いなっているかもしれません。個人的には頑張ったのですが。

祐一「無視ですか……北川扱い……」

ちなみに15話の最後に出てきた二人組みは真琴と美汐です。

というわけで次回予告のようなものを、

香里達と美汐達との戦いの決着は?美汐達と祐一の関係は?ネロの生死は?次回「魔王降臨」お楽しみに。

 

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